第12話 優しい雨

「たかがこぉーいぃーなぁーんてーわすれれぇーばぁーいぃー」



「倉ちゃんも愛の難破船ね。良い船が見つかると良いわね。金屏風は鬼門よ。」



ママが何か遠回しに励ましと忠告をしていた。




今日はスナック定例議会、多分最後になるだろう。


来月は年末なんで普通に忘年会&お別れ会になる。



「ユウくん、次の仕事見つかった?」


中原さんが心配して聞いてきた。


「うーん、実はまだ…」


そうなのだ。求人を探していて見つけた動画であの騒動…

とてもじゃないが転職先を見つける気持ちになれなかった。


まあ焦らず失業手当でも貰って此処みたいに働きがいのある所を探そうと思っていた。


「ユウくんってお店で料理作ったりって希望はないの?」


「うーん、ここに来た頃は色々あって…若い子が働いてる店が辛くて避けてました。」


「ははは、成る程、それで此処だったんだね」


「はい…正直辛い事から逃げて、目を逸らしてここに来てました。でも…最近やっと解決したと言うか、踏ん切り付いたと言うか…前を向いて進んで行きたいと思っています。」


「そうかー。若い内は色々あるよなあ。私だって今はこんなおじさんだけど色々悩んで生きてきてるからね。」


「そうですよね…って中原さんがおじさんって意味じゃ無いですからね!」


「あはは、良いんだよおじさんだから」


「本当にすみません…」


「確かユウくんの履歴は○○ホテルのレストランで働いてたんだよね?」


「はい。まあ3年位しかいませんでしたが…」


「私も昔働いていてね。鞠保ってシェフ知ってる?」


「えぇ!?中原さんがあそこで!?鞠保さん!?めっちゃ尊敬してました。俺、鞠保さんが辞めたからやる気無くなってあのレストラン辞めた位ですよ。」


「わあ!そうなんだ!鞠保くんが聞いたら喜びそうだなあ。」


「どうでしょうね?多分俺の事なんて覚えて無いと思いますよ?」


「そんな事無いと思うよ。彼は料理が好きで作ってる人はちゃんと見てるから。」


「へー!」


「でね、昔鞠保くんが入って来た時に私が教えていたの。」


「えぇ!?中原さんは俺が憧れている人の先生…神さまだったんですね!」


「なんか凄い持ち上げられてるけど…鞠保くんは天才だからね、私なんかすぐ追い越されちゃったよ。ははは」


「そうですか…」


「まあ、私もあのレストラン辞めた理由が、もっと沢山の人に、私の料理を食べたいと思う人に気軽に食べて欲しいってのだったから…」


「うわあ、鞠保さんが辞めた理由と全く同じだ…やっぱり中原さんは鞠保さんの師匠だなあ…」


「ははは、私は師匠とは思ってないけどね。ただ、鞠保くんは未だに私に連絡くれるんだ。」


「へー!やっぱ鞠保さんは人間出来てるなあ」


「でね、鞠保くんはやっと理想の店をオープンさせたんだけどね…やっぱり忙しいみいで人手を欲しがっててね、入る人は人柄も良くて料理を作るのが楽しくて好きな人にしたいみたいだから…私はユウくんを紹介したいなって思って。」


「えぇ!?俺なんかで良いんですか!?大した経歴も経験も無いのに…」


「私はね、そばで見ていたけど、ユウくんは本当に料理を作るのが好きなんだなあ、楽しいんだろうなあって思ってたよ?」






「あはは、やっぱタムさんは料理に置き換わるんだねー!好きなんだろなあ」


「タムさんが作る料理美味しいもんなあ。同じ食材使っても作れない」


佳奈ちゃんの言葉を思い出していた。



「タムさんは?何か夢とか目標とか見つかってる?」


『ただ料理を作るのが好きで、どこかのそれなりのお店でやりたいなって程度だった。』



昔漠然と思っていた俺が思う夢…の様な事を思い出していた。


俺に大してデッカい夢はない。


ただ、どこかで好きな料理が作って行けたら良いなあ…だ。


こんな事、佳奈ちゃんに言ったら笑われるかな?呆れられるかな?


でも…

佳奈ちゃんならきっと応援してくれるって思えた。

そう思えたから



「是非宜しくお願いします!」



と中原さんに返事した。



中原さんは

色んな人に影響を与えて見守って、きらきら優しく輝く恵みの雨みたいな…


しし座流星群みたいな人だと思った…

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