【温泉スローライフ…?】異世界の島に追放された俺、現代知識で無双して温泉旅館の支配人に成り上がるも、忙しすぎてスローライフができない!
猫舌サツキ
第1話 無能な俺、異世界で島流しにされる
「お前は無能だ!世間知らずの、大バカ者だ!!」
俺はある日突然、異世界の使用人に転生した。
しかし、貴族様から無能扱いされ、島流しにされてしまった。
特殊な能力も、最強チート武器もなし。
あるのは、少々の仕事経験と、雑多な現代知識だけだ……
♢
「はぁ、はぁ……マジでキツい……」
呼吸が荒くなる。
俺は【アリマ】。
元会社員の22歳、今日も元気に、火山島の鉱山で重いトロッコを押して働いています。
理由はもちろん、金がないから。
働いてお金を稼がないと生きていけないのは、現実の世界も、異世界も同じだったということ。
「頑張ってや、アリマくん~」
魔法の鉱石を積んで行ったり来たりする俺を応援してくれたのは、現場監督を務める【アナスタシア】さん。
太陽の光のように輝く金髪。透き通るような白い肌、そして、尖った耳が特徴の美人エルフだ。
なぜか関西弁である。
「あと二往復したら今日のノルマ達成やから、もうちょい頑張ってな~」
「は、はい……頑張ります」
現代日本人には、長時間、超危険、超重労働の鉱山仕事はキツすぎる。
腰も痛いし、腕や脚はパンパンだ。
異世界にも、労働基準法と労災保険を!!
♢
「はぁ、やっと終わった……今日のノルマ」
今日も、なんとか仕事を終えることができた。
坑道から出て、荒い息を整えていると、目の前に冷たい瓶が差し出された。
「お疲れさん、アリマくん。ほい、いつものや」
「あ、ありがとうございます、アナスタシア監督」
アナスタシアさんから受け取ったのは、牛乳だった。
白いガラス瓶の外側には、水滴がポツポツと付いている。
「ぷはー! 生き返る……!」
俺は腰に手をあてて、牛乳を一気に飲み干した。
濃くて甘くて冷たいミルクが喉を流れ、一日の疲れを吹き飛ばしてくれた。
「これがあるから、この仕事、辞められませんよ」
「なんや、アリマくん。ウチの顔とちゃうんかいな」
アナスタシア監督はクスクスと笑った。
金髪の美人なエルフが関西弁で冗談を言う光景は、目の保養になる。
「もちろん、監督の美しい笑顔も、俺の生きがいです!」
「ほんまかぁ?調子のええこと言うなぁ。まぁええわ、ウチは正直な男は嫌いやないで~」
そう言って、アナスタシア監督も俺の真似をして、腰に手を当てて牛乳を飲んだ。
「そやけど、アリマくん。君、ホンマはもっとええ仕事できるんちゃう?」
アナスタシア監督が、ふと真面目な顔つきになる。
「え?」
「君、前職は貴族の使用人やったんやろ? 無能とか言われて追放されたって聞いたけど、ウチにはそうは見えへんわ。普通に頭ええし、仕事も丁寧やし」
「ありがとうございます。でも、この島に俺ができる仕事なんて、これくらいしか……」
魔法も剣術もロクに使えない俺が、鉱山労働以上のまともな仕事を見つけるのは難しい。
俺はふと、作業中に気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、アナスタシア監督。この坑道の下の方、いつも温かい水が流れているんですけど、あれは何ですか?」
見下ろす先には、温かい水が轟々と流れている。
白い湯気がモクモクと立ち昇っているため、温度は高そうだ。
「ああ、あれな。この島は見ての通り火山島やろ? だから、地下にはあちこち熱水が湧いてるんよ。魔法の鉱石の採掘の邪魔にもなるし、坑道に湿気がこもるしで、ただの『使い道のない熱湯』ってとこやな」
アナスタシア監督は、ため息まじりにそう答えた。
待て、それって【温泉】では?
「使い道のない熱湯」?
とんでもない!
現代日本で培った知識と、俺を追放した貴族への復讐心、そして、海の上にポツンと浮かぶこの島でのスローライフへの憧れ。
それら全てが一つの答えを導き出した。
――俺は、この異世界で、温泉を作る!
「アナスタシア監督、俺の夢を手伝ってくれませんか?」
俺は、アナスタシアの空色の瞳をまっすぐ見つめて熱意を伝える。
「な、なんや急に元気になって……牛乳がそんなにおいしかったんか?」
アナスタシア監督は困惑しつつ「まあ、ええよ。何がしたいん?」と聞いてくれた。
「あの湧き出る熱水を使って、温泉を作るんです!」
「オンセン?なんや、それ?」
アナスタシア監督は、小首をかしげた。
「俺が元いた世界の習慣なんですけど、湧き出る温かい湯に体を浸けてリラックスするんですよ。そんな【温泉】を、この鉱山の入口に作ったら、みんなで使えるかなって……」
「なんかよく分からんけど、面白そうやん」
アナスタシア監督は、目を輝かせた。
どうやら、俺の突拍子のない夢を本気で聞いてくれるらしい。
「まず、あそこに流れているお湯をせき止めるための工事が必要ですね」
「ずいぶん大がかりな作業になりそうやなぁ。ウチの部下にも相談しておこうか?」
「ありがとうございます!ぜひ、よろしくお願いします!」
異世界で温泉旅館を経営して、島のみんなでのんびりスローライフを送る。
……そんな夢が、火山島の地下で、ひそかに始動した。
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