【温泉スローライフ…?】異世界の島に追放された俺、現代知識で無双して温泉旅館の支配人に成り上がるも、忙しすぎてスローライフができない!

猫舌サツキ

第1話 無能な俺、異世界で島流しにされる

「お前は無能だ!世間知らずの、大バカ者だ!!」


 俺はある日突然、異世界の使用人に転生した。


 しかし、貴族様から無能扱いされ、島流しにされてしまった。


 特殊な能力も、最強チート武器もなし。


 あるのは、少々の仕事経験と、雑多な現代知識だけだ……





「はぁ、はぁ……マジでキツい……」


 呼吸が荒くなる。


 俺は【アリマ】。


 元会社員の22歳、今日も元気に、火山島の鉱山で重いトロッコを押して働いています。


 理由はもちろん、金がないから。


 働いてお金を稼がないと生きていけないのは、現実の世界も、異世界も同じだったということ。


「頑張ってや、アリマくん~」


 魔法の鉱石を積んで行ったり来たりする俺を応援してくれたのは、現場監督を務める【アナスタシア】さん。


 太陽の光のように輝く金髪。透き通るような白い肌、そして、尖った耳が特徴の美人エルフだ。


 なぜか関西弁である。


「あと二往復したら今日のノルマ達成やから、もうちょい頑張ってな~」


「は、はい……頑張ります」


 現代日本人には、長時間、超危険、超重労働の鉱山仕事はキツすぎる。


 腰も痛いし、腕や脚はパンパンだ。


 異世界にも、労働基準法と労災保険を!!





「はぁ、やっと終わった……今日のノルマ」


 今日も、なんとか仕事を終えることができた。


 坑道から出て、荒い息を整えていると、目の前に冷たい瓶が差し出された。


「お疲れさん、アリマくん。ほい、いつものや」


「あ、ありがとうございます、アナスタシア監督」


 アナスタシアさんから受け取ったのは、牛乳だった。


 白いガラス瓶の外側には、水滴がポツポツと付いている。


「ぷはー! 生き返る……!」


 俺は腰に手をあてて、牛乳を一気に飲み干した。


 濃くて甘くて冷たいミルクが喉を流れ、一日の疲れを吹き飛ばしてくれた。


「これがあるから、この仕事、辞められませんよ」


「なんや、アリマくん。ウチの顔とちゃうんかいな」


 アナスタシア監督はクスクスと笑った。


 金髪の美人なエルフが関西弁で冗談を言う光景は、目の保養になる。


「もちろん、監督の美しい笑顔も、俺の生きがいです!」


「ほんまかぁ?調子のええこと言うなぁ。まぁええわ、ウチは正直な男は嫌いやないで~」


 そう言って、アナスタシア監督も俺の真似をして、腰に手を当てて牛乳を飲んだ。


「そやけど、アリマくん。君、ホンマはもっとええ仕事できるんちゃう?」


 アナスタシア監督が、ふと真面目な顔つきになる。


「え?」


「君、前職は貴族の使用人やったんやろ? 無能とか言われて追放されたって聞いたけど、ウチにはそうは見えへんわ。普通に頭ええし、仕事も丁寧やし」


「ありがとうございます。でも、この島に俺ができる仕事なんて、これくらいしか……」


 魔法も剣術もロクに使えない俺が、鉱山労働以上のまともな仕事を見つけるのは難しい。


 俺はふと、作業中に気になっていたことを尋ねた。


「そういえば、アナスタシア監督。この坑道の下の方、いつも温かい水が流れているんですけど、あれは何ですか?」


 見下ろす先には、温かい水が轟々と流れている。


 白い湯気がモクモクと立ち昇っているため、温度は高そうだ。


「ああ、あれな。この島は見ての通り火山島やろ? だから、地下にはあちこち熱水が湧いてるんよ。魔法の鉱石の採掘の邪魔にもなるし、坑道に湿気がこもるしで、ただの『使い道のない熱湯』ってとこやな」


 アナスタシア監督は、ため息まじりにそう答えた。


 待て、それって【温泉】では?


 「使い道のない熱湯」?


 とんでもない!


 現代日本で培った知識と、俺を追放した貴族への復讐心、そして、海の上にポツンと浮かぶこの島でのスローライフへの憧れ。


 それら全てが一つの答えを導き出した。


――俺は、この異世界で、温泉を作る!


「アナスタシア監督、俺の夢を手伝ってくれませんか?」


 俺は、アナスタシアの空色の瞳をまっすぐ見つめて熱意を伝える。


「な、なんや急に元気になって……牛乳がそんなにおいしかったんか?」


 アナスタシア監督は困惑しつつ「まあ、ええよ。何がしたいん?」と聞いてくれた。


「あの湧き出る熱水を使って、温泉を作るんです!」


「オンセン?なんや、それ?」


 アナスタシア監督は、小首をかしげた。


「俺が元いた世界の習慣なんですけど、湧き出る温かい湯に体を浸けてリラックスするんですよ。そんな【温泉】を、この鉱山の入口に作ったら、みんなで使えるかなって……」


「なんかよく分からんけど、面白そうやん」


 アナスタシア監督は、目を輝かせた。


 どうやら、俺の突拍子のない夢を本気で聞いてくれるらしい。


「まず、あそこに流れているお湯をせき止めるための工事が必要ですね」


「ずいぶん大がかりな作業になりそうやなぁ。ウチの部下にも相談しておこうか?」


「ありがとうございます!ぜひ、よろしくお願いします!」


 異世界で温泉旅館を経営して、島のみんなでのんびりスローライフを送る。


……そんな夢が、火山島の地下で、ひそかに始動した。

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