第19話 おっさん鍛冶師と捜索
ウェイブの冒険者ギルド内にて。
ギルド内にいた冒険者達が落ち着いたのち、俺は彼らにこう言った。
イーソ村の鍛冶屋に来てくれれば、いつでも欲しい武器を売ってやると。
とはいえ、多少不安もあった。
イーソ村まで来ることを冒険者達は負担に感じるのではと。
けどその不安は
冒険者達が、俺の武器を手に入れるためならどこへでも行く覚悟を見せてくれたから。
こうも俺の作った武器を欲してくれて、俺は素直に嬉しかった。
ちなみに離れた位置で様子を眺めていたアメリアは後方腕組スタイルでうんうんと頷いていた。
なぜ自分以外の人間のことで誇らしげになれるのか俺には不思議でならない。
「アメリアちゃん、お客さんが来てるよ」
そろそろ冒険者ギルドを後にしようか。
そう俺が考えていたタイミングで、一人の冒険者がアメリアに来客があったことを教える。
アメリアは「わかった」と言ったのち、来客のもとへ移動した。
「リオさんじゃないか。今日はどうしたんだ?」
現れたのはリオという20代後半くらいの女性だった。
アメリアの口ぶりから察するに、二人は知り合いらしい。
「ねえ、アメリア。うちの主人を見なかった?」
なぜか不安げな表情を浮かべながらリオは尋ねる。
よく眠れていないのか、心なしか顔がやつれているように見えた。
「最近は会ってないけど、どうかしたのか?」
「……帰ってきてないの。もう一週間も、主人が家に帰ってきてないの!」
「何だって!?」
「一週間前に仕事で家を出たきり、全然帰ってくる気配がなくて……! もし主人の身に何かあったらと思うと、怖くて……! うぅ……!」
その場に崩れ落ちたリオは顔を両手で覆いながら泣き出してしまう。
アメリアはリオの傍に寄り添うと、優しく背中を撫でながら落ち着かせようとする。
「大丈夫! クルーズさんはきっと無事だ! だから一旦落ち着こう!」
リオの夫の名はクルーズというらしい。
しばらくして落ち着いたのか、リオは泣き止んだ。
「ごめんなさい。取り乱しちゃったわ……」
「気にするな。大切な人が行方知らずになったら、誰だって不安になるさ」
場が少し落ち着いたところで、俺はアメリアに問う。
「なあ、アメリア。こちらのリオさんとはどういう関係なんだ?」
「リオさんは元冒険者で、アタシの教育係をしてくれていた人なんだ」
「教育係?」
「モンスターの特徴とか、装備とかの賢い買い物術とか。リオさんにはいろんなことを教わったよ。結婚を機にリオさんは冒険者稼業を引退したけど、今でも仲良くさせてもらってるんだ」
「なるほど。アメリアが世話になった人なんだな」
その後、アメリアは詳しい話を聞くためギルド内にある個室へリオさんを案内することに。
他の冒険者もいる中でできるような軽い話ではないからだろう。
俺はこのあとアメリアの案内でウェイブの街を見て回る予定だった。
けれどもアメリアとリオの話が終わるまでは動きようがない。
なのでしばし待つことにしたのだった。
〇〇〇
「師匠。ちょっと来てくれ」
十分以上経ったのち、アメリアが俺を呼んできた。
「話は終わったのか?」
「終わってないぞ。けどとにかく来てくれ」
わけもわからないまま俺はアメリアに付いていく形でリオがいる個室へ向かう。
やがて俺の入室後部屋の扉を閉めたのち、アメリアは予期せぬことを言ってきた。
「師匠。アタシと一緒に、クルーズさんを捜すのを手伝ってくれ!」
「……えっ?」
クルーズを捜す?
それってつまり、リオの主人を捜すってことだよな?
「アタシ一人で見つけ出すのは難しいと思う。だから師匠の力を借りたいんだ」
「待ってくれ。今回の件はリオさんがアメリアを頼って相談しにきたことだろ? 部外者の俺が関わっていいものなのか?」
「そこは大丈夫だ。リオさんには許可をもらってる」
「そうなのか?」
リオは今日初めて俺と会ったんだぞ?
しかも俺は冒険者でもなければ騎士でもない。
なのになぜ頼る気になったんだ?
俺が疑問に思っていると、座っていたリオさんがおもむろに立ち上がった。
「ニコラス・オバンドーさん、ですよね?」
「はっ、はい。そうですけど」
「あなたのことはアメリアからよく聞いていました。アメリアに斧を送り、S級冒険者へと導いた天才鍛冶師だと」
「天才と呼ばれる程ではありませんよ。アメリア自身に実力があったからこそ、武器に付与された魔法効果を使いこなすことができ、S級冒険者にもなれたんだと思います」
謙遜する俺だったが、リオから俺への信頼は揺るがないようで。
「アメリアが尊敬するあなたが力を貸してくれるなら、これほど心強いことはありません。どうかアメリアと一緒に、うちの主人を見つけ出してくれませんか……?」
懇願するようなリオの眼差しが俺に突き刺さる。
こういうのは冒険者とかに任せたほうがいいと思うんだが。
とはいえ、リオはアメリアが世話になった人だ。
そのリオに頼まれた以上、断るのは無粋というもの。
「わかりました。俺でよければ、ご主人の捜索に協力させていただきます」
「……! ありがとうございます……!」
声を震わせながらリオが礼を述べてくる。
「ありがとよ師匠! 師匠が一緒なら百人力だぜ!」
俺に肩を寄せながらアメリアが白い歯を覗かせつつサムズアップしてくる。
アメリアも俺のこと信頼しすぎじゃないかね……?
「ところでアメリア。捜索するのはいいが、何か手がかりはないのか? クルーズさんは最後にどこに行ったかとか、そういう情報がないと捜しようがないぞ」
「リオさん曰く、クルーズさんはファーメンの街へ向かったそうだ。消息を絶ったのも、おそらくそこじゃないかと」
「ファーメンか」
確かファーメンはウェイブから一日掛けて行ける街だったか。オレンジが特産品の場所だというのは聞いたことがある。
「主人は、貴族相手に商売をするためにファーメンに行ったんです」
俺とアメリアの会話に参加したのち、リオが続ける。
「うちには重い病を患っている娘がいて、その治療には多額のお金が必要なんです……。主人は鍛冶師として鍛冶屋を経営してるのですが、武器を売って得たお金だけではとても足りず……。なので鍛冶屋の売り上げ以外でもお金を稼げるよう、食器などを作って貴族に買ってもらおうと考えたんです」
「そう、でしたか……」
クルーズには病気の娘がいて、その治療のために行動してることがわかった。
重たい事情が隠されていたとわかり、俺は言葉を失う。
これは、ますますクルーズを見つけなくてはいけない理由ができたな。
「師匠。まずはファーメンに行こう。クルーズさんの行方を知ってる人がいるかもしれない」
「そうだな」
というわけで、俺とアメリアはファーメンの街へ行くことに決めた。
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