雨音に溶ける熱——その瞳に見つめられた瞬間、逃げ場などないと悟った。(エロティック)
DONOMASA
プロローグ
夕立と呼ぶにはあまりに激しい雨が、窓ガラスを打ち続けている。
分厚い雨の膜によって、この部屋は世界から完全に切り離されてしまったようだった。
空調の微かな唸り音さえも雨音にかき消され、湿った空気が肌にまとわりつく。
シャツの背中が汗で張り付く不快感すら、今の私には別の意味を持って感じられた。
向かいのソファに座る彼が、ふう、と短く息を吐いてネクタイの結び目を緩める。
その無造作な指の動きを、私は目で追わずにはいられなかった。
喉が乾く。
テーブルの上のグラスに手を伸ばそうとしたが、指先が微かに震えているのを悟られたくなくて、すぐに膝の上で拳を握りしめた。
彼はこちらを見ているわけではない。
ただ、薄暗い照明の下でグラスの氷が溶けていくのを眺めているだけだ。
それなのに、彼自身の体温が、数メートルの距離を越えて私の肌を焦がしているような錯覚に陥る。
沈黙は、雄弁だった。
言葉を交わしてしまえば、この張り詰めた糸が切れてしまうことを、互いに理解している。
理性という名の薄氷の上に、私たちは立っていた。
彼がゆっくりと顔を上げ、視線が絡み合う。
その瞳の奥に揺らめく暗い熱を見た瞬間、私の呼吸は止まった。
逃げる場所など、最初からどこにもなかったのだ。
雷鳴が遠くで響く。
それが合図だったかのように、彼がソファから立ち上がった。
足音が近づいてくる。
一歩、また一歩と距離が縮まるたびに、心臓の音が耳元で警鐘のように鳴り響く。
予感は確信へと変わり、恐怖に近いほどの期待が身体中を駆け巡る。
私はただ、近づいてくるその熱から目を逸らすことさえできずに、身動きも取れずにいた。
次の瞬間、世界が反転するようなめまいと共に、長い夜が始まろうとしていた。
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