3-09.ダンジョン・エスコート



 学院14号パーティでのダンジョンアタックでは、稼ぎは期待できない。


 どうしてそうなるのか。

 転生三人組が予定している具体的なアタック内容を説明する。


 まず、女子組がダンジョンに入ったことがないこと、パーティとして初回であることから、活動時間は最大で4時間に設定。


「ありていに、疲れる。身体も、心もだ」

「経験者が言うのであれば聞くべきでしょうね」


 狩りパターンとしては近場の遠出狩り。

 小一時間目安に幹線を進み、そこから枝道に入って狩りしながら戻る。


「時期的に競合が多いはずなので、狩りといっても、各自一回ずつ戦闘経験をこなせればいいな、の塩梅です」


 学院パーティだけでなく、秋分祭週の【祝福の儀】を経て、新たなるニュービー探索者が続々と誕生している頃合いのはずだ。

 入り口付近の狩猟圧は飽和しきっているだろう。


 夏季のニュービー?

 半分くらいは活動中だと思います。


「洞窟通路では人数展開できないので、先頭と戦闘をこなすのは基本一人ずつ、順番にだ」

「あ、あの。わたし魔術士なんですが、戦闘用の魔術はないんですが」

「知ってる。殴って」


 レベルがある程度あがって、MP増えてより強力な魔術を覚えないと魔術士はお荷物。

 だが、それでいいのかといえば否となる。


「うんまあ、魔術士が武術覚えちゃダメなんて決まりはないわね」

「自分たちも、戦闘スキルなしでなんとかなってる。なんとかなるのよ、第一層は」

「あーうー」


 ハズレ加護ギフトで戦闘スキルもない10歳児が、いっぱしの探索者面して学費の稼ぎがどうこう言っている。

 目の前の現実を、ユイもぎりぎり飲み込んだ。


「武器は適当な棒でいいんですが、服装は、なるべく肌を出さない厚手のものでお願いします」

「俺の初代相棒・・は、薪置場から調達したモンだったしなあ」


「よ、鎧とかは?」

「なくても、なんとかなるのよ、第一層は」


 ただ、主敵であるケイブバット(こうもり)の引っかき噛みつき対策で、肌を出さないようにと。

 毒か病気か、傷が元で熱を出す人がいるそうだから。


「女の子だしそもそも傷負わない方向、スカーフで顔の下半分覆うくらいの勢いで?」

「帽子かフードもあればなおよしだろ」


 狙うのはそのケイブバット。勝手に襲ってくるので返り討ち推奨。

 ファンガスは、傘の部分を叩かないように。

 スライムは無視。



   ☆



「なんだか、聞けば聞くほど大した場所じゃなく思えるわね」

「第一層の魔物はな。情報そろってりゃそんなもんだろ」

「経験者もいない情報もないで突入すると、大した場所になってしまうんでしょうね」


 視線がユイに集まってしまったのはご愛敬だろう。


「な、なんですか。わたし何かしましたか?」

「ううん。全員がユイみたいな状態のパーティだったら、何を打ち合わせるのかから大変だったろうなって」


 なお、昨日の今日でとりあえず行ってみるかで突撃したパーティなら、現時点で存在する。

 問題なく進行したのか、将来の笑い話になるのか、あるいは消えないトラウマになるのかは関知しない。


松明たいまつを、一人最低4本を持ち込み。常に2本灯したいので、男組・女組で持ち回りな」

「ねえ、ランタンじゃダメなの?」

「ダメじゃないぞ。ただ、その場合でも予備の松明は持っとけよ」


 転生三人組も部屋の照明兼用で購入したランタンを持っているが、初回は松明で行く予定。


「松明は事務棟の売店で売っています」


 1本小銅貨1枚と聞いてユイが呻いたが、これは安全と、命にかかわる物であると重ねる。


「院外で下手なものには手を出さないでくださいね。粗悪品ありますので」


 オルガたちが、半値だけどもちが三分の一という微妙な品を手に入れて慌てていたのはいつの日のことであったか。


 『安物買いの銭失い』。

 今世でも通用することわざだなと実感したものである。


「安いものにはワケがある。真理なんだよなあ」

「むう、わりと深いことを言いますねえ」


 ユイもお針子さんの娘である。

 仕事やモノには相応の値段というものがあると知っている。


「地図はどうします? 探索者組合で売っているんでしたよね」

「各自で用意が基本だ。はぐれた時、地図無しで帰ってくる自信あるならなくても構わないぞ」

「ふええぇぇ」


 女子組はジュスティーヌが購入、ヴィオラとユイはそれを写すということになった。


「なによ。文句でもあるの?」

「ないよ。ただ、信用できるのは幹線とその周辺くらいだから、そのつもりでどうぞ」


 不機嫌になったヴィオラだが、ユイの、地図ってどう読むんですかの一言で撃沈。


「そっかぁ、そっかあ」

「自前でマッピングする練習も必要だぞ」


 分配清算は単純に頭割り。


「できれば人数分の魔石を確保して、すっきりさっぱり清算したいが、こればっかはな」

「最初に言った通り、下手すると松明代も稼げないアタックになる」


 そこはユイも、一応納得した。

 しょっぱなから稼ぐアタックなどされても、自分がついていけないだろうことが理解できたからだ。


「男の子って、もっと無謀かと思っていましたが、ずいぶん慎重なんですね」

「あたしたちはいいけど、いっそ臆病ってとられかねないわよ」


 慎重と臆病の違いは、神様でもないとわからないでしょうねとセバスは返し、無理・無茶・無謀の三無主義を自分の身でやりたくないとヨッシー。


「最後に、ダンジョンで一番怖いのは魔物じゃない。悪意ある人間だ」


 ニヤリとラッドが微笑めば、ジュスティーヌたちもつられて引き攣った笑みを浮かべた。



   ☆



 秋季第一週、闇の曜日の昼下がり。


 ギリギリまでパズルゲームを行った秋季前半の履修登録を提出し、学院14号パーティはダンジョンに突入した。


 ユイが少々てこずったものの、持ち回りで先頭と戦闘をこなし、おおよそ3時間半くらいで地上に帰還。

 学院に戻り、事務棟の探索者組合支部の窓口で拾った魔石を買取に出して換金、配分。


 珍事は、遭遇した歩きファンガスをジュスティーヌが切り捨てたところ例のキノコがドロップしていしまい、転生三人組が怪しい行動をとったことくらい。


「自分は、自分はコレに目がないんじゃああ」

「譲ってくれ頼む」

「あ、お代はちゃんと払いますので。組合買取値の小銅貨1枚ですけど」

「は、はあ」


 気圧されたジュスティーヌたちを尻目に、ラッドとヨッシーがさらに怪しい言動を繰り返す。


「キノコ、キノコ様やでぇ」

「ぐへへへ、またうまぁいモンが食えるぞぉ」


 ポイントはこんなん、ナンボあってもいいからね!


「アレってそんなにおいしいの?」

「いえ、香りはよいのですが、味は普通にキノコとしか……」

「大丈夫なんでしょうか、この人たち」


 女子組、ドンビキであった。ていうかジュスティーヌ、食べたことあるんだ。



   ☆



 学院14号パーティは第二週にも2度の出撃を行った。


 3回のアタックで差し引き収支はざっくり小銅貨8枚のプラス。


 学費等を稼ぎださないといけないヨッシーにとっては危機感を覚える収入だが、休業週でつじつまを合わせるということで、まだあわてる時間じゃないの様子見モード。


 ヴィオラの生理周期の関係で大事をとってスケジュールから除外した第三週。

 一度集まって、各自のクラスでの結果発表・反省会に向け、パーティ活動を総括する。


「このパーティはうまくいった、という結論でいいんでしょうか?」


 言いつつも首をひねるユイ。

 パーティとして大きな失敗はないと思うが、手元の小銅貨数枚を見てしまうと成功したとは言い難い。


「ユイは実入りが気になるんでしょうけど、慎重に事を進めた結果だしねえ」

「俺たちの、とにかくリスクは減らすって方針が妥当かと言われると、どうだろうなあ」


 もっと長時間、もっと深くまで。3回と言わずに4回も5回でも。

 稼ごうと思えばやりようはあった。


 ただし、いわば足手まといをエスコートしながら本気狩りをやりたいかと言われると、絶対にNO!


 慣れないうちは洞窟を数時間歩くだけでも疲れる。

 3~4時間のお試し狩りは、隠しきれない疲労をためる女子組への配慮でもあった。


「私はパーティ運営に問題があったとは思いませんが、評価基準をどこに置くかでしょうか」

「その辺も踏まえて、他のパーティの意見も聞くための発表会なんでしょうね」


 発散していく話題をリーダーであるラッドが締める。


「ともあれ、14号パーティはこれで解散だ。あんたらと組めて楽しかったぜ」

「誰にもケガなく、無事済んだもんな」

「ジュスティーヌさん、ヴィオラ、ユイの益々のご活躍をお祈り申し上げます」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る