第3話 みなぎる生命力

「バンリさんはお仕事は何をしてらしたの?」


 夜ご飯をこの一家と食べながら雑談をしていると、母親のヘラがそのように聞いてくる。

 戸籍のない私なのでできる仕事といえば限られていたが、昭和の後半からは接客業をあちこちでやりつつ、アパートを転々としていた。

「ええと、接客業とかですね……」

「まあ、どちらの街で?」

「うーん、少し前は博多ってところで……」

「ハカタ……?聞いたことがないわね」

 横から娘のマリナが割り込んで来る。それはそうでしょうね。一応言ってみたんだけど。この家族的には私達は山賊に攫われて森の中に捨てられた事になっているが、それでも故郷はそんなに遠方ではないと思っていたらしい。

 父親のラズが引き出しからゴソゴソと何かを取り出す。ここらへんの地図らしい。



「このサジ村は、ツーラ国のかなり奥だ。うちの村は農作物を街に売りに行って生計を立てている」

 気候は温暖で作物がよく採れるようだ。森の中にも果物がたくさんあった。近くには川もある。飢えから縁遠いようで、だからこそのこの人たちの善性が保たれているのだろう。倉庫には芋類ももりもりと箱に入っていた。


 地図を見ていると、多分世界中全てはそれには載ってはないようだ。このツーラ国とその近隣くらいだ。どうやら海は遠い。そしてツーラ国は近隣より小さめだ。



「学校にもうちは行かせてないし、魔法も使えないし、こういう仕事しかなくってさ、あまり都会のことは知らないんだ」

 申し訳なさそうに父親のラズが言う。

「魔法があるんですね、この国には」

「うん、私も少し使えるけど、ほんとーーに少しだけ」

マリナが苦笑いする。

「バンリさんは学校とか、魔法とかは……?」

「あはは、私も無縁ですね……」

 現代日本でこの話題だと学歴はとても気まずいものだったが、この世界では田舎では学校自体珍しそうだ。昔の自分が生まれた時代を思い出した。


「でも、バンリさん珍しい黒髪だし……。黒髪のひとって、魔力が多いって聞くわ」

「うんうん、初めて黒髪の人に会ったから、きっと魔法使いだと思ったの」

 ヘラとマリナが顔を見合わせながら言う。いや、黒髪なのは日本人だからなので……うちの国の人たちはみんな魔法使いってことになっちゃうからそれはない。と言いたかったが「そうなんですか〜?」ととぼけて流した。


「あの、これ子供でも読める魔法の本なんだけど」

 弟のカーターが絵本のような文字の大きな冊子を私に渡してきた。不思議とこの世界の文字は読める。

「ふーん、あとで読んでもいいかな?」

「いいよ、ぼくは魔力なかったし」

 魔力ねえ……。日本、というか古代の世界にはおそらく魔法のようなものはあった。が、私には関係のないものだった。まあ、この不老不死の体自体が魔法のようなものだけど。

 長い黒髪を指先に巻き付けて、ほんとうに魔法が使えたらいいのにな、とひとりごちた。



◇◇◇


「火の魔法、水の魔法、風も駄目。やっぱり魔法は無理みたいだよ」

 翌日、外で魔法の本見ながらカーターとマリナと試してみたが詠唱の後に宙に手をかざしてもうんともすんとも言わなかった。

「でもでも、魔法って向き不向きがあるの!属性はたくさんあるから、光とか闇とか、特殊なものだってあるし」

 マリナは初めて見る黒髪の人間に期待が大きいらしく諦めたくないようだ。

「そうそう、あと、聖女様しか使えない治癒魔法とか」

 カーターも目をキラキラさせている。

 治癒魔法か……。魔法の本に書いてある治癒魔法の初歩、詠唱もほとんどなしのそれを見て、カーターの膝小僧に手をかざす。一昨日転んで膝を擦りむいたらしい。

(治るイメージを頭の中に……?だっけ……?)

 短い詠唱をつぶやいて見ると、手のひらがお湯の中に浸したときのようにふんわりと熱を持ってくる。


「あっ!?」

姉弟が声を揃えて叫んだ。


 なんと、カーターの膝は、何も傷跡もなくきれいに治っていた。


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