呪花の契り。
田中かなた
前編 孤独を忘れた蕾。 ~ 好きなものから食べる派 ~
夏の夜。
訪れは遅けど涼やかな風靡く生命の夜。
はたまた、その伊吹は癒しを与え、力を与える。
走る度に感じる風は心地が良い。
「ねぇ綿音!どう!?気持ち良いでしょ!走るのってさ!」
綿音の白く長い髪を靡かせて私は優雅に走る。
夏風の素晴らしさを綿音に。
「ねぇ綿音…私帰りたくないよ…」
綿音はいつだって正しい道に導いてくれる。
貴方は私のもの。
だから私を支えて綿音。
「わかった…ありがとう綿音。」
私は抱き締めた。
温もりを感じる気がする。
帰路へ着いた。
戸を開けると出迎えていた。
父と言う汚物が。
父は会社が倒産した。
そこから職は見つかった。
が所謂ブラック企業であった。
酒に溺れ、怒りに流される。
そのストレスは洗脳であった。
「こん……」
ボソボソ声につい聞き返す。
「え…?」
振り返った。
前髪で目が見えないはずなのに。
なんで目が合うんだろう。
「こんな時間までどこほっつき歩いてやがったクソガキがぁ!」
髪を強引に掴まれる。
まただ。
母さん…助けてよ…
綿音…痛いよ。
母さん…なんで目を背けるの。
壁が頭にぶつかる。
腰が上がらない。
痛い…痛い…痛い…
「あっ…!綿音!駄目!出てきちゃ!」
父は地面に転がった物を見て絶句した。
唾を飲み込み、脂汗が地面に一滴零れ落ちる。
「気持ち悪ぃな…いつまでお前は…あの子に…」
私は綿音を抱き締め、うつ伏せになって必死に守った。
「もう…いい…」
父は倒れる様にソファに座り込んだまま頭を抱えた。
母は泣いていた。
私はお風呂が嫌いになった。
シャワーを浴びる度に身体の芯からヒリヒリとした激痛が走る。
顔に伝うのは湯ではない。
部屋に入ると財布が荒らされていた。
「まただ…」
どうしようもないクソ野郎だ。
死んでしまえと切に願う。
幼き私と黒塗りに潰された家族の写真立てを私はゴミ箱へ捨て投げて、ベッドに飛び込む。
静寂に混じる苦痛の声。
どうしてこうなったんだろう。
このしがらみから逃げ出したい。
綿音…私を救い出して。
なんでいつも私ばかり何だろう。
思えば家族がおかしくなり始めたのは倒産じゃない。
妹の死だ。
あの二人は私を軽蔑し妹を溺愛していた。
許せなかった。
私だけを見て欲しかった。
みんな瞳に映るのはいつだって妹ばかりだった。
母さんは痛めつけられる私を見てきっと内心はいい気味だと喜んでいる。
父さんは私を痛めつけて快楽に浸っている。
私はいつだってぬいぐるみでしか無い。
死んでしまえ。
死ね…死ね…死ね…どいつもこいつも虫唾が走る!
死ね!死ね!死ね!
手から血が垂れる。
爪に入り込んだ皮膚は気色が悪い感触だ。
私は間違ってたのかな…
「綿音はどう思う?私は悪い子?私のこと愛してる?」
ありがとう…綿音…貴女ならそう言ってくれるって分かってたよ。
もう考えても疲れるから。
もう寝てしまおう。
朝になった。
父は居ない。
無言で朝食を食べる。
「薊蓮…その手の傷…」
ドンッと机を叩き、勢いよく椅子を蹴るように立ち上がり、無言で踵を返す。
母さんにとって、沈黙が何よりも雄弁であった。
心配してない癖に心配した振りをするな。
人間は偽らないと生きていけないの?
本当に呆れた気色の悪い劣等種だ。
私は制服に着替えて学校に赴く。
一人地面を見つめてただ呆然と。
気付けば学校だ。
教室の扉の前で屯ろする気色悪い生徒。
「あ?なに?」
話し掛けんなよ気色悪い。
「なんでも…」
別の扉から教室に入る。
綿音あんなクソ野郎殺してもいいよね。
私は椅子に腰を掛けて教科書やらを机に納める。
朝なのに、教室はまるで夜の虫が鳴き交わす森のようだ。
そのざわめきが、心の奥底に黒い波紋を広げていく。
私はうつ伏せになり、軽く目を瞑る。
「綿音…会いに来てくれた…ふふ」
気味悪がる声。
だけど私の世界には綿音しか居ない。
聞こえやしない。
椅子を引き摺る音。
皆が席に着席する。
顔を上げて先生が入ってくるのを待つ。
ふと横を見ると内カメにして前髪を念入りに整える所謂ギャルと言う害獣。
目が合いそうになる。
先生が入室した。
尚もクラスは騒々しい。
先生は諦めたのか注意すること無く淡々と流れ作業の様にホームルームを終わらせて教室を後にした。
いつも通りとなってしまった日常。
風景画にしようとも殺風景な程に。
普通は退屈だ。
だが普通が落ち着く。
私の唯一安定した至福の時間は綿音と過ごす普通の時間。
「綿音…今日も一緒に帰れるね…ふふ」
放課後になると皆一様に活気づく。
皆幸せなんだ。
だけど私はそれ以上に幸せだよね、綿音。
だって綿音とずっとずっと一緒に居られるんだから。
綿音は愛してる?
私もだよ、綿音。
道縋ら猫が前を通る。
瞳孔を狭めて警戒していた。
「綿音、怖いの?」
分かった。
血に染みた石を捨て投げる。
血はドロッとしていて穢らわしい。
綿音、汚い物見せてごめんね。
大丈夫。
綿音ばかりに支えてもらうのもおかしいでしょ。
「ねぇ綿音、今日はどこに行く?」
私は綿音を見詰めて、頬を擦り寄せる。
「分かったよ…綿音…行こっか。」
懐かしいね綿音…
貴女と出会えた場所。
貴女は花のお布団の上で横になっていたよね。
その時の貴女は花だった。
白い無垢の儚く愛おしい花だった。
私ね、貴女を一目見た時から救われたんだよ綿音…
貴女の向ける視線には棘が無かった。
あるのは温もりに満ちた春の太陽の様だった。
花の布団の上で私と綿音は横になる。
太陽は眩しく手で覆い隠すが指の隙間に光は差し込む。
ここに来たら私の世界にいつだって晴れが訪れた。
心地よい初夏の風。
「ねぇ綿音…私もそろそろ…ううん…ごめんね…何でもないよ。」
川に移るキラキラが星に見えると言った貴女のあの純粋な笑みが尚も私の瞳の奥に照らされ続ける。
焼け付いて離れない。
貴女を抱き締めたい。
私は綿音を抱き締めた。
貴女だけだった。
私を…私だけを見ていたのはいつだって綿音、貴女だった。
私をいつも見てくれてありがとう。
私をいつも支えてくれてありがとう。
貴女は白い花で、私はその蜜を吸う蜂だったのかなぁ。
隣に凛と咲く花かな。
花だったらなぁ。
目を瞑り綿音を握って仰向けになる。
「なんでかな…貴女はいつだって私の傍らに居るはずなのに…なんで寂しいんだろう…なんで私…」
涙が顔に伝う。
なんで泣いちゃうの。
綿音…変だよね…嫌いにならないで…
綿音…綿音…綿音…私を支えて。
私を愛して。
私を狂おしい程に抱き締めて。
私を…食べて。
目を開ける。
子供の声が聞こえてくる。
鬱陶しい。
私と綿音の時間を邪魔しないで…
私は気付いた時には子供を殺そうとしていた。
手には血が着いていた。
膝から崩れ落ちる。
「なんでみんな邪魔をするの…私がそんなに嫌いなの…私は居たら駄目な…」
綿音、ありがとう。
貴女だけだよ。
私は手を地面について立ち上がる。
視界がぼやける。
奇異な視線は痛々しい。
そんな目で見るくらいなら…助けろよ…
お前らは結局…人を見下すしか脳の無い劣等種だ。
見下すなら見下せ。
結局お前らは私に救われてるくせに。
鳥が私の前に止まった。
人馴れしているのか私が近付いても逃げない。
私は屈んで指を差し出す。
鳥は指に乗って首を傾げる。
「可愛いよね…綿音…」
ああ!と男の声が響く。
数人の学生。
あの制服は…同じ高校の子だ。
いやそれ以前に…同じクラスだ。
「最近さぁ、鳥、増えたよな。餌付けしてんのはお前か?ああ?」
その男子高生達は私に近付いてくる。
私は怖くなった。
「ちが…」
尻餅を着く。
鳥は逃げた。
綿音…助けて…
「おい、こいつ連れてこうぜ。」
皆一様に気色悪い笑みを貼り付けて私の腕を掴む。
私は必死に抵抗した。
「暴れんじゃねぇ!」
パシンっと乾いた音が響く。
痛くない…でもなんで…こんなにも怖いんだろう。
私はトイレに投げ捨てられた。
ベルトを外す音。
逃げようと這い蹲る私の顔を蹴り上げ私は後退るが意味もなかった。
「離せ辞めろぉ!」
抵抗はやむ無く私はただされるがままに殴られそして穢された。
満足したクソ野郎共は私の髪を掴んでこう言った。
「また餌付けしたら再教育だからな。」
気色悪い笑い声を残して踵を返した。
「…綿音…綿音…綿音…もう逝っちゃ駄目…?」
分かった。
私は綿音を抱き締めて抱き締めて。
涙と血で顔はぐしょぐしょだった。
股下から何かが垂れてくる。
汚い…穢い…死ね…死ね!
家へ着いた。
今日もまた殴られる。
扉を開けると。
似たような面をした母と目が合った。
母は笑顔になった。
私はいつも通り今日も…
父は髪を強引に掴んだ。
私の汚れた顔を見ても心配などしない。
股下から垂れてくる白い何かを見て父は狂った様に笑った。
「男とヤッたか…はは」
髪を強引に引っ張って私をめいっぱい殴り飛ばした。
吹き飛んだ私の両頬を鷲掴みにして冷たい視線を向ける。
父の目尻には何故だか水の様な物があった。
父は私を投げ飛ばして、怒りのままに机を蹴り飛ばす。
膝から崩れ落ち、笑っているのか泣いてるのかよく分からない気色悪い鳴き声を発していた。
翌朝。
私はリビングに行った。
椅子が倒れていた。
母は眠り、父は振り子の様に宙に浮いてフラフラと揺れていた。
地面には汚物と臓器。
血の水溜まりに浸かる母の姿。
「やっと死んでくれた…良かったね…母さん…」
穴まみれの母の頭を私は撫でた。
警察が来た。
呆然とする私の肩を警察官がガシッと掴んだ。
そして私の顔を覗き込んだ。
警察官は気味悪そうに私を冷ややかな眼差しで見詰めていた。
「大丈夫…だったか…?」
私はつい俯いた。
その後、母と父は無理心中である事が分かった。
結局は私を置いてけぼりにした。
私が邪魔だったからだ。
ここまで私が嫌いだとは思わなかったけど。
私は母の実家で引き取られる事になった。
荷物を持って家へ入る。
歓迎はされていない。
ばあちゃんとじいちゃんは気まづそうにしていた。
「邪魔なら出ていきます…」
ばあちゃんはううんと首を横に振った。
「大変だったわね…あなたの部屋は…」
私はばあちゃんの言葉を遮ってこう言った。
「私の名前…覚えてないですよね…」
ばあちゃんはしどろもどろになった。
ふと横を見ると写真立てがあった。
そこに写っていたのは健気に笑う妹とばあちゃんとじいちゃんの姿だ。
私の写真なんてない。
「無理もないですよ…私は薊蓮です。また忘れたらまた名乗ります。」
ばあちゃんは俯いてごめんねと謝る。
私は首を横に振って部屋へ案内して貰う。
家に貼られている絵はどれも妹のものばかり。
私の絵なんか捨てたのだろう。
みんな私が憎いんだ。
綿音だけだよ。
私を思ってくれたのは。
部屋は余り物である為か少し狭い。
「前の家みたいに寛いで良いからね…」
ばあちゃんは失言した事に気付いたのか謝った。
「もうどうでもいいですよ…私の事何か気にしないで下さい…」
私は頭を軽く下げて部屋へ入る。
布団は雑に畳まれていた。
布団はタンスから出したばかりの酸い臭いがしていた。
暫く洗ってなさそうだ。
椅子に腰を掛けて綿音に話しかける。
「綿音…私さ、学校が怖くなっちゃった。情けないよね…」
綿音は首を横に振ってくれた。
ありがとう綿音。
ありがとう…
ドアがノックされる。
私は戸を少し開き、どうしたの?と要件を聞いた。
「リンゴ剥いたからね、これ良かったら食べて…」
ばあちゃんは皿に盛った兎型に切られたリンゴを私に渡して踵を返した。
「…念の為、捨てよっか」
私はリンゴを爪で細かく刻みバレない様に外に撒いた。
「なんでだろう…綿音…あんなに嫌いだった親でも居なくなれば何故だか寂しく感じるんだぁ…変だよね…私って…」
そうだよね…私やっぱりおかしいよね。
私は椅子から腰を上げて窓から外を見渡す。
夕暮れ時の空は何故だか灰色に映らない。
黄昏…何故だか私にとって心地が良い。
夏に冷ややかで心地よい風が走る予兆。
夜が好きだった。
あの頃は夜道を綿音と共に走りたかった。
今はそれが叶った。
綿音も嬉しいよね。
貴女は夜になると輝くお星様になって、朝になれば世界を照らす輝く太陽になった。
そんな貴女がどうしようもなく羨ましくて…どうしようもなく愛おしかった。
貴女は綺麗だった。
何もかもが。
薄汚れた私を見ようとも見下さず対等に…
私はそんな貴女が大好きで愛おしくて…ずっとずっとずっとずっと傍に居たいって思ってた。
綿音…貴女はどう思ってた?
私と同じ気持ちだった?
ふふ…ありがとう綿音。
私には貴女しか居ない。
貴女が居ない世界なんて考えられないし考えたくない。
綿音…一緒になってくれてありがとう。
私が一生愛して守ってあげるから…貴女は私を支えてね。
約束したんだから…
「何をしてるの…薊蓮…」
邪魔が入った。
鬱陶しい…
綿音と私の世界に汚物は入ってくるな。
「何よ…薊蓮ぁ!その顔はぁ!」
ばあちゃんは私の髪を掴んで、ぐちゃぐちゃの顔で怒号を上げる。
鬱陶しい…気色悪い…薄汚れた老害の唾を吐き掛けるな…
「薊蓮ァ!薊蓮ァァ!誰がこんな思いで!こんな思いをしてまで…あんたなんかをぉお…」
ばあちゃんは膝から滑るように崩れ落ちて泣きじゃくる。
いい歳したババアが情けない…
「私は……邪魔なら出ていくと言いました…」
ばあちゃんは私を睨んだまま無言で部屋を後にした。
その静寂は正に言葉を超えた圧力があった。
私がそれほど迄に憎くくてしょうがないのだろう。
憎いなら私を最初から可愛がれば良かったんだ…
人間は身勝手だ…みんなみんな…
自分が気に入らない…見た目が好かない…それだけの理由で除け者扱いだ。
綿音…貴女はそんな薄汚れた世界で唯一一人の可憐に咲く儚くも美しい花だった。
雑草共のせいで貴女は…私…許せないよ…許せないよ…綿音…なんで貴女が辛い目に遭わなきゃならなかったの…
綿音…ごめんね…ごめんね…
私が変わってあげられたら。
数時間後。
虫の合唱が始まる時間。
夜。
部屋の扉がノックされる。
「……ご飯出来たわよ…」
ご飯…か。
「いりません…自分で買いに行きますから…」
ばあちゃんは引かなかった。
焦燥からだろうか。
その瞳は震えていた。
何だか胸騒ぎがする。
やはり断って正解だったかもしれない。
「…いらないと言ったはずです。」
ばあちゃんはブツブツと何かをボヤく。
「死ぬべきはあなただった…何であなたはまだ生きてるのよぉ…!」
ばあちゃんは膝から崩れ落ちた。
何かが切れた。
あの時と同じだ。
私はもはや何も感じなかった。
分かっていたから。
みんなみんな、そう思ってるよね。
私はばあちゃんの肩に優しくポンッと手を乗せる。
「うん…そうだね…分かるよ。死んで欲しいよね。私もねそれと同じぐらい…四葉には死んで欲しかった。」
「だからね…貴女も結局さ…私と………同じ穴の……狢なんだよ…」
私はばあちゃんの首を力強く掴む。
ばあちゃんは私の腕を引っ掻いて抵抗するが所詮は老いぼれ。
「け…は…ヒュッ…ガハッ…あっ…あぁあ…」
抵抗していた汚い腕が重力に任せて落ちる。
私は下の階に降りる。
椅子に呆然とながら座るじいちゃんの前に座ってフォークを手に取る。
「食べないの?」
私の言葉にじいちゃんは何かを察する。
その顔が恐怖で歪んだ。
いい顔だよ。
私はフォークを目に突き刺した。
じいちゃんは悲鳴を上げる。
私はその口に食べ物を押し入れる。
じいちゃんは必死に抵抗をする。
私は目に刺さったフォークを捻る。
じいちゃんは声にならぬ叫びを上げた。
飲み込もうとしないので私は腕を使って押し込む次第に顔から血の気が引いてき何も喋らなくなった。
「はあ…疲れた…」
私は膝から崩れ落ちた。
何だかいい気分だ。
翌朝。
早朝、4時。
私は制服を着たまま公園へ来た。
「ごめんね、暫く来れなくて。忘れてた訳じゃないの…」
私はお花に水を与えた。
「ごめんね、綿音に怒られなかったら多分今頃寝っちゃってたよ。」
私は立ち上がって、空き地となった空っぽの更地をただぼんやりと見詰めた。
綿音は少し寂しそうだった。
私は登校時間まで時間を潰し学校へ行った。
教室へ入るとトイレで世話になった男に紙を投げつけられた。
それは写真だった。
私はその写真を見て絶句した。
その男は笑っていた。
私は怒りで震える体を抑える。
私は怒りで気が付かなった。
「おいこいつなんか白い毛みたいなもん持ってんぞ!気持ち悪ぃ!」
綿音…綿音!
私は押さえ付けられた。
教室は薄汚い笑い声で充満していた。
「返せぇ!…綿音を…返して…お願いだから…私には…綿音しか…」
男達は嘲笑っていた。
「そんな大事なら持ってくんなよ。淫乱女が。」
男はライターを取り出した。
「あぁあ……辞めて…!辞めて…下さい…お願い…だから…お願いだから…私からこれ以上……なにも奪わないで…」
私の髪を掴み男はこう言った。
「綿音ちゃんは儚く死んじゃいました。めでたしめでたし!ガハハッ!」
教室は響めく。
押さえ付けていた男子生徒は私を離して…綿音を踏み付けた。
私の中で切れてはいけない何かがプツンっと音を鳴らして切れる。
私はゆっくりと立ち上がり、私は嘲笑った男に近付いた。
「なに?淫乱女さんよぉ…そんなに綿音ちゃんの髪の毛が好きかぁ?あれないとイけないのか?」
ガハハと教室に笑い声が響く。
私は隠し持っていたフォークを目に突き刺した。
甲高い悲鳴を上げやがった。
「女みたいな悲鳴あげるなよ…ガハハ…」
教室は響めく。
悲鳴によって。
私は目に突き刺ったフォークを足で押し込んだ。
動かなくなった。
教室は更に騒然となった。
私はフォークを抜き取って、私を押さえ付けて嘲笑っていた生徒に近付く。
生徒は腰を抜かして必死に謝っていた。
「綿音…どこに行ったの…?」
私はしゃがんでその生徒の髪を掴む。
「ねぇ綿音…知らないですか?」
私のシューズに穢い汁が染み込む。
その生徒は何も言葉を発さない。
私は喉仏にフォークを突き刺した。
「綿音…?綿音…!?綿音ぇ…!?」
何度も何度も。
頭が空白だった。
私は自分の喉元に突き付けた。
「綿音…ごめんねぇ…私…もう……」
世界が暗転する。
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