第5話 知り合いにどつかれた件

 


 配信を終わらせた後知り合いから連絡が届いた。

 たまたまスマホで作業をしていたタイミングだったためすぐに出ることが出来たが、どうやらいろいろ話したいことがあるから久しぶりに俺が拠点にしている場所に来たいらしい。

 さすがに常にそこにいるとは思っていないとのことで、時間を決めてその時は拠点で待つことになった。


 そんなこんなで少々待ち合わせの時間から遅れはしたが、その知り合いが到着した。


「本当によくこんな場所に住んでいられるわよね」


 見るからに出来るキャリアウーマンといったスーツを着た黒髪ロングの知り合いの女は会って早々、開口一番にそう宣いながら俺の拠点の中を見回し始める。

 

「言い方よ。もう少しマイルドに言ってくれると助かるんだが」

「あなたはそんなこと一切気にしていないでしょ」

「まあそうだが」


 気にしていたらダンジョンの中になんて拠点を作ろうとは思わないわな。


「前にも聞いたけど、どうしてダンジョンの中に家を作ってそれが無くならないのかわからないわね。他にダンジョンの中に家を建てたって話は聞いたことがないし、本当にどうなっているのかしら」

「普通に建てただけだぞ。と言っても使っているのはダンジョンの中で取れた素材しか使っていないけどな」


 これまではダンジョン内に物を設置したり、拠点を構えようとするといつの間にか消えてしまうという現象が起きていた。

 そのせいでいまだにダンジョンの中にはものを設置できないと信じている奴らが多いようだが、実際はダンジョン内で採取出来た素材をダンジョン内に充満している魔力で加工することで、ダンジョンから異物扱いを受けずに建造物が維持できるようになるわけだ。


「ダンジョンの魔力を使うんだったかしら」

「ああ」


 短くそう答えると呆れたように美穂みほがため息をついた。


「あなたは簡単に言うけど、自分の魔力ではなくダンジョンの魔力、要は周囲の魔力を弄るって相当難しいことなのよ? 実際にあなたと同じことが出来る人が世界で何人いるか」

「そんなの知らん。やったらできたんだから、俺以外のやつが出来ない方がおかしい」

「明らかにバグってるあなたを基準に言うんじゃないわよ」

「そんなことないと思うけどなぁ」


 あからさまに呆れたと言った美穂の言葉に軽く反論しておく。


 本当にひどい言い草だ。大したスキルも持ってない俺でもできるんだから、ちゃんとしたスキルを持っている奴らならそう難しくはないと思うんだよな。


「それで今回の本題はなんだ?」


 美穂がここまで来るということは何か用事があるのは間違いない。電話越しでは何も教えてくれなかったが、到着した時の様子を思い返す限り前と同じように苦情か何かだろうか。


「そうだった。この前の配信のことよ」

「配信?」


 言葉から若干の棘を感じられるので苦情で間違いなさそうだが。はて。この前の配信で俺は何かおかしなことをしたのだろうか。


 記憶を辿っても何かおかしなことをしたという認識はない。あの時はただ、どうして登録者が増えているのかを聞いただけだし、それ以上のことをしていない……はずだ。


「中途半端な状態で配信を終わらせたでしょ!」

「いや? しっかり目的は達成したから中途半端ではないぞ」

「それはすぐるの視点だからでしょう。見ている側からしたら突然配信が始まってこれからだと思ったところで配信が終わったのよ」

「ふむ」


 まあ、確かに見ている側からすればそうかもしれないな。だが、あの配信をしているのは俺であって内容を決める権利も俺にあるはずだ。


「だから何だって顔しているけど、もう優がすっきりすれば終わりって状況じゃなくなっているのよ」

「どういうことだ?」

「優の配信が話題になりすぎて収拾が付かなくなっているってこと」


 それの何が悪いのか。騒ぎたい奴が勝手に騒いでいるだけなんだから、適当に放置していれば勝手に落ち着いていくと思うが。


「そういうのは放置でよくないか?」

「放置してどうにかなるなら私はここまで来ていないわ。あの配信のせいで、ギルドの方に優に関する問い合わせが殺到してるってここに来る途中で連絡が来たし、このまま放っておくともっと面倒なことになるのは目に見えてるの。だから優だけがすっきりすれば済む問題じゃなくなっているのよ」


 美穂は頭痛でもあるのか頭を押さえながらそう言う。


「へぇ」

「へぇ……じゃないわよ!」


 いまいちそうなる理由が分からず、生返事のようになってしまったことで美穂は適当に返事をされたと思ったのか、少し声を荒げながら俺の腰あたりをどついて来た。


「痛っ」


 どつかれた俺ではなく、どついた方の美穂が痛みを感じたらしく、どついた方の拳をさすっている。


「なんか体を殴った感じじゃなかったんだけど」

「ん? ああ、ちょうどスマホを入れていた場所だったからな」


 そう言ってどつかれた場所に在った内ポケットの中から、画面が割れているスマホを取り出す。どつかれた際に少し嫌な音が聞こえたがやはりこうなってしまったか。


「え、うそ、ごめんなさい。まさか優がスマホを身に着けているなんて思ってなかった」


 昔からスマホを身に着けないことを指摘されていたからなぁ。今も必要がなければ持ち歩くことはないし、俺がスマホを身に着けていることが美穂にとっては想定外だったのだろう。


「美穂から連絡が来るかもと持っていたんだが、まあ大丈夫だ。しばらく買い換えていなかったし、ちょうどいいから買い換えるさ」


 金に関しては問題ない。あるとすれば中に入っているデータがサルベージできるか否かだが、まあ壊れたのは画面だけのようだし、専用の機械さえあれば問題なくできるだろうな。

 

 俺のスマホを壊してしまったことで少しパニックになっている美穂をなだめながらいくらか話を聞いていく。

 

 美穂が言うにはこのまま放置しておくと、変に嗅ぎまわる連中が現れかねないということだった。

 そんなことが起こるのか、とも思ったが過去に似たような事例が発生しているらしく、このままいくと同じようなことが起きかねないらしい。


「とりあえずスマホは後で弁償するとして、とにかく内容は何でもいいから、ダンジョンの中で戦っているところを配信してほしいのよ」

「えぇ」

 

 この前の確認はともかく、もう配信をしないと言った以上、したくはないんだが。とはいえ、ギルドやその周囲に迷惑を掛けたいわけでもないしな。


「自分が言ったことを撤回したくないんだろうけど、してもらわないと収拾が付かないの」

「……仕方ないか」

 

 説明自体は納得できたので、明日辺りにでも配信することにしよう。一度戦っているところを配信に載せることが出来れば問題は解決するだろうし、ささっと終わらせて完全に配信者として終わりを迎えたほうがいいんだろうな。


 

 ―――――

 次話から配信回になります。

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