第44話 邂逅

「お城で……その……働いてるってこと……かな……?」

 ミクが城門近くになってから、小声で言う。

「……書記官とか……?魔法も使えたのでそういうのとか……?」

 ホークはぶつぶつとつぶやきつつ、友人の正体に悩んでいる。

「そもそも、そのお友達はどこで出会ったんですか?」

「……俺は六歳から王都の学校に通ってたんです。途中から編入してきたカイトは、九歳から十七歳まで同じ学校にいました。途中から急に実家に帰ると言っていなくなったんですが、もしソアの国に来ることがあったら、この住所にこの手形を持って来てくれと言われて大事に取ってたんです」

 さっきの地図といっしょに持っていた何やら丈夫そうな札には、たしかにカイト、と名前が書いてある。『ワッグテイルへの立ち入り許可証』と刻まれているそれは、地図にあった建物の名前。王宮の名前がワッグテイル。


「身なり整えてから行ったほうがよくない?ちょっと服ぼろぼろだし。アンタ鎧着てるし。かわいい服見繕っていこ。美少女が来ました!て感じにしてこ」

 ミクは明らかになんか楽しそうになってきている。

「バンリさんは何を着ててもきれいですが……そうですね、作法も調べて……」

 いつも都会のこと知ってますと言う顔だったホークも流石にお城に行くとなれば焦りもする。たとえ兵士として働いていたとしても、一応お城に行くための礼儀などを学ばなければならない。

「なんかそこにショッピングモールがあるらしい。いってみよう」

 ベンチで座ってみんなで戦略を立て直すことにする。ちょっと情報収集も兼ねる。


 まず、服をきれいなものに変える。確かにボロボロになっていた、ということを置いといてもこの国の服に着替えた途端あの湿気は軽く軽減された。しっかりした布なのに、割と涼しい。ミクもマントのような布をいつもまとわせていたけど、いい感じのスカーフがあったのでそれを首に結んであげた。

「ジュドーもホークもいいかんじ。かわいい」

「ええ、ふたりともかわいいですよ。似合っています」

 上はノースリーブ、下はサラッとしたロングスカートで、それに七分丈のざっくり編み込まれた上着を羽織る。それにネックレス、ブレスレット、耳飾りなどもそんなに高くないものではあるが、とりあえず選んで着飾ると、ここの外行き用の服にはなるっぽい。

「バンリさんも、よくお似合いです!」

 ホークが何でも私のことを褒めてくるのは私もミクたちも慣れてきたので軽く流している。でも、鏡で見た自分の姿はちょっと大人っぽく見えていい感じだ。

「お城に行ってそのカイトさんからの通行証を見せましょう。さて、どういう方なのか……緊張しますね」

 私よりもホークのほうが緊張してそうだけど……。数年一緒の学校に通っていて何も気が付かなかったんだろうか。


「てか四年も経ってるじゃん、覚えてもらってるのかなあんたのこと」

 ホークの肩に乗ったミクがぽつりとそう言う。というか、同級生の姉が王宮に訪ねてくるの不審かな……。おうちくらいなら、と思っていたけどもし身分の高い人だったら簡単には行かないだろう。

「とりあえず、行ってみましょう」

 ホークも覚悟を決め、少し派手なくらいの装飾をじゃらりと鳴らして店を出た。   

 

 そして次は情報収集だ。喫茶店に入り、軽く店員に話しかけてみることにした。

「こちらご注文の品です」

 中年の女性が私達の人数分コーヒーを運んでくる。ミクは店内禁止にされそうなのでリュックにそっと潜んでいることにした。

「あの、旅のものなのですが……今のこの国の王様はどなたですか?」

 ホークがまず話しかけると、店員の女性はにこりと笑んで答える。

「今はクレイン三世様ですよ。とてもいい王様です。まだお若いのですが」

「へえ、おいくつなんですか?」

「今は三十前くらいのはずです。数年前に変わられたので。あっでも、前の王様もお后様も、王宮でお元気にされていますよ」

 三十手前ならホークと歳が変わらないはずの友人は多分違うはず?王族ではないのかな……。

 ホークは何かを考えてコーヒーのカップに手をかけたまま動かない。


「……やっぱり、俺の友達に会いに行くのはやめましょう。カイトには兄が数人いました。後を継いだのがその兄の誰かかも知れません。今思えば、確かにあいつは他の人間とは違っていました。もし王族なら、俺達の呪いにつきあわせてはいけない」

「ホークさん……。ホークさんがそうおっしゃるなら、私は大丈夫です。八尾望さんやミクのお姉さんのこととか、色んな人に聞いて情報を集めましょう」

「申し訳ありません、俺が友達に会いたいと言ったのに……」

「いえ、いいんですよ。呪いが解けたら会いに行きましょう!」

 机の下から「うんうん」とミクの声が聞こえる。助けになってくれる人がいるなら、と思ったけど私達はひとりじゃない。食事もしばらくは困らないはずだし外に闇の魔導具のテントを張れば宿賃も節約になる。



「では、まず、八尾望さんを探して呪いをどうやってといたかを聞かなきゃですね」

 全く土地勘のない場所なので、とりあえずお店などで買い物をしながら尋ね回らねばならない。八尾望さんの今の居場所、王都から遠くないといいんだけど。


 一番情報が多そうなのは酒場だ。とりあえず夜になるのを待ち大きな酒場を教えてもらって全員で行く。

 分散して尋ねまわるのも良かったんだけど、知らない土地で女の子がひとりでうろうろするのは危険だろう。


 たどり着いた酒場は確かに大きかったが、まあ、元気そうなお店だ。だいたい男性ばかりで、夕方からもう飲み始めていたのか、すでに顔を真っ赤にして出来上がっている男たちも多い。

「カウンターに座りましょうか」

 カウンターの正面がちょうど空いていたのでそこにみんなで座ることにした。両サイドにはひとり呑みの男性がいる。

 ツーラ国では飲酒は十八から可能だったが、ソアでもどうやらOKらしい。


 店員の金髪の派手な化粧の女性に声をかけると、私の顔を見て一瞬止まる。何かついてるかな?と思ったけどそういやわたしは八尾望さんに顔が似ていた。とは言ってもだいぶん前ののことだから、年を取っていれば容姿は変わっているだろう。

「なにか?」

「いや、誰かに似てると思ったけど気のせいかな。……というか、その席、今のうちに移動したほうがいいわよ」

 移動?空いてたのに?と疑問を口に出す前に、酒場の扉は勢い良く開けられた。

「おいおい、カウンターは特等席じゃなかったのか?」

 いかにもガラの悪そうな男たちが数人ドカドカと入ってきた。あっ……あなたがたの席でしたか……?すでにアルコールが入ってる様子で、顔はゆだっている。この国の終業時間って何時なんだろ。みんなお酒飲むの早すぎる。


「失礼しました。旅のもので作法が分からず、つい。すぐにどきますね」

 私が椅子を降りようとすると、にやにやして一番体格のいい男がこちらに近づいてくる。


「いいじゃねえか姉ちゃんたち。一緒に飲もうや」

 太い腕で手首を捕まれる。腕力ではかなわないけれど、しれっと闇魔法を使うか悩むところだ。ミクはリュックの中にいるが、火魔法はやけどさせてしまうし、顔を青くして震えているジュドーも室内の風魔法は目立つだろう。仕方ない。静かに闇魔法で重力をかけてやろうとすれば、横からホークが男の手を掴んできた。

「すいません、その方にさわらないでいただけますか?」

「何だ姉ちゃんもいい女じゃねえか。そんなに怖い顔するなよ」

 いつの間にか他の男たちにも囲まれて、しれっと走って逃げるにも微妙なところになっている。ホークは今にも腰の剣を抜きそうな恐ろしい顔をしている。いや怪我をするようなトラブルを起こしたら情報聞きまわるの難しくなるでしょ!足元に重力をかけて逃げる、と手に魔力を集めたところで、離れた席にいた男性がため息のあとに立ち上がった。すらりとして背の高い、銀髪の褐色の肌の男だ。目は鋭いが、怒っている様子でもない。


「若いお嬢さんたちが怖がっているじゃないですか、マクシーさんたちも自警団を呼ばれては困るでしょう?」

「あ、ああ、殿下、いらしたんですか」 

 マクシーと呼ばれた大男はすぐに手の力を緩め、私は開放される。ホークもマクシーから手を離すが、見ているのは銀髪の青年の方だった。


「お嬢さんたち、怖がらせてしまいましたね。いつもはマクシーさんたちもああじゃないんですが……。嫌なことでもあったのでしょう。この国にせっかく来てくださったのに申し訳ない」

 マクシーたちがぺこぺこと頭を下げつつ別の席を取ると、銀髪の青年は店員に目配せをする。鋭い目はすぐに柔らかくなった。私が若いお嬢さんなら恋に落ちていたかもしれないという顔の整い方だ。ホークとはまた別の美形の男性である。


「今日は僕のおごりです。どうですか、よかったらご一緒に」

 ジュドーは王子様に遭遇した乙女の顔を見せている。ミクははリュックの隙間から顔を出して口を開けている。ミクもけっこう面食いなのは知っている。

 そしてホークは「カ、カ、カ……、カイ……」と小さく声をこぼして動かなかった。

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