第18話 ユリウスの献上と、反撃の時
聖域での三日三晩の儀式を終えたシルヴィアは、王都の公爵邸に戻ってきた。彼女の銀の髪は、以前よりも光を増し、エメラルドの瞳には、冷徹さではなく、すべてを包み込むような深い慈悲の光が宿っていた。
公爵邸の庭園では、可愛らしい母君が、穏やかな日差しの中で花の手入れをしていた。その傍らには、妻を見つめるカール公爵が、書類を手にしながらも、その口元に微かな優しい微笑みを浮かべて立っている。
「シルヴィア、おかえりなさい。大丈夫、もう何も恐れることはないわ」
母君の温かい抱擁を受け、シルヴィアは初めて、真の安心感を感じた。
その日の午後、ガブリエルが、戦場からの帰還報告を終え、公爵邸に戻ってきた。彼は、社交界では**「白銀の騎士」**として貴族女性たちの憧れの的だが、妹の前では、その鎧を脱いだ一人の兄だった。
「シルヴィア。よく戻った。王宮の塵は、すべて洗い落としたか」
ガブリエルは、厳格な口調ながらも、その視線には深い愛情が満ちていた。彼の戦場での異名である**「銀の悪魔」**が持つ冷酷さは、妹を守るための力に他ならなかった。
「はい、兄上。わたくしはもう、誰の妃でもありません。レオンハルト公爵家のシルヴィアとして、王国の危機に立ち向かいます」
シルヴィアがそう決意を語った直後、公爵邸の玄関に、ユリウス第二王子が訪れた。彼の訪問は、極秘裏の、公的な記録に残されない謁見であった。
ユリウスは、シルヴィアの前に立つと、彼女の以前とは異なる、慈悲に満ちた強い眼差しに一瞬、息をのんだ。彼は、もはや目の前の女性が、冷徹な令嬢ではなく、圧倒的な真実の力を宿した人物であることを瞬時に理解した。
「シルヴィア嬢。いいえ、真の聖女。貴女の潔白を示す、すべての証拠が整いました」
ユリウスは、一冊の分厚いファイルを献上した。
そのファイルには、自称聖女リーゼの侍女たちからの血の滲むような証言が、詳細に記録されていた。
茶葉のすり替えの指示
王の生誕祭での転倒の演技計画
ドレスの色に関する悪意ある助言
裏での侍女たちへの暴行の事実
さらに、ユリウスは、リーゼが慈善事業の資金を私的に流用したことを示す、公的な会計文書のコピーも添えていた。
「この証拠をもってすれば、ルドヴィク王太子とリーゼ嬢の婚約破棄の理由は、完全に覆されます。 そして、王妃イゾルデ様の画策も、明るみに出るでしょう」
シルヴィアは、静かにファイルを開いた。彼女の表情は、復讐の怒りではなく、真実が報われることへの安堵に満ちていた。
「ユリウス殿下。この度は、公爵家が成し得なかった公正な正義を、貴方が果たしてくださいました。感謝申し上げます」
「これは、王国の未来を守るためです。私は、真実の目を持つ者として、貴女の清らかさを疑いませんでした。そして、陛下はこの事実を、公的な場で公爵家から突きつけられることを望んでいらっしゃいます」
公爵カールと兄ガブリエルは、ユリウスの公正な判断と聡明な行動力に、静かな承認の視線を送った。
反撃の時が来た。 聖女シルヴィアは、王室の愚かさと自称聖女の悪辣に対し、真実と光による盛大なざまぁを仕掛けるため、立ち上がった。
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