第八話『青年と川』

 視界の先に、まぶしい光が見えた。


「…………外……?」


 声が震える。

歩いてるだけで胸が焼けるみたいに痛い。

喉が張りついて、息を吸うたびにひゅう、と音がした。


 木漏れ日が差し込むダンジョンの出口が見えたけど、嬉しいとか安心とか、

そういう感覚よりもただ──


「……水……欲しい……」


 それしかなかった。


 足がふらふらしてる。

 膝が笑ってる、ってこういうことを言うんだっけ……?

そんなこと考える余裕なんてないのに、勝手に頭に浮かんだ。


 ダンジョンの外に出た瞬間、風が肌に触れた。

ひんやりして気持ちいいのに、体がそれに追いつかなくて、ぼんやりする。


 でも──

 川の音だけは、はっきり聞こえた。


「あ……ある……水……」


 ふらつきながらも必死で川に向かって歩く。

途中で何度か転びそうになって、実際膝も地面にぶつけた。痛いのに、痛いって言う気力もなかった。


 川が目の前に来た時、僕はもう立っていられなかった。


「……ぁ、は……」


 手を伸ばして水に触れる。

 冷たい。それだけで、胸の奥が一気にほどけていく気がした。


 両手ですくって、口に運ぶ。


「っ……は……っ……」


 喉が喜んでる、なんておかしな言い方かもしれないけど、本当にそんな感じだった。


 涙が零れそうだった。


「……僕……死んだ、はず……じゃ……?」


 呟いてみても、答えなんて返ってこない。

空は少しずつ夕方に近づいていて、水面が金色に揺れていた。


 体はまだ重い。

全然……万全じゃない。

でも、水を飲んだ分だけ、少しずつ息が楽になっていく。


「……よかった……ほんのちょっと……動ける……」


 本当に、その程度。

 でも、今はそれで十分だった。

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