第27話

アルベルト公爵が向かったのは、王宮の東棟にある、今は使われていない図書室だった。そこが、ガルニア残党の生き残りとの密会場所に指定されていた。


公爵は、まさか自分の腹心だと思っていた男が、すでに騎士団に寝返り、偽の情報を流しているとは夢にも思っていない。


図書室に入った公爵は、待っていた男――騎士団が用意した偽の工作員――に、苛立ったように告げた。


「計画は変更だ!今すぐ、あの男爵令嬢を始末しろ!私の関与を示す証拠は、一切残すな!」


「しかし公爵閣下、それでは……」


「うるさい!王太子が何かを掴んだようだ。このままでは、全てが露見する! 私の長年の計画を、こんな所で終わらせるわけにはいかんのだ!」


公爵は、もはや冷静さを失っていた。自分の野望、王位への執着、そして甥であるアレクシスへの嫉妬を、堰を切ったようにまくし立てる。


その全てが、部屋の各所に巧妙に隠された『記憶水晶』によって、鮮明に記録されていることも知らずに。


そして、公爵が「国王も王太子も、まとめて消してしまえ!」と叫んだ、その瞬間だった。


図書室の扉が、内外から一斉に開け放たれた。


一方の扉からは、剣を抜いたダグラス隊長率いる王宮騎士たちが雪崩れ込む。


そして、もう一方の扉からは、現国王陛下と、アレクシス、そしてフィオナが、静かに姿を現した。


「……なっ!?」


アルベルト公爵は、信じられないという顔で、その光景を見ていた。国王の冷徹な視線、アレクシスの軽蔑の眼差し、そして、フィオナの憐れむような瞳。


「叔父上。……いえ、アルベルト公爵。あなたの野望も、ここまでです」


アレクシスの静かな宣告が、図書室に響き渡った。


罠にかかったことを悟った公爵の顔が、みるみるうちに怒りと絶望で歪んでいく。


「アレクシィィィス! 貴様ぁぁぁ!」


見苦しい叫び声は、騎士たちに取り押さえられることで、虚しく途切れた。


断罪のワルツは、終曲を迎えた。残されたのは、絶対的な証拠と、哀れな反逆者の末路だけだった。

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