第21話 おっさん鍛冶師とアメリアの実力

 アドリアーノ男爵家はファーメンの街の外れにあるとのことだった。

 俺とアメリアは道中休憩を挟みつつ徒歩で移動。日が暮れる頃にはアドリアーノ男爵家に到着した。


「師匠。クルーズさんの行方について、何かわかるといいな」

「そうだな」


 アドリアーノ男爵家の門の前でアメリアが希望を口にする。

 その後アメリアは通信用の魔道具のボタンを押そうとする。


「待てアメリア。遠くから誰か来てる。一旦隠れるぞ」


 ボタンを押そうとしたアメリアに俺は注意を促す。

 それから俺達は道から外れた場所にある茂みに身を潜めた。


 やがて俺達の前にローブを被った怪しい集団がやって来る。

 その後彼らは、を手に持った。


「師匠! まさかあいつらは──!?」

「バーフィールド伯爵夫妻と使用人達を殺害した武装集団だろうな」


 ローブを被り、紫色に光る剣を持つ。

 集団の特徴はファーメンの酒場の店主から聞いた情報と完全一致していた。


「師匠。あいつらの目的って、やっぱりアドリアーノ男爵達を殺すことだよな……?」

「おそらくな」

「だとしたらアタシ達で食い止めないと! アドリアーノ男爵家の人達が殺されたら、クルーズさんに関する情報も聞き出せない。それに目の前で人が殺されるかもしれないのに、黙って見過ごすわけにはいかない!」

「そうだな。今連中を止められるのは、俺達しかいないもんな」


 俺達の目的はアドリアーノ男爵家の者と接触し、クルーズの情報を持っていないか聞くことだ。

 けれども武装集団を野放しにしてしまえばアドリアーノ男爵家の者達が殺されてしまう。よって武装集団を排除しないことには次の目的に進めない。


 アメリアとアイコンタクトを交わしたのち、俺はアメリアと共に武装集団の前に躍り出る。


「何者だ貴様ら?」

「それはこっちの台詞だ。ローブを被って武装して、怪しすぎるんだよ」

「アドリアーノ男爵が護衛を雇ったか……。まあ、いい。邪魔するならば殺すまでだ」


 俺の発言を聞く素振りを見せず、リーダーの男が「始末しろ」と部下に命じる。

 それと同時に他の者達が一斉に剣を構えた。

 無数の剣が妖しく光る様は不気味としか言いようがない。


「俺達の剣の魔道具には強大な闇属性の魔力が付与されている。に作らせた剣に、俺達の主が魔力を付与して完成した究極の魔道具なのだ!」

「さらった鍛冶師……? まさか……!?」


 その瞬間、俺の脳裏に最悪の予測が浮かぶ。

 アメリアも同じ答えに辿り着いたのか、震えた声で俺に確認を取ってきた。


「しっ、師匠。連中が言う鍛冶師って、クルーズさんのことだよな……?」

「信じたくはないが、ほぼ確定だと思う」

「そんな……!」


 行方がわからない時点で、クルーズが何らかの事件に巻き込まれている可能性はあった。

 だがいざそうだとわかると、知りたくなかったという思いが込み上げてくる。


「勝たないといけない理由が増えたな、アメリア」

「ああ。絶対にこいつらを倒して、クルーズさんの居場所を聞き出すぞ!」


 戦闘に備えてアメリアは両手斧を。俺は背中の鞘からロングソードを引き抜く。


 ざっと数えて武装集団の人数は30くらい。

 数では俺達が不利だが、こっちにはS級冒険者のアメリアがいる。

 まともにやれば負けることはないだろう。


「愚かな。たった二人で何ができるというんだ。やれ! お前達!」


 リーダーの合図で武装集団の数名が俺達に襲い掛かる。

 連中の攻撃に備え、俺は【竜剣・焔】の魔法で炎の壁を築こうとする。

 けれども連中が突然動きを止めたため、俺は一旦魔法の行使をやめた。


「なっ、何だこれは……!?」

「脚が思うように動かねぇ!」


 見ると俺達を襲おうとしていた連中の足元だけが沼のようにぬかるんでいた。

 ドロドロとした地面に脚を取られ、連中は進むことも引くこともできなくなっている。


「地面の形状が変化してる? もしやアメリアの能力か?」

「正解だぜ、師匠!」


 両手斧を持ったままアメリアが白い歯を覗かせる。


「今は地面を柔らかくして沼みたいにしたんだ。この状態の地面に脚を取られたら、どれだけ脚を動かしても脱出できなくなるのさ」

「なるほど。敵を足止めする技ってわけか」


 アメリアの斧には【大地掌握】という魔法が付与されている。

 その力があれば、斧で叩いた大地の地形や固さ、性質を自在に変化させられる。

 固い地面を柔らかくするくらい造作もないのだろう。


「さてと。動けないやつらに一発ぶちかますとするか!」


 柔らかい地面に脚を取られて無防備な連中にアメリアは狙いを定める。

 それからアメリアは両手斧を振り上げ、ダンっと地面を叩く。


 ゴゴゴゴゴという重低音が響くと共に、動けない連中の周囲の地面が一気にせり上がる。そのまませり上がった地面は、動けない連中を突き飛ばした。


「すごいな……」


 地面が大きくせり上がるという衝撃的な光景に俺は驚愕の眼差しを向ける。


 やがて地面が元に戻ったのち、残る武装集団の中から焦りの声が聞こえてきた。


「あの女、もしかしてS級冒険者のアメリア・シェリンガムじゃないか……?」

「アメリア・シェリンガムだと!? 悪い冗談はやめろ!」

「けど斧で叩いた大地を操る魔法は完全にやつの能力だぞ!?」

「最悪だ……。何でこんな強いやつが俺達の前に……」


 アメリアの正体に気付いた連中の間に驚きと絶望の感情が生まれ始める。


「うろたえるな! 俺達には主から授かった剣の魔道具がある! これがあれば負けることはない!」


 戦意が衰えていないらしいリーダーが敗色ムードを漂わせる味方を鼓舞する。


「だがアメリア・シェリンガムが厄介なのは確かだ。お前達! まずは弱そうなおっさんから片付けろ!」


 リーダーは俺を雑魚認定し味方をけしかける。

 その後武装集団の数名が俺に斬りかかってきた。


「はっ!」


 すかさず俺は【竜剣・焔】の魔法を発動。

 竜の炎を剣にまとい、軽く払うような動作で炎を放った。


『ぐああああああああっ!』


 俺に斬りかかってきた連中は炎を浴びせられ全員吹っ飛ぶ。


 すると今度は別の連中が剣の魔道具を振るい、闇属性の魔力が込められた斬撃を放ってきた。


 無数の飛ぶ斬撃が迫る中、俺は【竜剣・焔】の魔法で炎の壁を構築。

 飛んできた斬撃を全て防いでみせた。


「畜生! このおっさんもめちゃくちゃ強いじゃねぇか!」

「さてはこいつもS級冒険者か……!?」

「S級冒険者どころか冒険者ですらないんだけどなぁ、俺……」


 アメリアのときと同じくらいうろたえる連中に俺は呆れ気味にツッコミを入れる。


「よかったな師匠。S級冒険者だと思われてるみたいだぞ」

「S級冒険者だと勘違いされたいわけじゃないんだが……」


 アメリアまで乗っかってきたし。

 俺は冒険者じゃなくて鍛冶師だっての。


「そろそろトドメを刺すとするか!」


 再びアメリアが地面を斧で叩く。

 すると残りの連中が立っている地面が急に氷の大地へと変化する。


「地面が凍った……!?」

「何だこれは!? 足まで凍っていく……!」


 やがて連中は足だけでなく全身が凍り付いていく。

 気付けば残っていた連中全てがアメリアの能力によって氷漬けにされていた。


「よし! これで全員倒せたな」


 両手斧をしまいながら、アメリアは満足げに頷く。


「アメリアの斧に付与されてるのは大地を操る魔法だよな? なのにどうして氷の魔法が……?」

「今のも【大地掌握】の能力だぞ、師匠」

「そうなのか?」


 いまだ理解が追い付いていない俺にアメリアが説明してくる。


「【大地掌握】の魔法は大地の性質も変えられる。その力を使えば、今みたいに氷の大地を作ることもできるんだ」

「そんなこともできるのか……」

「まあ、作り変えられる大地の範囲に制限はあるけどな」


 謙遜してはいるが、アメリアの魔法は普通にとんでもないと俺は思った。

 何せ大地という自然を操り、普通の地面を氷の大地に変えることも可能にしてしまうのだから。


「けど、アタシの魔法は師匠が与えてくれたものなんだ。本当にすごいのはアタシじゃなく、【大地掌握】が付与された斧を作った師匠だ!」

「いやいや、その魔法を使ってS級冒険者になったアメリアのほうがすごいって」


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