ヱンデリアの備忘録

てうさん

オープニング

  『かたられしものは、永遠えいえんに。

  わすれられしものは、虚無きょむに。』


 ここはンデリア。

んど”と呼ばれる神が創ったと語り継がれる世界。

この世界は、伝承でんしょうを糧に形を保つ──そう言われている。


────


 そんな世界で、朝日がまだ昇らぬ霧の森を、ひとりの男が駆けていた。

 息を切らし、何かから逃げるように。


 男が振り向けば、後ろの景色は淡く色を失いながら迫ってくる。

その灰色の広がりの中では、男が蹴り上げた落ち葉すら宙で止まり、二度と落ちてこない。


「……嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だッ!!」


 異常な光景を振り払うように、男は走り続ける。

 荒く呼吸し、首を横に振りながら、

 それでも前へ

 ただ前へ──


「……だッ、誰が……あんな言葉、信じるもんか……!」


────


 霧はさらに深くなり、どこが道なのかすらもう分からない。

だが男にとって、逃げる方向などどうでもよかった。

ただ、背後に迫る“何か”から遠ざかりたかった。


 やがて、足が木の根に取られ、男は前のめりに倒れ込む。


「……ッ、来るな……!! 来るなあッ!!」


 叫んだ瞬間、灰色が男の視界を覆った。



 風が止み、

 音が消え、

 世界が静かに沈む。



 男の喉が震え、絶望が溢れた。

 そして、ついには──自分の鼓動すら消えた。

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