【習作】得意じゃない
尚も、友
本文
ぼくが得意なのは水泳です。
みんなは夏しか泳がないけど、ぼくは夏以外も泳ぎます。春も、秋も冬も泳ぎます。「冬は寒いんじゃない?」って言われるけど、スイミングスクールの室内プールは冬でもへっちゃらなくらい、あったかいのです。
ぼくの友達のコウヤもみんなと同じで、やっぱり夏しか泳がないみたいでした。今年の夏コウヤと一緒に市民プールに行ったとき、コウヤはサッカーも野球もめちゃくちゃ上手いのに、水泳で一番かん単なバタ足でもよたよたしてたんです。
ぼくは、それを見て笑っちゃいました。僕より運動できるコウヤにも上手くできないことがあると知って、おかしかったからです。するとコウヤはなぜかおこってきたんです。「いけないでしょ」って、先生みたいに。
すぐに「ごめんね」って、コウヤにあやまりました。コウヤはその時、いっつもするケンカの時よりはすんなりゆるしてくれた気がします。
あっけなさすぎて、「ごめん」だけ言ってもぼくはゆるされてる感じがしなくて、でも「ごめん」よりしっかりあやまれる言葉ってあったかなって、迷ってて。
教えたらいいのかなって思いました。しゃべるだけじゃダメだと思ったから。
僕は教えるのが初めてだったから、最初はスイミングスクールのコーチがしゃべる感じをマネをしてました。でも、コウヤは上手く分かってくれないみたいでした。そういえば、コウヤはスイミングスクールに通ってないから、コーチとも話したことないんだった。うっかりしてました。
「泳いで見せて」って言ったのはコウヤの方だったと思います。「そっちの方が早いから」って。
プールは輪っかの形をしていてずっと流れているやつだったから、ぼくはちょっと泳いで、すぐプールサイドに上がってもどって、また泳ぐのを、何回もくり返しました。それをコウヤは、プールサイドで体育ずわりで見てました。
泳いで見せるのは、ぜっ対に十回はやりました。プールサイドに上がって、ちょっとつかれてきたけどもう一回泳ごうとしたときに、コウヤが「かして」って言ってきたんです。ふたりとも水着は着てたから、かせるのは、ぼくが使ってたビート板しかなかったです。
コウヤがプールに入ると、水の底に足を付けて立ってたところから、ぴょんとうき上がりました。足をバタバタさせ始めるとちょっとずつ速くなって、流れるプールでぷかぷかうかぶ人たちの中をすいすいかき分けて進んでいきました。
プールサイドは走っちゃいけないから、ぼくは歩いてコウヤを追いかけました。さすがにぼくが歩く方が早かったけど、僕はコウヤの泳いでるところを見ておどろきました。
足がしっかりしなってました。コーチがいっつもぼくに言ってたことで、ぼくが何週間も通ってようやく覚えたところです。
コーチに何回も言われたんです。「足の力をぬけ」って、「君は力入れすぎだから」って、「足、ぼうみたいになってるから」って。いやになるくらい。
その日はもう泳ぐ気になれなくて、コウヤがやってるのをずっと見てました。
ぼくはクロールと背泳ぎと平泳ぎは、三つとも25メートル泳げます。学校で水泳のじゅ業をするとき、クラスの子は「顔を付けるのも怖い」って言ってました。ぼくは3種類、25メートル、学校のプールのはしからはしまで泳げます。
ぼくが次に習うのはバタフライの予定でした。ぼくは、小学校にいる間ほとんど水泳を習ってきました。
お母さんに言うのはちょっと勇気が要りました。
「やめるだなんて!得意だったんじゃな──」
「得意じゃない」
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