第6章 ② 暗転
出張自体は大過なく終わった。
……いや、終わったというより、俺が終わらせた。
新幹線の中で慣れない案件資料を読み解いて、技術に質問メールを打って、その後はホテルで作業を続けた。
士も適宜手伝ってくれたが、時計の針が0時を過ぎたあたりで 、自分の部屋に帰した。
それでも俺の仕事は続いた。
夜更かしが三十路にはしんどい。
結論は単純だった。前任者の仕様の詰めが甘くて、ズレが積み上がって爆発しただけ。
切り分けて、原因を絞って、いつもの手順で戻す。
(……最初からこれでよかったじゃん)
そこに気づいたのは、明け方だった。
とにかくトラブル対応は終わった。
俺は安堵しながら、士とお好み焼き屋で一息ついていた。時計はもう17時。
最終新幹線には間に合う。間に合うが――徹夜明けの身体は、もう限界だった。
「今日は泊まって、明日の土曜に帰る。……俺、もう無理」
そう言うと、士が目を輝かせた。
「じゃあ僕も残りますよ! 今夜は飲みましょう!」
(いや、一人になりたいんだけどな…)
(そもそもお前みたいな高身長イケメン、俺は苦手なんだよ)
……そう思ったのに、口はうまく拒否できない。
初めてちゃんと先輩扱いしてくれる後輩が、ちょっとだけ嬉しかったのもある。
気まずさをごまかすみたいに、酒が進んだ。
夕方から飲んだら、徹夜明けの身体には直撃だった。
視界が滲んで、音が遠くなって、笑ってるのか息してるのかも分からなくなる。
――次に気づいたとき、俺はホテルの一室にいた。
(……あ)
喉がカラカラで、頭が割れそうに痛い。
起き上がろうとして、身体が言うことをきかない。
視界の上に、士の顔。
(運んでくれたのか……また無様なとこ見せた)
申し訳なさで、
「……ごめん。悪いな……」
そう言いかけた俺は、言葉を飲み込んだ。
士は、なぜか――俺の上に馬乗りになって、不敵な笑みを浮かべていた。
「お前、童貞なんだ?」
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