こくら物語 Ⅰ 総集編 完結
こくら物語 Ⅰ 総集編1
目次
第1話 初めて来た小倉のバーで
第2話 フェリーの手配
第3話 新門司港第二ターミナルへ
第4話 スイートルーム
第5話 うち、なんで店閉めとるんやろうか?
第6話 お風呂に入ってから…
第7話 うちん体ば見らんでくれん…
第7話 わての体、見んといてくれる…、京都弁バージョン
第8話 第8話 35才の女で悪かったね、院卒で!今はバーの雇われママしよるよ!
第9話 おいなりさん食べた女の子とキスしたこと、あるん?
第10話 葛藤中です、ハイ
第11話 大阪南港
第12話 ママ!びっくりした!どうしたの!
第13話 思わずバスに乗っちゃったっちゃろ?図星っちゃろ?
第14話 そうよ!溜まっとるとよ!
第15話 男の前で茶色い食べ物はダメっちゃ!常識やろ!
第16話 あんた、お寿司にして正解やったね
第17話 チャンスがやって来たら逃さず前髪をつかめ
第18話 少子化を食い止めよう!
第19話 空港にお見送りに行きたい!
第20話 季節外れのサンタクロース
✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿
第1話 初めて来た小倉のバーで
なぜか、私は初めて来た小倉のバーで酒を飲んでいた。まだ、午後六時半だ。小倉の繁華街、雑居ビルの二階。扉を開けると薄暗い店内にタバコの煙が漂い、どこか懐かしい昭和の匂いがした。北九州の工業団地の工場担当者との打ち合わせがあって、スリランカからわざわざ出てきたのだ。海外展開で東南アジアに進出する計画が進む中、工場の建設について詳しく聞きたいというので、こうやって出張続きの人生を送っている。疲れはあるけど、こういう地方都市の片隅に紛れ込む瞬間は嫌いじゃない。知らない街の空気が、私の心に小さな隙間を作る。
スリランカのバンダラナイケ国際空港からシンガポールのチャンギ空港でトランジットして、北九州空港に降り立ったばかりだ。明後日は大阪本社で再度打ち合わせが待っている。帰りは関空からシンガポール経由でスリランカに戻るつもりだ。
でも、この旅程、どうやって組み立てようか?頭の中でスケジュールがグルグル回る。北九州で一泊して、明日新幹線で大阪に移動するか?それとも今夜すぐ大阪に向かうか?いや、待てよ、北九州から大阪までフェリー便があるじゃないか。移動しながら寝られるなんて、効率的だし、少しワクワクするな。旅慣れてるとはいえ、こういうアイデアが浮かぶとちょっと得意になる。
バーは静かで、先客は一人だけ。カウンターで飲んでいる女の子が、背中を丸めてグラスを傾けている。私はミドルサイズのスーツケースを入り口横に置き、彼女から二つ席を空けてカウンターに腰かけた。目の前では、ママが手持ち無沙汰そうにグラスを磨いている。薄暗い照明の下で、彼女の手つきが妙に優雅に見えた。私は内心、「このバー、意外と落ち着くな」と呟きながら、少し肩の力を抜いた。
「いらっしゃいませ」とママが声をかけてくる。柔らかい小倉弁が耳に心地いい。
「ああ、こんばんは」と私が返すと、ママは目を細めてニッコリ笑った。
「お客さん、はよう来ちゃったね?出張か何か?」と聞かれる。ママの声には、どこかお客をからかうような軽さがあって、でもその裏に温かさがある。私はこういう人が好きだ。自然と会話が弾むタイプ。
「ええ、海外から。スリランカに住んでいて、シンガポール経由で来たんです。これから大阪に移動して打ち合わせがあって、明々後日には帰る予定です」と答える。自分の声が少し疲れているのに気づいて、苦笑いした。長旅の疲れが、言葉の端に滲み出る。
「あら、まあ、海外から?そりゃ大変やねぇ。こんな遠くまで」とママが驚いたように言う。黒いドレスが彼女の細身の体にピッタリで、三十路くらいだろうか。小顔でスラッとした姿は、私の好みにドンピシャだ。大阪に急いで移動する予定がなければ、この人と少し親しくなってもいいな、と一瞬思う。ママはグラスを磨きながら、「遠かとこから来て疲れとるとやろ?でも、お客さん、顔色ええね。慣れとると?」と探るように笑う。彼女の目は、私の表情をしっかり見ていて、ちょっとした好奇心が光っている。こういう観察眼、嫌いじゃない。
「まあ、慣れてますから。いつもアジアのドサ回りをしてるんで、日本みたいな先進国に来るのは珍しいんですよ。えっと、何にしようかな?」と酒棚を見回す。私は酒を選ぶ時、つい品揃えで店のレベルを測ってしまう癖がある。ここは地方都市のバーにしては悪くない。グレンリベットのボトルが目に入った。
「グレンリベットがありますね。グレンリベットをトリプル、With Iceでお願いできますか?」と注文する。
「お客さん、トリプルね?」とママが確認する。少し驚いた顔が可愛い。
「そう、トリプル。呑兵衛なもんで、シングルやダブルだとすぐなくなっちゃって、薄まるのも速いでしょう?だからいつもトリプルなんです。珍しいですかね?」と笑いながら言う。私は自分の酒癖を話す時、ちょっと自慢げになるのが悪い癖だ。
「確かに合理的やねぇ。お代わりの回数も減るもんね。ハイ、わかった、トリプルっちゃ」とママが笑う。彼女は円錐を二つ合わせたメジャーカップを取り出し、綺麗に球状に削った氷の入ったグラスに緑の瓶から注いだ。一回、二回。そして、もう一回。
「ママさん、それじゃあフォーフィンガーじゃないですか?」と私が突っ込むと、ママは「遠かとこからわざわざ来んしゃったけんね。ワンフィンガーはうちのおまけ、サービスっちゃ」とウィンクしてきた。笑顔がキュートで、思わずドキッとした。ママのこの気さくなサービス精神、たまらないな。バーへの好感度が一気に跳ね上がる。私はメニューを見て、「じゃあ、ナッツとビーフジャーキーもお願いします」と追加した。少し腹が減ってることに気づいたけど、実はママともう少し話したい気持ちもある。
ママは会話が上手い。私のプライベートには深入りせず、でも自然に身の上を引き出してくる。彼女自身も少しずつ自分のことを明かしてくれた。若い頃はバックパッカーで世界中を旅していたらしい。「そん時は自由で楽しかったばい。でも、飽きてしもうてね。実家のある小倉に戻って、このバーの雇われやっとるとよ」と言う。年齢を聞くと、「恥ずかしかばってん、もうアラフォーよ」と照れ笑い。ママの名前は木村直美。「ありふれた名前やろ?」と笑う彼女の表情に、素朴さと大人の余裕が混じっていて、私は内心、「この人、ほんと魅力的だな」と感じていた。
「うん、ママは私のストライクゾーンに入ってますね。私もアラフォーなもので」と冗談っぽく言うと、ママは私の左手を見て、「お客さん、指輪しとらんのやね?」とニヤッとした。
「バツイチですよ」と答えると、彼女の顔に一瞬嬉しそうな光が走った気がした。私は内心、「この反応、もしかして脈あり?」と少し期待してしまう。旅先での出会いって、こういうドキドキがあるからやめられない。
「ママ、時間が早いけど、あなたも飲みませんか?」と誘ってみる。少し酔いが回ってきて、気分が大胆になってきた。
「あら?よかと?」とママが目を丸くする。
「同じものでトリプルで付き合いません?」と提案すると、「じゃあ、いただきますっちゃ」とママもフォーフィンガーを自分のグラスに注いだ。彼女がグラスを傾ける姿を見て、「いける口ですね、ママ」と感心する。ママは「スリランカにも行ったことあるっちゃ。シギリアロックも登ったばい。階段の途中にでっかい蜂の巣があって、ありゃあ怖かったねぇ」と笑う。彼女の旅の話は生き生きしていて、聞いているだけで楽しい。私は「この人と話してると、疲れが吹き飛ぶな」と感じていた。
すると、横に座っていた女の子が、「うちも話に混ぜてくれん?」と声をかけてきた。入った時は視界の端でしか見てなかったけど、改めて彼女を観察する。黒のショートブーツにストッキング、ホットパンツ、長袖シャツも全部黒。グレーのウールのキャップをかぶっていて、メンヘラっぽい雰囲気だ。小顔で可愛い感じ、二十代前半くらいだろうか。彼女はグラスを握り潰す勢いで持っていて、少し緊張してるのが分かった。ミキちゃんは内心、「このおじさん、海外から来とるってかっこええな。でも、うちなんかに興味持ってくれんやろか」とドキドキしていた。
「どうぞ、どうぞ。あなたも何か飲みます?」と私が聞くと、「よかと?」とミキちゃんが小声で返す。彼女の目がキラッと光って、ちょっと期待してるのが伝わってくる。
「なんでもどうぞ。なんなら同じものでも?」と提案すると、コクっと頷いた。「じゃあ、ママ、同じものを彼女にも」と注文する。私はこういう子を見ると、放っておけない気持ちになる。少し寂しそうな雰囲気が、私の保護欲をかき立てるんだ。
ミキちゃんは「テレビでスリランカ特集見て、うちも行ってみたかと思ったっちゃ。でも、金もねぇし、夢の話やね」と呟く。彼女の声には諦めと憧れが混じっていて、どこか儚い。ママが「この子はミキちゃん。プータローたい。宿無し。この近くの漫画喫茶に住んどるんよ。治安が悪かけん、ウチに来ればって言うのに、意固地でねぇ。たまにここでお手伝いしてもらっとると。運が悪かばってん、性格はネジ曲がっとらんけん、私は好き」と紹介する。ママの口調には、ミキちゃんへの愛情が滲んでいた。彼女は内心、「ミキちゃんはほっとけん子やね。このお客さんと話せば、少し元気出るかもしれん」と考えていた。
ミキちゃんはグラスを受け取ると、「こんな高い酒、初めて飲むっちゃ。なんか、ドキドキするね」と笑う。彼女の笑顔は少しぎこちなくて、でも純粋さが溢れていた。私は「この子、素直で可愛いな」と思いながら、「じゃあ、せっかくだから一緒に楽しもう」とグラスを軽く上げた。ママは「ほら、ミキちゃん、ええお客さんやろ?うちで飲んどるより、こっちの方が楽しいっちゃ」と優しく言う。彼女の目は、まるで母親みたいにミキちゃんを見つめていて、私は「このバー、居心地いいな」としみじみ感じていた。
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第2話 フェリーの手配
しばらく、スリランカの話をしていた。ママの旅の思い出に私が相槌を打ちながら、ミキちゃんはカウンターに頬杖をついて目をキラキラさせていた。彼女の視線が私に絡みついてくるのが分かる。私は内心、「この子、純粋に憧れてるのかな。ちょっと可愛いな」と感じていた。旅の話は私にとって日常だけど、こういう反応を見ると少し誇らしくなる。
あ、そうだ。フェリーの手配だった。頭の中で予定がピンと張った。私は「ママさん、フェリー乗り場ってこの近くですか?」と聞く。効率よく動きたい性格が顔を出す瞬間だ。
「フェリー乗り場?新門司港やなかと?ここからやったらタクシーで三十分くらいかかるばい。あんた、フェリーに乗るとね?」とママが答える。彼女はグラスを磨く手を止めて、私をチラッと見る。私は内心、「ママ、この質問に興味津々そうだな。頭の回転が速い客だと思ってるのかも」と彼女の表情から推測した。
「考えてるんだけど、新幹線で大阪まで行ってホテルに泊まるより、フェリーなら移動しながらゆっくりできるし、宿泊の心配もないからね」と説明する。私は合理性を重視するタイプで、こういうアイデアが浮かぶと少しワクワクする。
「お酒の注文と一緒で、理にかなっとうね」とママが笑う。彼女の声には感心とからかいが混じっていて、私の好みに刺さる。すると、ミキちゃんが「え~、フェリーやと?うち、一回も乗ったことなかとよ。ええなあ~」と私の顔を覗き込んで言った。彼女の目は子供みたいに輝いていて、内心、「おじさん、かっこええ!連れてってくれんかな」と夢見心地だった。
私はカバンからiPadを取り出し、新門司から大阪までのフェリー便を調べ始めた。大阪の泉大津港まで運行している。出港は九時?今は…七時半か。まだ間に合う。到着は明朝九時半。十二時間半の船旅か。長いなと思う一方、「これならゆっくり休める」と計算が働いた。
私のiPadを覗き込んでいたミキちゃんが、「ええな、ええな~」と連発する。彼女は身を乗り出してきて、黒いホットパンツの裾が少しずり上がる。私は「この子、距離感近いな」と少し戸惑いつつ、彼女の無邪気さに微笑ましくなる。
部屋を調べながら、「ふ~ん、スイートルームで、大人料金が二万三千円ぐらい。新幹線とホテル代を考えると、ゆったりできる分安いよね?」と呟く。私は旅費を最適化するのが癖で、こういう発見に満足感を覚える。
「ええなぁ~、連れてってほしか~」とミキちゃんが言う。彼女の声には憧れと甘えが混じっていて、内心、「おじさんなら連れてってくれるやろ!スイートルームって何!?」と興奮していた。ママが「ミキちゃん、お金もなかくせによー言うわ。エコノミーでも七千円くらいするっちゃないと?」と料金表を覗き込みながら笑う。私は内心、「ママ、ミキちゃんをからかってるけど、ちょっと羨ましそうだな」と感じた。
「ミキちゃん、なんなら、このファースト往復、買ってあげようか?」と提案してみる。ファーストなら一万二千円くらい、往復で二万四千円。二人で船旅も悪くないな、と少し冒険心が湧いてきた。
「おじさんはどげんするん?」とミキちゃんが聞く。
「私はゆっくりしたいから、スイートルームにするけど…」
「え~、そしたら別々の部屋やん?」と彼女が不満そうに言う。ミキちゃんは内心、「別々やなんてつまらん!おじさんと一緒がええのに」とムッとしていた。
「いや、ミキちゃん、今日会った見知らぬ男女が同じ部屋ってわけにもいかないじゃないか?別室だけど、食事とか船の中を散策するのは一緒にできるよ」と冷静に返す。私はこういう時、常識的な線引きをするタイプだ。
ママが「ミキちゃん、何ば言いよるとね?バカなこと言いなさんな」とたしなめる。彼女の声には呆れと優しさが混じっていて、私は内心、「ママ、この子を本気で心配してるんだな」と温かい気持ちになった。
「うち、おじさんとやったら、同じ部屋でもよかっちゃけどなぁ~。間違いが起こってもよかやん?うち、気にせんばい。おじさんとやったら、喜んで間違いしちゃるもん」とミキちゃんがギョッとする発言をする。彼女は目をキラキラさせて、私を試すように笑う。内心、「おじさん、びっくりしたやろ?うち、怖いもの知らずやけん!」と得意げだった。
「ミキちゃんね、キミは私のことを知らないでしょ?もしかしたら、殺人鬼かもしれないし、ど変態かもしれないんだよ?」と冗談っぽく言う。私は彼女の突飛な発想に笑いつつ、少し牽制したかった。
ミキちゃんは私の顔を覗き込んで、「おじさん、殺人鬼なん?ど変態?船の中やん。密室やん?もし殺人鬼やったとしても、今日会うたばっかりの女の子ば殺してどげんすると?船の中で逃げ場なかとよ?ど変態やって、うちかてど変態かもしれんやん?性病だって持っとるかもしれんっちゃけど?」と畳み掛ける。彼女の口調は無邪気で、内心、「おじさん、うちのこと怖がらせられんよ!負けんけん!」と挑発的だった。私は「この子、頭のネジが一本抜けてるな」と呆れつつ、どこか楽しかった。
「まったく・・・ミキちゃんは発想がおかしかばい。それもね、うちかてミキちゃんみたいに自由やったら、同じようにねだっちゃうかもね・・・」とママが変なことを言う。彼女はグラスを手に持ったまま笑い、私は内心、「ママ、冗談でも本気でも、この子に影響されてるな」と感じていた。
「まあ、そのね、私は船賃なんか気にしないけど、どうにも、ひと回りくらい年の離れた初対面の女の子と一緒に部屋なんて・・・」と私が言うと、ミキちゃんが「あら?ちょっとしたパパ活でも数万円するっちゃし、パパ活と思ってくれてよかよ?おじさん」と返す。彼女の目はいたずらっぽく光っていて、内心、「おじさん、逃げられんよ。うち、押しが強かけん!」と自信満々だった。
「そんなことを言って・・・知らないよ、ミキちゃん、何が起こっても」と私が言うと、「大丈夫、おじさんに責任はなすりつけんけん。なんなら、スマホのボイスレコーダーに録音してもよかよ。証言するけん。ママも証人やけんね。うちは、おじさんに何されても・・・殺人はやめてよね・・・おじさんに責任ば取らせることはせんよ。けん、一緒に連れてって。ね?お願い」とミキちゃんが私のiPadをさっと取り上げ、フェリーのWeb予約ページを開いた。彼女の行動力に、私は「この子、無敵だな」と半ば感心していた。
「ハイ、どーぞ」とミキちゃんがiPadを私の前に置く。勝手に今日の日付を入力し、出発地と到着地をタップしていく。新門司、大阪南港、21:00発、09:30着…。「スイートね、スイート」と言いながら二名を入力し、サイトを進めていく。私は「待て待て」と内心焦るけど、彼女の勢いに押されて止めるタイミングを失った。ミキちゃんは私のクレカを強引に取り出し、番号や名前、同乗者の情報を入力してしまう。確認ボタンが出ると、「ハイ、おじさん、よかとね?」と彼女が勝手に押してしまった。
私とママが同時に「あ~あ、やっちゃった」と声を揃える。私は内心、「どうしてこうなったんだ…でも、ちょっと面白い展開かも」と諦め半分、期待半分だった。ママは「ミキちゃん、私は何が起こっても知らんけんね」と宣言しつつ、内心、「このおじさんならミキちゃん預けても大丈夫そうやね。私までドキドキしてきたばい」と笑いを堪えていた。「このおじさんなら大丈夫っちゃ。心配せんでよかよ。ママ、証人やけんね」とミキちゃんが返す。
「だけど、ミキちゃん、着替えとかどうするのさ?」と私が聞くと、「うち、宿無しのプータローやけん。この近くの漫画喫茶に住んどるとよ。けん、いつも持ち物は持っとるっちゃ」とスーツケースの横のボストンバッグを指差した。ミキちゃんは内心、「おじさん、びっくりしたやろ?うち、準備万端やけん!」と得意げだった。私は「やれやれ、都合よくできているものだな…」とため息をつく。彼女の身軽さに、少し羨ましささえ感じた。
「おじさん、もう八時近かよ。ここば出らんと九時の出港に間に合わんばい」とミキちゃんが急かす。「ママ、お勘定」と勝手に言い、「おじさん、タクシー呼ぶけんね。三十分かかるっちゃけん、はよはよ」と畳み掛ける。彼女の行動はまるで嵐のようで、私は「この子に巻き込まれたら最後だな」と観念した。
仕方がない。私はママに名刺を渡す。「ママさん、これが私の名刺。おかしなものじゃないけどね。何かあったら、スリランカのこのスマホ番号でも…えっと、日本のスマホ番号は…」と書き入れた。旅慣れた私でも、こういう時の保険は欠かせない。
「今、かけてみて下さい」とママに電話をかけさせ、私のスマホが鳴る。「これでいい。間違いがないように注意するけど…保証しませんよ」と言うと、ママは「なんでこんなことになるっちゃろうか…まあ、しゃあなか。こうなった以上は楽しんできんしゃい。このバカ娘、煮るなり焼くなり抱くなりしてもよかばい。あ~あ、こういう手がありなら、うちかてスイートルームに泊まりたかばい。このバカ娘!」とミキちゃんの頭をポカリと殴った。私は内心、「ママ、この子に振り回されつつ楽しんでるな」と彼女の表情を見て思った。
「ママ、痛かよ。さって、タクシー、すぐ来るっちゃ。おじさん、行こうや。ママ、大阪から連絡するけんね。このおじさんが殺人鬼で殺されんかったらね」とミキちゃんが私のスーツケースをガラガラ引いて店を出てしまう。彼女の無鉄砲さに、私は「この子、無敵すぎる」と笑うしかなかった。
「仕方ない。ママさん、行ってきますよ。まいったね」と私が言うと、「ご迷惑やろうばってん、よろしく頼むばい。悪か子やなかけん、それは安心しとって。行ってらっしゃい。気ばつけて」とママが送り出す。彼女の笑顔には、どこか母親のような温かさがあった。
一階に降りると、タクシーがもう来ていて、運転手がミキちゃんのボストンバッグと私のスーツケースをトランクにしまっている。リアシートに座るミキちゃんが「おじさん、乗って乗って。新門司港まで三十分やってさ。乗り遅れるばい」と急かす。彼女は内心、「おじさんと船旅や!やっと漫画喫茶から抜け出せるっちゃ!」と興奮していた。私は「やれやれ、どうなるんだろう」と呟きながら、タクシーに乗り込む。バーから漂う酒とタバコの匂いが背中に残り、新しい冒険が始まる予感に少し胸が高鳴った。
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第3話 新門司港第二ターミナルへ
タクシーの運転手さんが振り返って私に聞く。「お客さん、新門司港な、ターミナルがいくつかあるっちゃけど、どこ行きね?」と小倉弁で言うので、「大阪の南港行きですけど」と答えた。「ああ、だったら、第二だ」と運転手さんが頷き、車を発進させる。私は内心、「ターミナルが複数あるなんて知らなかった。旅慣れてるつもりでも、こういう細かいところで抜けてるな」と少し苦笑いした。計画的な自分が好きだけど、こういうハプニングも嫌いじゃない。
「運転手さん、第二ターミナルの手前でコンビニありますか?」と聞く。船旅を快適にするには準備が必要だ。
「新門司北一丁目のセブンイレブンがあるけど?」と運転手さんが答える。
「そこも寄って下さい。キャッシュ下ろさないと。ちょっと買い物も」と頼む。私は現金派じゃないけど、船の上では備えが必要だと頭が切り替わる。
「ああ、そやね、フェリーっちゃもんね。わかったっちゃ。出港時間は?」と運転手さんが確認する。
「九時ですが…」
「じゃあ、今、七時五十五分やけ、買い物は急ぎぃよ。時間あんまりなかよ」と少し急かす口調。私は内心、「ギリギリか…でも、このスリル、ちょっと楽しいな」と感じていた。旅の予定が綱渡りになる瞬間って、妙にテンションが上がる。
右隣のミキちゃんが、運転手に気兼ねしたのか、私に小声で耳打ちしてきた。彼女の吐息が耳に当たって、少しくすぐったい。「おじさん、現金下ろすっち、何なん?うちに気ぃ使いよるんやったら、そげんせんでよかよ。船賃奢ってもろたっちゃけで、もう十分やけ。パパ活しよるんやなかっちゃけね!」と少し拗ねたように言う。ミキちゃんは内心、「おじさん、うちのために無理しよるとか思われたら嫌や。うち、気楽でいたいっちゃ」とちょっと不安だった。私は彼女の純粋さにほっこりした。
「ミキちゃん、違うよ。あのね、フェリーは海の上を航行するから、クレカが使えないらしいんだよ。だから、みんな現金決済。食事もドリンクも現金が必要なんだ。それと、お酒とつまみをコンビニで調達したいんだ。フェリーの売店は商品に限りがあるだろう?」と丁寧に説明する。私はこういう時、ちゃんと納得してもらいたいタイプだ。
「なんや、そげなことやったんか。わかったばい」とミキちゃんが頷く。彼女の表情がパッと明るくなって、内心、「おじさん、ほんと頭ええな。うち、安心したっちゃ」とホッとしていた。
「ミキちゃん、スイーツとかも買っちゃおうね。制限時間、五分で済まそうよ。食事はビュッフェが使えるはずだから、おつまみとお酒。私はまず現金を下ろすからね。遠慮しないで何でも買ってね。船内のレストランは閉まっちゃうだろうから、夕食も買おう」と提案する。私は旅の相棒には楽しんでほしいし、自分も楽しみたい。
「ええね!スイーツ大好きやけん、遠慮せんよ!」とミキちゃんが目を輝かせる。彼女は内心、「おじさん、太っ腹や!船でスイーツ食べれるなんて夢みたいやっちゃ」とウキウキしていた。
運転手さんが道路右側のセブンイレブンに車をつけた。私は「運転手さん、五分で戻ります」と告げ、タクシーのドアが開くや否や、ミキちゃんと二人でダッシュした。店の蛍光灯が夜の暗さに映えて、私は内心、「時間との勝負だな。こういう緊張感、嫌いじゃない」と少しアドレナリンが出ていた。まずATMで十万円おろす。カードをスロットに差し込むと、現金がザラザラ出てくる感触が頼もしい。それから買い物かごを持って店内をグルッと回った。ミキちゃんは人差し指で陳列棚を指差しては、「これや!これも!」と次々かごに放り込んでいく。彼女の動きは子供みたいに無邪気で、私は「この子、ほんと楽しそうだな」と微笑ましくなる。
私は酒の棚でビール、酎ハイ、ワイン、スコッチ、日本酒を迷わず選んだ。旅先での酒は必需品だ。さらに氷とカマンベールチーズも見つけて追加。夕食はどうしよう?寿司の二十貫パック、稲荷寿司の八貫入りパック、鰻のパックをかごに放り込む。私は内心、「男の買い物なんてこんなもんだ。効率重視でいこう」と満足していた。ミキちゃんが私を見て、「おじさん、終わったばい!」と声をかけてくる。彼女のかごにはスイーツが山盛りで、私は「さすがだな」と感心した。二人の買い物かごをキャッシャーに並べる。
キャッシャーの女の子が商品をリーダーで次々と読み取っていく。まず私の籠:酒、氷、チーズ、寿司パック。次にミキちゃんのかご:きのこの山、ティラミス、カカオ90%チョコ、唐揚げ、おにぎり…そして、0.01mm時間遅延コンドーム、十個入り…。私は内心、「え、マジか?」と一瞬固まった。
「ミキちゃん、あのさ…」と声をかけると、彼女は平然と「おじさん、気にせんでよか。もしものためやけん。なかやったら困るやろ?それに、お互いの性病予防たい」とまたギョッとすることを言う。ミキちゃんは内心、「おじさん、びっくりしたやろ?うち、ちゃんと現実的やけん!」と少し得意げだった。私は「この子の発想、どこまで飛んでるんだ」と呆れつつ、笑いが込み上げてきた。
店員さんが私たちのやり取りを聞いてニコッとしている。私は内心、「あ~あ、この子にどう思われてるんだろう。しょうもないおじさんとパパ活女子のコンビに見えるのかな」と少し恥ずかしくなる。でも、時間がない。仕方ない。私は「まあ、どう思われてもいいか」と開き直った。会計を済ませ、タクシーに戻る。きっちり五分だ。「すごかね。きっちり五分たい」と運転手さんが感心する。タクシーは左車線に戻り、第二ターミナルへ向かう。私は内心、「間に合った。計画通りだ」と少し誇らしかった。
二人でハァハァ言いながら受付に着く。「あの、iPadで予約してるんですけど」と予約画面を見せると、「もう乗船して結構です、お急ぎ下さい」と言われた。メインのビルとコンコースの通路が長い。三百メートルはあるだろうか。ミキちゃんが「おじさん、荷物、任せて!」と私のスーツケースをガラガラ引っ張って駆けていく。私は内心、「ミキちゃん、馬力あるな。この子の体力、侮れない」と感心した。乗船口は四階。息を切らしながら追いかける。
船内の受付でiPadの予約票を見せる。「ハイ、宮部様ですね」と受付の女の子が言う。私もミキちゃんもハァハァ言って言葉にならない。私は内心、「こんなに慌てるなんて久しぶりだ。でも、ちょっと楽しい」と感じていた。「お部屋は七階になります。階段かエレベーターをご利用下さい」と言われ、カードキーを二枚渡される。見回すと、最上階までの吹き抜けに螺旋階段があって、エレベーターの乗り口が正面にあった。
「ダメだ、ミキちゃん、エレベーターにしよう。息が続かないよ」と私が言うと、「賛成たい。うちもスーツケースとボストンバッグば引きずって、階段ば二階分も上がる元気なかばい。部屋にたどり着く前に心肺停止してしまうっちゃ」とミキちゃんが笑う。彼女は内心、「おじさんと一緒やけん、疲れても楽しいっちゃ」と少し息を整えながらニヤッとした。二人でエレベーターに乗り込む。私は「この子と一緒なら、何かあっても大丈夫そうだな」と安心感を覚えた。
七階に着くと、階段の左右に男女の大浴場があった。ドリンクの自動販売機も見える。私たちのスイートルームはエレベーター横から艦首に伸びる廊下の左右にあった。部屋番号は003室。私はスーツケースを引きずりながら部屋にたどり着く。ドアノブの上に平たいスロットがあって、これがカードキーの挿入口だと分かった。私は内心、「こういう設備、合理的で好きだな」と満足しながらカードを差し込む。LEDライトがグリーンに変わり、ガチャッとドアロックがリリースされた。私は「やっと落ち着ける」とホッとしつつ、ミキちゃんとの船旅に少しワクワクしていた。
✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿
第4話 スイートルーム
部屋は約30平米。シティーホテルのシングルルームが17平米ほどだから、ほぼ倍の広さだ。さすが船のスイートルーム、ゆったりしたスペースが確保されている。私は内心、「これは予想以上に快適だ。旅費をケチらなくて良かったな」と満足感に浸っていた。窓から見える瀬戸内海の暗い水面が、照明に反射してキラキラ光っている。
「おじさん、すごかね。高級ホテルみたいやんね」とミキちゃんが目を丸くして言う。彼女の声には子供みたいな驚きが溢れていて、私はその純粋さに少し癒される。
「ミキちゃん、おじさんは止めよう」と私が言う。私は内心、「この呼び方、ちょっと距離感あるな。せっかく一緒の船に乗ったんだし、もう少し親しくしたい」と感じていた。
「だって、名前知らんもん」とミキちゃんが首を振る。
「私もミキちゃんの名前と苗字を知らないな。お互い名前も知らないで、船の同じ部屋に一泊しようってんだから、呆れるね、私たちは。私の名前は、宮部明彦だ。明彦でも宮部でもどっちでも呼んでいいよ」と自己紹介する。私はこういう時、ちゃんと線引きしつつもフレンドリーに振る舞うのが癖だ。
「うちの名前は、岡田美雪。美しい雪って書くっちゃん。小さい頃から名前ば略されて、ミキ、ミキって呼ばれよったっちゃん。じゃあね、二人だけん時は明彦、外に出たら宮部さんって呼ぶけね」とミキちゃんがニッコリする。彼女は内心、「明彦って呼ぶの、なんかドキドキするっちゃ。おじさんやなくて、もっと近か感じやね」と少しワクワクしていた。
「ミキちゃん、女性に年を聞くのもなんだけど、何才なの?」と私が聞く。
「ああ、そっか。年言いよらんやったね。二十三才よ。ちゃんと成人しとるけん、安心しとって」とミキちゃんが胸を張る。彼女の目は「どうや!大人やろ!」と主張してるみたいで、私は「この子、無邪気で可愛いな」と微笑ましくなる。
「私は1.5倍だ。三十五才だ。ミキちゃんの叔父さんぐらいな年だろうな」と答える。
「うちのパパは四十八才。ちょうどパパの弟、うちの叔父さんが三十七才。ほんまに叔父さんっちゃね!」とミキちゃんが笑う。彼女は内心、「明彦、叔父さんみたいやけど、もっとかっこええっちゃ」と少し照れていた。
「う~ん…」と私が唸ると、ミキちゃんが「おい、明彦、『う~ん』ち唸って何?何なん?ティーンやったら唸ってもよかばってん、もう二十三たい。ちゃんと成人しとる大人の女っちゃけん。それなりに扱うてもらわんと怒るばい!」とムッとする。私は内心、「この子、意外とプライド高いな。年齢差を気にしてるのは私の方なのに」と苦笑した。
「わかった、わかった。年齢は気にしないようにしよう」と私が折れる。私は壁際のデスクの引き出しを開けた。施設案内が入っていて、レストランは朝五時から入港前まで、大浴場は十時までと朝四時半から入港前まで開いている。時計を見ると、まだ間に合いそうだ。私は内心、「大浴場で疲れを癒したいな」と少し期待していた。
「ミキちゃん、この七階にある大浴場は十時まで開いてるってさ。外が見えるぞ。大浴場の外には露天風呂があって、星を眺めながらお風呂に入れるよ」と彼女に言う。すると、部屋を探検していたミキちゃんがバスルームを覗き込んで、「明彦、ちゃんと湯船があるばい。大浴場て混浴やなかとやろ?私、別々になるっちゃヤダたい。湯船にお湯ばはるけん、二人でお風呂入ろうや!」と目を輝かせる。彼女は内心、「明彦と一緒にお風呂やなんて、ドキドキするっちゃ。別々なんてつまらん!」とワクワクしていた。
「え?二人で…お風呂に…」と私が驚くと、「よかよか。そのおじさんの恥じらいっちゅうヤツは船外に放り出しとき!あ!そや!ママさんに連絡せんといかんたい」とミキちゃんがスマホを取り出す。私は内心、「この子、大胆すぎるだろ。恥じらいって…私がうぶみたいじゃないか」と少し焦った。
「あ!ママ?ミキたい。なんとか間に合ったばい。ギリッギリ。え?おるよ、ここに。スピーカーフォンに切り替えるけ、みんなで話せるやんね?」とミキちゃんが画面をタップする。彼女の行動はいつも勢いがあって、私は「止められないな」と観念しつつ笑った。
「宮部さん、ウチのミキがお世話になってます」とママの声が響く。彼女は内心、「ミキちゃん、このおじさんとなんとかやっとるみたいやね。ちょっと羨ましか」と少し嫉妬していた。
「いやいや、冷や汗ものですよ。ひと回り違う女の子と…」と私が返す。私は内心、「ママにまでこの状況説明するの、気まずいな」と少し汗をかいた。
「明彦、そげん話はよかっちゃ。ママ、乗船する前にセブンで買い物したったい。それで、明彦がATMで現金おろすっち言うけ、パパ活やなかけん現金なんかいらんっち言うたっちゃ。そしたら船ん中、クレカ使えんっちやん。勘違いしとったばい。それでね、レストラン閉まるけん、なんでも買いなさいっち言われて、お寿司とかおつまみとかスイーツとか買ったっちゃ。五分しか時間なかったけん、カゴん中にどんどん放り込んだばい。そげんそげん、0.01ミリも買うたっちゃ!明彦、ドギマギしよったもん。おじさんの恥じらいっち面白かねぇ!」とミキちゃんが一気にまくしたてる。彼女は内心、「ママに自慢したいっちゃ。明彦の反応、ほんと笑えるばい」と楽しそうだった。
「ミキちゃん、宮部さんを呼び捨てにして…」とママが言うと、「だって、二人でこう呼ぼうっち今さっき決めたっちゃ!了解取ったばい!二人のときは明彦、部屋ん外では宮部さんて呼ぶけんね、っち!」とミキちゃんが反論。私は内心、「この子、ほんと自由だな。でも、呼び捨てされるの嫌いじゃない」と少し嬉しかった。
「う~ん、まあ、いいか。それで、ちょっと、0.01ミリって?あれ?」とママが驚く。
「そうよ!岡本理研のあれよ!もしもの時には使うっちゃけん!」とミキちゃんが平然と言う。彼女は内心、「ママもびっくりしたやろ?うち、現実的やけん!」と得意げだった。
「ミキちゃん、そういうのって大胆…」とママが呆れる。
「明彦は恥じらっとるっちゃけどね。うちだって成人の女っちゃ。おんなじ部屋やけ、当然そういうこともあるっちゃ。明彦、お風呂に二人で入ろうっち言うたら、ギョッとした顔しとったもんね。うぶなオジサマやわ。本人は額ば叩いとるっちゃけど…」とミキちゃんが笑う。私は内心、「うぶって…私が照れてるだけなのに、この子にペース握られてるな」と少し悔しかった。
「宮部さん、この子、悪い子じゃないけれど、こういう成り行きでいいんでしょうか?」とママが私に聞く。彼女は内心、「このおじさん、ミキちゃんに振り回されとるけど、大丈夫やろか」と少し心配していた。
「ママさん、どうも押し切られてますよ」と私が返す。
「まったく、代われるなら私が代わりたいくらいよ」とママが冗談っぽく言う。彼女は内心、「私もスイートルームで遊びたかばい」と本音が漏れていた。
「ママさん、そういう刺激的なことを言われても…」と私が苦笑すると、「あ!ママ、この部屋、高級ホテルの部屋みたいやん!よかろう?四角い大きな窓から瀬戸内海が見えとるっちゃ!」とミキちゃんがスマホをビデオに切り替え、舷窓に近づける。彼女は内心、「ママに自慢してやるっちゃ。こんな素敵な部屋、初めてや!」と興奮していた。
私はテレビをつけ、船の現在位置と航路を示すチャンネルを出した。マップが映し出され、新門司港をノロノロ進んでいるのが分かる。私は内心、「この静かな動き、旅の始まりって感じだな」と少しロマンチックな気分になった。
「テレビに航路が出とるわ。まだ新門司港の中ばノロノロ動きよるっちゃけど、これから宇部市の沖合ば通って、山口県の沖合ば瀬戸内海通って進んでいくみたいやね。音もなかし、しずしずと動きよるわ。部屋の照明ば消して外ば見ると、ロマンチックやねえ。ビデオでママにも見せられるっちゃけど、どう?ママ、見える?素敵やろう?」とミキちゃんが言う。彼女は照明を消して窓に顔を近づけ、内心、「こんな綺麗な夜景、ママにも見せたいっちゃ」とワクワクしていた。
スマホからくぐもったママの声が聞こえる。「まあ、綺麗やねえ。悔しか~!私がそこにおりたかよ!」と少し拗ねた声。私は内心、「ママ、ほんと羨ましそうだな。この二人に挟まれると大変だ」と苦笑した。「ママ、そろそろ電波が…」とミキちゃんが言うと、港外に出たのか通話が切れる。
「あれ?切れちゃったばい。じゃあさ、明彦、お風呂入ってから、お寿司食べろうよ」とミキちゃんが提案する。
「おいおい、入るの?」と私が聞くと、「うん、入るの、一緒に」と彼女がクローゼットから室内着を取り出す。「あら、オシャレな部屋着やん。ほら、明彦」と私に渡してくる。私は内心、「この子、ほんと躊躇がないな。どうしよう」と少し動揺した。
ミキちゃんがベッドに腰掛けてグレーのウールのキャップを外す。長いサラサラの黒髪が肩に落ちて、私は内心、「この子、意外と綺麗だな」と一瞬見とれた。彼女はホットパンツを脱ぎ始め、ストッキングも脱ぎ出す。お~い、ショーツ見えてるよ。私は内心、「おいおい、急展開すぎるだろ」と目を逸らしたくなった。
「おいおい、ミキちゃん、ここで全裸になるつもりか?」と私が言うと、「明彦、違うっちゃ。こん狭か浴室で立ったまんま、ストッキング破らんごと脱ぐ方法が思いつかんけ、ここで脱ぐっちゃね」と長袖シャツも脱いでしまう。ブラとパンティー姿に。私は内心、「この子の自然体、どこまで本気なんだ」と呆れつつ、心臓がドキドキした。
「刺激が強い光景なんだけど…ショーツ、見えてるよ」と私が言うと、「見えたっちゃ減るもんやなかろうもん?それとも、うちの体、お気に召さんと?」とミキちゃんが首を傾げる。彼女は内心、「明彦、どう思うとやろ?うち、自信あるっちゃ」と少しドキドキしていた。
「いいや、好みのプロポーションだよ。胸も大きすぎず、小さすぎず、掌にすっぽり収まる好みのサイズだ…って、何を私は言っているんだ…」と私が慌てると、「うちの胸、ちょっと小さすぎん?」とミキちゃんがブラを引っ張って胸を見下ろす。彼女は内心、「明彦に褒められたっちゃ。嬉しいけど、ちょっと照れるね」と頬が熱くなった。
「そのくらいが良い。お尻も丁度いい」と私が言うと、「好みっちゃ好みなんね?そうなんね?」とミキちゃんがニヤッとする。
「うん、私のタイプの体だよ…って、いや、だからってね、そういう話じゃない!」と私が焦る。私は内心、「この子に調子を合わせすぎた。冷静になれ、私」と自分を戒めた。
✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿Monte✣Cristo✿
第5話 うち、なんで店閉めとるんやろうか?
あら?フェリー、圏外に出てしもうたんかいな?切れてしもうたばい。スマホば握ったまんま、うち、カウンターでボーっとしとる。宮部さんとミキちゃんがバタバタ出ていった後は、お客さんも来んし、シーンとしとるっちゃ。店のグラスがピカピカに磨けてしもうて、手持ち無沙汰やね。
まったく、年齢的には、ミキちゃんよりうちやろうが!なんでミキちゃんやねん?…まあ、そやな。うちはバーの仕事があるし、プータローのミキちゃんは自由やもんなあ。服から何から、ボストンバッグに詰め込んどるけ、そりゃあ、宮部さんだって、お持ち帰り…じゃないな、あの子が強引についていったんやもんなあ。うち、内心、「ミキちゃん、やり手やね。うちがその立場やったら、宮部さんとスイートルームやったのに」とチクッと嫉妬が刺さる。高校、大学と、うちったら、いつも誰かに男ば横から持ってかれとった。ついてない人生やねぇって、昔のこと思い出してため息が出るっちゃ。
まあ、ミキちゃんも、大学生で同棲して、相手がDV男でアパート飛び出して、プータローになったんやけ、あの子もついてない人生かもなあ。うち、内心、「ミキちゃん、苦労しとるっちゃね。やけん、あの子の幸せ見てると、ちょっと複雑やね」とグラスば手に持ったまま考える。そやけど、あの子の無邪気な笑顔見ると、うちまでほっこりするっちゃ。
それにしても、フェリー、片道切符ば買うたけど、ミキちゃんは大阪で何ばするんかいな?たぶん、宮部さんが帰りのチケットば買うてくれるんやろうけど、彼だって仕事できとるんやし。明日、こっちに帰ってくるんかいな?着くのが大阪南港とか言いよったな?09:30着?うち、内心、「ミキちゃん、大阪でほっぽり出されたらどうするんやろ。宮部さん、ちゃんと面倒見てくれるんやろか」とちょっと心配になる。そやけど、同時に、「あの二人、楽しそうやね。うち、置いてかれた気分や」とモヤモヤが募るっちゃ。
なんか、鳶に油揚げば持っていかれたような気がするばい。なんか、腹立ってきたっちゃ。ええよなあ。今頃、関門海峡辺りかいな?21:00発で09:30着のフェリーねえ。12時間もアラフォーの男と23才の女が、スイートルームに二人きりやけ。夜の海ば見ながら…ええなあ…。うち、内心、「あの部屋の窓から見える海、綺麗やろなあ。ロマンチックやねぇって、想像したら悔しかなるっちゃ」と指先でカウンターばトントン叩く。なんか気になるけ、うち、スマホで検索してみたばい。大阪南港って、住之江区にあるんやね。ふ~ん。Googleマップで見ると…新大阪駅からは、タクシーで30分くらいかかるんや。ふ~ん。でも、小倉からのJRは最終が出てしもうとる。なるほど。あら、夜行バスなら、小倉23:20発で、大阪梅田に07:20に着くんや。ふ~ん。梅田から大阪南港まで…20分…ふ~ん。フェリーの着く9時前には間に合う。なるほど。
って、うち、何ばしよるんかいな?内心、「うち、ほんとに何考えよるんやろ。ミキちゃん迎えに行くつもりか?」と自分で自分に呆れるっちゃ。ミキちゃんの言いよった0.01ミリが、0.01ミリが、0.01ミリが…頭ん中ぐるぐる回る。ミキちゃん、可愛いけんなあ。宮部さんだって、ミキちゃんが誘うんやけ、我慢する必要もないわけやし!あの子、うちに見せつけるように、スマホで部屋の映像ば送ってきたわね。く、悔しか!悔しかやんか!うち、内心、「あのビデオ、わざとやろ!スイートルームの窓とか見せられて、うちの心、ズキズキするばい」とスマホば握り潰しそうになる。
ないっちゃ、我慢なんかいらんっちゃ!ぜぇ~ったいに、あの二人はやる!ニャンニャンするっちゃ!うちなんか、ここしばらくご無沙汰やのに…悔しくなってきたばい。酒、飲んじゃおう!カウンターのグレンリベットのボトルば手に取って、グラスにドバッと注ぐ。うち、内心、「宮部さんが注文したトリプル思い出すね。やけ酒やけど、美味かね」と一口飲む。…一人で飲んでも面白くないっちゃね。もう十時かぁ~。お客もおらんし、お店、閉めちゃおうかな?で、家に帰るん?つまらんのぉ。夜行バス、23:20発ねえ。バスターミナルは…小倉駅前なんや…リーガロイヤルホテル小倉…家に帰って、荷物ば詰め込んで、ダッシュすれば、23:20発なら乗れる!今なら乗れるっちゃ!
いやいや、ないない。それで、大阪南港に行って、ニャンニャンした宮部さんとミキちゃんばフェリーターミナルでアラフォー女が仁王立ちで待ち構えるって、ないないばい。あんたら、ニャンニャンしたやろ!って指差すん?そりゃ、惨めやん。うち、内心、「そんなん、恥ずかしすぎるっちゃ。うちのプライドが許さんばい」と首ば振る。そやけど、待てよ?宮部さんはお仕事行ってしもうわけやし、ミキちゃんはどうするん?そのままフェリーで帰ってくる?一人で?う~ん、やけん、ミキちゃんば大阪まで迎えに行くっちゃ。それで、大阪でお買い物して、小倉に戻ってくる。やけん、お姉さん役の直美としては、保護者として、ミキちゃんば…。
あら?うち、何、お店閉めよるんやろうか?シャッターばガラガラ下ろして、鍵ばかけとる。うちは何ばするつもりなん?内心、「うち、ほんとに夜行バス乗る気か?ミキちゃん迎えに行くなんて、言い訳やろ」と自分で自分にツッコミ入れる。え?あら?店ん中の照明ば消して、バッグば肩にかけとる。うち、内心、「まじでやっとるばい。ミキちゃんのこと心配やけど、宮部さんと楽しんだ後見るのも悔しかね」と複雑な気持ちで店のシャッターを叩く。小倉駅前まで走れば間に合うっちゃ。ミキちゃんの笑顔と宮部さんの優しか顔が頭に浮かんで、うち、「くそぉ、負けとられん!」って足ば速めるっちゃ。
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