回送電車

アズキ

プロローグ

午後1時を回る頃。

東京駅の中は昼の賑わいに比べればとても静かなものになっている。普通の駅に比べれば少し賑わっていると言えるだろう。

風間想太(かざまそうた)は休日に東京駅周辺で友達と遊んだ帰りだった。時間を気にしていなかったため、終電に乗るしかなかった。

終電になれば人も少ない。今日は特にそんなに人が多い感じはしなかった。山手線のホームで電車を待った。遠くから電車の音がする。危ない、これを逃してしまえば帰れなくなってしまう。扉が開くとサッと中に入った。

やはり人は少ない。自分と人が1人2人いるだけだ。

風間は誰も座っていない席の一番端に座った。端の席は壁があって寄りかかるのにちょうどいい。そのまま寄りかかると眠気に襲われ、眠ってしまった。

目が覚めた時、風間は今何駅なのかと少し焦った。

東京から山手線に乗って目黒に向かう予定だった。寝てしまったので寝過ごしてしまったのではないかと思ったのだ。電車内のモニターを確認する。だが、いくら待っても何も表示されない。

周りを見ると、何人か人がいるのが分かる。

座っている人、自分と同じようにモニターを確認している人。しばらくすると、アナウンスが流れた。

『回送電車をご利用いただき、誠にありがとうございます。まもなく、神田に止まります。』

何?神田?風間は目黒を目指していた。その方向とは逆方向に電車が進んでいる。そして、「回送電車」とはどういうことだ。回送電車に人は乗らないはず。風間だけが寝過ごしてしまいずっと乗っていたとしても周りに人がいるのはおかしい。というか、寝過ごしていても普通は起こされておろされるだろう。なのに何故、回送電車に乗っているのか。回送電車は駅に止まることはないはず。

もう一度周りを見渡してみた。人が乗っている。モニターを確認している人は風間と同じようになんだこれという雰囲気が出ている。

そばに座っている人がいた。だが、顔は青ざめて震えている。そして、何やらボソボソと独り言を喋っているようだった。「オリチャイケナイ、オリチャイケナイ」そう言っているように聞こえる。降りちゃいけない?駅で止まった時、降りてはいけないということなのか。

「降りちゃいけないってどういうことですか?あと、この電車はなんなんですか?」

座っている人に聞いてみた。でも、何も答えてくれない。まるで風間のことが見えていないかのようだ。本当に見えていないのか、それとも何かに怯えていて見ることができていないかの2択。

電車が止まる。

『神田〜神田〜。』

電車のドアが開いた。窓から駅の様子が全く見えない。白と黒のノイズがはしっている。

目の前にいた男が急にドアの方へと駆け出した。ドアの目の前で何かを言っている。かと思うと急に涙を流してドアの外へと出ていってしまった。どうなったのかと気になって自分もドアの前へ行こうとしたが、ドアが閉まってしまった。扉の窓からも外の様子は見えない。

次の駅は、秋葉原か。

神田から秋葉原までは2分程度。その間にできること。運転室に行くことだ。電車の車両を1つ1つ進み、運転室を目指した。風間の他にも人はいた。でも、誰も話しかけては来ない。恐らくは見知らぬ人に聞くことができない現代の人なのだと思う。少なくとも、自分はさっき、座っている人に声をかけた。その人がどうなってしまったのかは分からないが。

運転室についた時、その近くの扉の前に駅員がたっていた。

駅員といえば紺色の制服というイメージだが、全身白と黒の制服を着ている。いどちらかと言うと黒の方が多いような気がする。しかも、ドアの前に駅員が立っているのも不思議だ。でも、この状況を聞かない訳にも行かなかった。

「あの、すいません。この電車って何なんでしょうか?」

「当車両をご利用いただき誠にありがとうございます。この電車はかいそう電車です。目的地でお降りください。」

「回送電車って普通は人乗らないですよ。各駅停車もしないですし。」

「この電車はかいそうです。各駅に止まります。降りるか降りないかハッキリしてください。迷いは禁物ですよ。駆け込み乗車や発車の妨げになる恐れがありますので。」

相手にされない。されているのかもしれないが、のらりくらりとかわされている気がした。

そうしている間に秋葉原に着いた。

今回はドアの前に立ち、駅がどのようになっているのか知りたかった。

目の前のドアが開く。

目の前にいたのは。昔死んだ親友。

小学生の頃だ。帰りの電車を待っているとき、喧嘩になった。風間の手を掴んだ親友の手を振り払った時、親友はバランスを崩して線路へ落ちた。運悪く、そこに電車がやってきて即死。心の中では何度も自分のせいだと思った。でも、怖くて、本当のことを伝えなかった。自分は助けれなかったんだと偽善ぶった。あの時死んだ親友が今、小学生の姿のまま目の前に立っているのだ。

風間は感情を抑えることが出来なかった。

「あの時は、ごめんな。俺が悪かった。」

電車の外に出る。小学生の姿をした親友に抱きつこうとした時、親友の目が白と黒になった。口にはとてつもない牙が立ち並び、風間の心臓へと噛みついた。

駅のホームには血の雨が降り注ぎ、風間の悲鳴が響いた。


『回送電車』

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