【第16話】『三十人の牙』
リーゼロッテは、木々の間を音もなく進んでいた。
足音を殺し、気配を消し、影のように森を
フィーナの話では、
森の南側——昨日フィーナが話していた、テントが張られている場所。
そこが、連中の
やがて、木々の密度が薄くなり始めた。
リーゼロッテは足を止め、大きな
——予想以上だった。
森の中に、
おそらく、以前は小さな湖か
十張り。いや、それ以上。
テントの周囲には、武装した男たちがうろついている。剣を帯びた者、弓を持った者、槍を構えた者。
一目で、ただの
いずれにせよ、戦いに慣れた者たちだ。
リーゼロッテは、
——これは、まずいわね。
単純な
これだけの人数を動かすには、相当な
その時——テントの一つから、男が姿を現した。
大きな男だった。
身長は
周囲の男たちが、その男に道を開ける。明らかに、この集団の
「ガルド様」
部下の一人が、頭を下げて近づいてきた。
「
「そうか」
ガルドと呼ばれた男は、低い声で答えた。
その声は、地の底から響いてくるように重かった。
「どこだ?」
「北の森の奥、古い
「ふん。五年も逃げ回っていたわりには、大した隠れ場所じゃないな」
ガルドは、腕を組んだ。
「それで、『ロナンの涙』は確認できたのか」
「はい。首から下げていたと。間違いなく、目標のアストレアです」
「よし」
ガルドの唇が、
「『ロナンの涙』は、必ず手に入れる。依頼主は、高く買うと言っている」
依頼主。リーゼロッテは、その言葉に耳を澄ませた。
「しかしガルド様、少々
「何だ?」
「
ガルドの目が、わずかに細くなった。
「魔法使いだと?」
「はい。
「構わん」
ガルドは、
「魔法使いが二人三人いたところで、この数には勝てん。力押しで潰せ」
「しかし——」
「依頼主は、『ロナンの涙』さえ手に入れば、他はどうでもいいと言っていた。女どもは殺しても構わん」
「夕刻に動く。日が沈む前に、決着をつけるぞ」
「了解しました」
部下が頭を下げ、去っていく。
ガルドは、腕を組んだまま北の空を見上げた。
「待っていろ、小娘。すぐに捕まえてやる」
その声には、
リーゼロッテは、静かにその場を離れた。
見た限り、敵の数は三十人以上。全員が武装しており、戦闘経験も豊富そうだ。正面から戦えば、勝ち目は薄い。
そして——「依頼主」の存在。
五年前の
リーゼロッテの
けれど、それを確かめる
——とにかく、戻らなければ。
リーゼロッテは、森の奥へと駆け出した。
木々の間を縫い、影を跳び、風のように走る。
フィーナとユーリアが待つ、あの広場へ向かって。
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