2-06.中間報告



 ラッド・ヨッシー・セバスの転生三人組とオルガ・アズクル・グラムの養護院キッズ連合は、当面のダンジョン活動において合意に至った。


 暫定確定した夏季第四週から第十週までのスケジュールは次の通りとなる。


 ・光の曜日  休む

 ・火の曜日  荷運び5人(小銅貨6枚)

 ・水の曜日  狩り5人(セバスOUT)

 ・風の曜日  荷運び5人(小銅貨6枚)

 ・土の曜日  休む

 ・闇の曜日  荷運び5人(小銅貨6枚)

 ・無の曜日  狩り6人(セバスIN)


 なお第六週は幼年科休業のためセバスもフル参加。第十一週は予備、第十二週は期限切れのため慮外とする。



   ☆



 夏季第四週・第五週は、こまごますり合わせをしつつスケジュール通りに進行した。


 珍事といえば、松明たいまつ2本で小銅貨1枚だったぜと買い物上手を自慢したオルガたちが、火が20分しかもたずに慌てていたくらい。ただしその火は明るかった。


 組合推奨の正規品なら1本小銅貨1枚で60分もつと考えると、60分/1枚に対して40分/1枚なので、性能3分の2と言えなくもない。


「クソックソックッソがよぉ!!」

「うーん。明るさに振って燃え尽きるのが早いと考えればアリな範疇にも思える」


 予想通りであったのは、やはり10歳児に片道10kmの荷運びはきつかった。


 でも報酬がはっきりしているので頑張れた。

 逆に狩りでは疲れが尾を引き体力を温存しがちになったが、休みにしようとは誰も言い出さなかった。


 セバスの兄たちの経験談に基づき、スライムは避け、クリーピング・ファンガス(歩きキノコ)も避け、たまに見かける歩かないほうのファンガスの胴体部分をロースイングで滅多打ちし、不意打ち上等なケイブバットに上等だと逆切れする。

 採掘は鉱脈を見分ける目もないし、道具を買う気もないため除外。


 ダンジョンの地図は組合で売っているが、当然のごとくに買うカネなし。

 兄のものを写した地図はセバス管理で、主要幹線部分だけをピックアップしたものをラッドが持つ。


 というか、信用できるのは主要幹線だけというのが探索者の常識。

 枝葉は日々欲望ドライブで新しく生まれたり伸びたり拡張されたり崩落して埋まったり。


 先々の練習もかねて、全員に自前マッピング推奨。

 休みの日にみんなの分を突き合わせると、どうやってもつじつまが合わないという貴重な経験を積んだ。


 不安があったバトルは、2~3回で慣れた。


 死体や血しぶきの類が残らないというのが、転生三人組の精神的負担を大きく減らしている。

 オルガたちは、もとより「こういうもんだろ?」と気にするそぶりもない。


「文字通りのゲーム感覚ってのも、それはそれで問題ありそうなんだがな」


 振り回した武器が当たればなんとかなる、肌をさらさなければ軽い傷ですむ、面倒な敵からは逃げる。


「勝てる相手に勝つべくして勝つ。実に王道」


 しかしダンジョン内を徘徊するライバルも多く、かつ全力を索敵に振り向けることもできずで、狩りの成果は正直、芳しいものではなかった。


「足は出ていないが、思ったより松明代がきついな」

「狩りでも松明1本に……いや、ダメだな。ただでさえ視界が狭い。後ろがクソコウモリにつつかれても対応できなくなっちまう」

「キノコはほとんど生えてないし、コウモリしか食う相手がいない」


 セバスの『ひのきの棒』や、改善案を受けて自作した『連接棍フレイル』を装備するラッドとヨッシーはまだいい。


 薪置場から調達した『こんぼう』装備のオルガ、アズクル、グラムは圧倒的にリーチが足りない。


 少し上空を飛ばれただけで手が出なくなる状況に歯噛みするも、小銅貨3枚で『連接棍』作るかとの提案には噛みつく。


「ふっかけんじゃねーよ」

「いや、作業賃として破格のつもりなんだが」


 なお、端材と薪で連接棍フレイルを自作するラッドを眺めていた木工職人の父親は、やはり俺の息子だなと後方親父面を晒していた模様。



   ☆



 季の半ばにあたる第六週は、幼年科の休業をうけてセバスもフル参加。


 荷運びで疲れ果てるセバスの姿は、他の5人に2週間分の地道な成果を自覚させた。


「ま、俺らほぼほぼ毎日歩き回ってるからよ」

「筋肉は裏切らない」

「お坊ちゃんは貧弱貧弱ぅ」

「ムッキー」


 狩りでは趣向を変え、索敵しながら進むのではなく、ある程度奥に行ってからの索敵にパターン変更を提案。


 最初の移動に時間を食われるのだが、オルガたちもあっさり賛同した。


「奥に行かねーと獲物にありつけねぇってことだろ」


 『近場はおいしくない』こと、ポーター活動で『奥に行くほど幹線でも接敵する』ことを体感していたため理解が早い。


「日帰りの範囲ではファンガス農園までは届きませんが、どこであれナワバリ主張する人がいたら即撤退で」

「ファンガス農園?」


 おいしい狩場は独占したいもの。


 もちろん探索者組合は狩場独占など認めていないのだが、ダンジョン内で取り締まりを行うほどの熱意もない。


 無法地帯でも通用する掟、『力こそ正義』。

 第一層でクダを巻いてるチンピラであっても、相対的に現在の6人よりも強い。


 さらに、単独や少数でイキがってる独立チンピラならまだしも、紐付き縁付き傘下衆めいたチンピラ相手に下手をして、ケツモチがメンツを潰されたなどと言い出すと面倒臭すぎる事態になる。


「『チンピラと、関り避けて憂いなし』。先達のお言葉です」

「ああうん、それはわかったが、ファンガス農園ってなんなんだよ」


 さて、ダンジョンの魔物の発生にはいくつかのパターンがある。


 人の目の前では発生しない……は、多分、おそらくきっとレベル。例外あるし。

 固有の発生個所・エリアがあるケース、ランダムな場所で発生するケース、そして繁殖風に発生するケース。


 ダンジョンに生える、あるいは徘徊するファンガスの一部はこの繁殖風のケースが該当する。

 まかれた胞子のどれかが残り、そこから発生するパターンである。


「じゃあ、ファンガスを集めて胞子をまかせてから倒せば、そこがファンガス・スポットになるのかと。誰かが考えつき、実行」

「んで出来上がったのがファンガス農園ってことか」


 狩場の独占レベルをこえてダンジョンの一部を私物化など、組合的に絶対に認められないことなのだが。


 幹線を外れたうえに第一層最奥という立地。

 かつ、しょせんはファンガス。

 魔物(ファンガス)&ルーキーの養殖実績、複数クランへの人材供給。


 といった理由により、見えない聞こえないと黙認されている。


 なお新規の農園労働者は、「たどりついたニュービー」の中から「性格」で選別スカウトしているのだとか。



   ☆



 足早に、荷運びで通いなれた道をある程度の奥まで進行。

 そこから左か右かでエリアを切って、今日はコッチ、次回はアッチと決めて狩りのスタート。


「やっぱ、奥にくれば獲物いるな」

「近場の倍くらいになってねーか?」


 というわけで、第四週から第六週までの3週間分のリザルト。


 セバスを除く各人に、それぞれ小銅貨82枚の収入があった。


 内訳は、荷運び54枚、狩り28枚。

 荷運び中に襲撃してくる魔物は倒した者取りで狩りの成果に含めている。


 狩りの出撃回数が5回なので、均して1回当たり5枚を超えた。第六週の遠出狩りの成果がだいぶ効いている。


 ここから松明や、マッピング用の筆記用具、靴というか下駄代を差し引いて、実際の実入りは半分近くにまで落ち込む。



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