1-06.魔法使いたい



 雑な短髪のヨッシー、角刈りのラッド、ひっつめ髪のセバスの三人は転生者である。

 道連れ転生の発覚からこっち三度目の集会を行っている。


 ここまでに状況の整理と展望、各人に与えられた加護ギフトの検証を済ませた。


 ラッドは魔力切れの前兆と思わしき頭痛に、額をほぐしたり首を回したりしてみたが特に効果はない。

 我慢はできる範囲だが、ついでなので聞いてみた。


「なあ、この魔力切れってどうすりゃ治る?」

「あー、休むしかないです。時間経過の自然回復任せ」


 お金があれば、お高い魔力回復ポーションなるものもあるそうですが、ご縁がないのでとセバスは肩をすくめる。


「うちの母曰く、魔力とは命の力そのものだそうです。なので使える魔力、いわゆるMPって、生命力の余力分ということらしいです」

「ああ、だからMP消費すれば生命力の再生産が必要になって、ありていに言えばクッソ腹減るのか」

「あ、そういうことなのか。自分、成長期かと思ってた」


 量だけは食える養護院のヨッシーと違い、大盛にしても限度のあるラッドはこのところのすきっ腹の原因に苦い顔をする。


「んで、根っこの部分、魔力ってどうすりゃ増えるの?」

「霊格レベルとともに増えるらしいですよ。いかにも『ゲームっぽい』ですね」


 霊格レベル、つまり生命体としての『格』があがれば余力も増える。


 魔術系の研究の蓄積により、各レベルでの標準的なMP量、各魔術の消費MP量も数値化されている。


 より正確には、レベル1時点のMPを10と決め、そこから算出していった値が使われている。

 個人差を含み若干の幅はあるが、目安にはなる。


「現在のヨッシーの最大MPが10として、【個人倉庫】の『出し』『入れ』ともに同じMP消費とすると、消費5・5の10、6・6で12と推定されます」

「せんせー、6・6だと最大MP超えてまーす」

「その場合、HP……というかLP的なものを削るそうです」


 余力じゃない生命力くらいの意味なので、LifePointsのLP表記が無難かも。


「死ぬやん」

「死にます」


 ヨッシーは、目と歯をむいた驚き顔で硬直した。


 頭痛だ悪寒だは、身体が知らせる危険サイン。

 そこからさらに踏み込むのであれば、気絶できればある意味マシで、最後の一滴まで生命力を使い果たせば当然、死ぬ。


「となると、自分は『入金/買取査定』1回につきMP1の消費か」


 ふむ、と納得するラッド。

 元気よく腕を突き出しヨッシーが割り込む。


「わい将、再度懲りずに実験、またもや吐いた模様」

「死ぬよ?」


 あえてなのか素なのか、ヨッシーは油の切れたロボットめいたぎくしゃくした動きでセバスに縋りつく。


「せやかて工藤、限界まで使うことで最大MP伸びるって、業界の常識やん。筋肉マッスルの超回復理論やん」

「誰が工藤や。魔術関連は長年研究されてきた分野で、目に見える効果はないって結論でてるっぽいよ」


 過去に、命削って検証した人たちがいた、ということでもある。

 先人の尊い犠牲は、後人にとって大事に利用させていただくものだ。


「まじかあ……」

「業界の常識、世間の非常識ってな」


 ラッドにも突き放されたヨッシーであった。

 まあ、ヨッシーの言ってる業界って、前世創作界隈での転生モノにおける一派でしかないし。


 なお魔術スキル、一般魔術(小魔術・キャントリップ)の上位階梯になる初等魔術で、攻撃の基本となる【何々バレット】の消費MP目安は5。

 仮に初期MP10とすれば、1日2発でヨッシーのようにゲロまみれになる危険性がある。


「魔法使いだろうがメインは体力勝負でどつきあいって、ストロングスタイル。夢が壊れるなあ」


 ヨッシーが嘆いて見せれば即座に残り二人がツッコム。


「いやいや、オールドスタイルな魔法使いなら肉弾戦こなしてナンボですよね?」

筋肉マッスルは大事、はっきりわかんだね」


 それもまた、一部業界のみの常識な気はします。



   ☆



 じんわりとMPが回復しているのか頭痛が収まってきたラッドがなんとなしに呟く。


「しかし、魔法か」

「いいなあ。せっかくのナーロッパ・ファンタジー風味異世界なんだし、俺も魔法使いてー」


 つぶやきにのっかるヨッシーに、セバスも【個人倉庫】や【通信販売】のほうがチートだろうにと受けるが、気持ちはわかる。

 だって、魔法だもの。


加護ギフトのポン付けでいきなり魔力の自覚や操作ができてしまったから、どうすれば使えるのか教えようがないある」

「まあ、そりゃなあ」


 世間に知られていないが、この世界での魔法と魔術は根っこにおいて同じもの。


 加護名【生活魔術】だと属性魔術の小魔術階梯(キャントリップ)と区別がつかないから、【生活魔法】と名付けられただけだったりする。

 大人の事情ってヤツなのだ。


 というわけで、長年研究が積み重ねられた魔術のあれこれがそのまま流用できる。


 魔法・魔術の大前提は、①自身の魔力を認識できる、②それを体外に出せる(魔力操作)こと。


 そのうえで、「魔力量+魔力操作の精度+イメージ」が重要になる。

 魔術の入門書などで魔力的トリニティがどうこうと書かれているアレである。


 呪文詠唱は、魔力操作とイメージの補助。


 どういうふうに魔力を操り、いかなる効果、現象を発現させたいのか。


 それを歴代の魔術士たちが心震わせ魂を奮い立たせる文言を組み合わせて紡ぎあげてきた、とってもポエミーな呪文で表現しているのだ。


 いや、馬鹿にできないのよ。

 信じているから効果が表れる。思い込み、イメージの強さが大事な領域の技能スキルなので。


 ちなみに属性魔術の加護ギフトは、属性の適正があり、かつ前述①・②の才能が多少なりとある者で、他の条件も勘案し選ばれた場合に、初等魔術とセットでポン付けされる。


 しかし、純粋な技術スキルとして身につけるには、まず、あるかどうかもわからない①・②の才能を開花させないといけない。


 よほどの熱意・暇・金が必要であり、大多数の人は修行する前にあきらめる。


 属性の適正は、お金があるなら『魔力適性鑑定』という、各属性に反応する水晶に触れて魔力を送り込む・・・・ことで適性と強度(程度)を鑑定してもらえる。

 ええ、その時点で①魔力認識と②体外魔力放出をクリアしていますね。


「魔力認識は一応パスしてるのか? ギフトスキル使う時のコレが魔力ってことで」

「あー、確かに魔力か。けど、これを体外に? どうやって?」

「そないなこと僕に言われても」


 学院には魔術科もあるが、それこそ加護ギフトでポン付けされた『魔術士』が後追いで理論理屈を学ぶための場所だ。


 よって、【生活魔法】使いのセバスは、魔術科への入科資格がない。

 なので探索科に行くしかない。


 家政科や官吏科ではレベル100という必達目標に遠回りだから。


「厳しいけれど、時間かけて試していくってことで」

「了解」

「ま、ちょっとは期待しているんだからね」


 男のツンデレ仕種は嫌いだとセバスとラッドの二人でヨッシーに物理ツッコミをいれて、この日は解散となった。





■メモ

 いにしえのTRPG、『T&T(トンネルズ&トロールズ)』では「魔法」を使うと「体力」を消費することから解釈が広がり、「魔法使いとはマッスルの使徒」「これでもくらえマッスルビーム」と称する一派が現れるとかなんとか。


 割り切ったシステムが魅力の『T&T』を脇に置いても、この手の源流を探っていくと出てくるJ・R・R・トールキン氏の小説『ホビットの冒険』や『指輪物語』の登場人物、魔法使いガンダルフが肉弾戦爺だしなあ……





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