第2話

 木刀を握るのは久しぶりのことだった。よく手入れのされているとてもよい木刀だった。(色も艶も重さも良くて、使われている木の材質もすごく良かった)

 ぶん! と軽くふってみるととてもいい音がした。うん。すごくいい。すごく道具にこだわっていることがきちんと伝わってきた。(手入れも本当にきちんとされていた)

 道場の中はとっても静かで澄んだ空気で満たされていて、とても神聖な感じがした。(実際に剣士にとって、道場はとても神聖なところなのだ)掃除も隅々までされていた。匂いもいい。

 そんなところにいるだけで、なんだかとってもわくわくした気持ちに山城はなった。

 子供みたいにきょろきょろと道場の中を見ている笑顔の山城を見て「なんだかとっても楽しそうですね」とくすっと笑って遠江は言った。

「あ、すみません」

 恥ずかしそうにその小さな顔を赤く染めて、山城は言った。

 今、広い道場の中には二人の少女がいる。

 道場の門下生の遠江と道場破りにやってきた少女の山城の二人だった。

「とても道場破りにきた人には思えません」

 山城と少し距離をとって、まっすぐに対峙するようにして、足を止めて、山城を見て遠江は言った。

「はい。私も道場破りをするのは初めてなので、なんだかよく道場破りの作法がわからなくて。すみません」

 じっと遠江を見て山城は言った。

 山城は腰にさしていた鮮やかな色をしたまるで芸術品のような刀を今は外していて、その代わりに遠江から手渡された木刀をその手に持っていた。

 同じ木刀を遠江も持っている。

 二人はこれから道場で試合をする。

 道場破りにやってきた山城の剣の実力を「まずは私に見せてください」と遠江が言うと、山城は「はい。わかりました」と言って、にっこりと笑って見せた。

 小さなころから剣の道場で育った遠江には山城の立ち姿を見ただけで(小柄で可愛らしい見た目とは違って)山城がかなりの剣の実力者であるとわかった。

 同じように山城にも遠江の剣の実力がある程度は伝わっているはずだった。なのに山城は笑っている。とっても心に余裕があるのだ。

「ではお願いします」

 遠江はそう言って一礼をした。

「よろしくお願いします」

 山城は同じように一礼をする。

 その瞬間、遠江は一気にばん!! と音を立てて道場の床を蹴って、木刀をまっすぐにもって、山城に向かって強烈な素早い駆け抜ける風のような得意技の突きを放った。

 それはまったく手加減のない、遠江の本気の一撃だった。

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