第13話 SIDEフレデリカ

 私がニコラス先生と出会ったのは今から15年前のことです。


 当時10歳の私は両親と共にイーソ村へ引っ越してきたところでした。

 引っ越し完了後、私は両親と近所に住む鍛冶屋の店主にあいさつをしに行きました。

 その鍛冶屋の店主こそが、ニコラス先生だったのです。


 優しそうな鍛冶屋のお兄さん。

 それがニコラス先生の第一印象でした。

 このときはまだ、自分がニコラス先生と深い関わりを持つとは思っていませんでしたけれど。


 私には夢がありました。

 それは騎士になることです。


 騎士になるには相応の強さが必要になります。

 なので私は日課として木剣を使った素振りを行っていました。


 ただし、剣の稽古をしていくにあたって一つ問題がありました。

 私に剣のことを教えたり、稽古に付き合ったりしてくれる存在がいなかったのです。


 両親の職業は戦いとは無縁の仕事でした。当然ながら、私に剣術を教えることはできません。

 また同年代の子と稽古をすることもできませんでした。

 そもそも私と歳が近い子が周りにいなかったのです。

 ゆえに私は一人で素振りを繰り返すことくらいしかできませんでした。


 そんなときに助け舟を出してくれたのが、ニコラス先生だったのです。


『鍛冶師の俺でもいいなら、稽古の相手になろうか?』


 おそらくニコラス先生はいつも一人で素振りをしてる私を不憫ふびんに思ったのでしょう。ゆえに稽古の相手を買って出てくれたのだと思います。


 あのときは素直に嬉しかったですね。

 誰にも言ってませんでしたが、本当は一人で稽古し続けることに寂しさを感じていたので。


 それから私はニコラス先生を相手に剣の稽古に励むようになりました。


 ニコラス先生は剣の達人というわけではありません。

 それでも鍛冶師として剣も作っているからなのか、剣の使い方に関する知識は持っていました。なので私の剣の扱いに問題があれば自分なりにアドバイスをしてくれました。


 あのときもらったアドバイスは、今でも私のいしずえになってますよ。

 アドバイスした本人は自信なさげでしたけれどね。


 14歳の頃、私はアメリアとも出会いました。

 アメリアは私とニコラス先生の稽古の様子を目にして、自分もニコラス先生に教わりたいと言ってきました。ニコラス先生はアメリアの申し出を承諾し、そこから三人で稽古を行う日々が始まったのです。


 けれども私はしばらくご機嫌斜めでした。


 仕方ないではありませんか。

 10歳のときからずーっとニコラス先生と一緒に稽古してきたのに、突然他の女の子がやってきたのです。ニコラス先生を取られてしまうのではないかと気が気ではなかったのですよ。


 それでも明るくて人懐っこいアメリアと接していくうちに、段々アメリアはいい子だと感じるようになって。

 気付いた頃には、私とアメリアはすっかり打ち解けていました。


 アメリアって、人との距離を詰めるスピードが速いのですよね。

 出会って数日しか経たないのに、私のことを『フーたん』とあだ名で呼んできたくらいですし。 

『フーたん』と呼ばれること、最初は恥ずかしかったのですよね。何というか、私のガラじゃない感がすごくて。


 そうして三人で稽古をする日々が続いた中、15歳になった私は村を出ることにしました。

 騎士の試験に合格して騎士団に入るために。


 村を出る前に私はニコラス先生に剣の作成を依頼しました。

 騎士になってから使う剣は絶対ニコラス先生に作って欲しかったので。


 そして村を出発する日、ニコラス先生は私にレイピアをプレゼントしてくれました。


 ニコラス先生からレイピアをもらった私は嬉しくて仕方がありませんでした。

 同時に試験に受かるだろうかという不安も吹き飛びました。

 レイピアを持った瞬間、ニコラス先生が背中を押してくれてるような気がして、誰にも負ける気がしなくなったのです。


 それから私はニコラス先生やアメリアに別れを告げたのち王都へ。王都に着いた翌日には騎士になるための試験に挑み、無事合格。

 晴れて私は騎士になりました。


 けれども話はここで終わりません。

 このあと私は、ニコラス先生がいかに優れた鍛冶師なのかを知ることになるのです。


 ニコラス先生からもらったレイピアを使い始めてからしばらくして。

 私がレイピアを振るうと魔力らしきものが出るようになりました。


 この魔力は何だろう?

 もしや私は魔法の才能に目覚めたのか?


 けれども私はすぐに自分の予測を否定しました。

 なぜなら昔父親が買ってきた測定器で、私は魔力0と表示され、魔法の才能がないとわかっていたからです。


 そうなるとレイピアから出ている魔力は、剣自体に付与された魔法によるものとなります。

 では、どうやってレイピアに魔法が付与されたのか?

 答えは一つしかありません。


 ニコラス先生がレイピアを作った際に付与されたのです。


 しかしニコラス先生は魔道具を作る職人ではなく鍛冶師です。

 武器を作る際も魔石を使用しないことは私も知ってました。


 そこで私はようやく理解したのです。

 ニコラス先生は、自身の力で武器に魔法を付与したのだと。


 このときはまだ、武器に魔法を付与できるなんてすごいなくらいにしか思っていませんでした。

 ですがレイピアを使い続けるうちに、私は只事ではないと理解しました。


 まず、斬撃や刺突の度に雷の魔力を出せるようになったのです。

 さらに移動するときは目にも留まらない速さで動けるようになりました。

 それ以外にも一回の攻撃がすさまじいパワーだったり、攻撃を受けても痛みがほとんどなく体力も減った感じがしなかったりして。


 いくら何でもこの力は普通じゃない。

 そうして私が鑑定の魔道具でレイピアを調べたところ、このようなステータスが現れたのです。


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・武器種=剣

・固有効果=【紫電一閃】…雷の魔力をまとった剣戟けんげきや刺突を繰り出せる。さらに稲妻のごとき速度で移動できる。

・共通効果=武器を持つ者の攻撃力・防御力を向上させる。体力が減った際に自動回復する。

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 こうして私は理解したのです。

 ニコラス先生は作った武器に強力な魔法効果を付与する才能を持っている。

 この力が知れ渡れば、ニコラス先生は王国一の鍛冶師にだってなれると。


 そのことに気付いた私はこう思いました。

 ニコラス先生はすごい鍛冶師だと多くの人に知って欲しいと。


 私は考えました。

 どうすればニコラス先生の才能を皆に知ってもらえるかを。

 そうして導き出した答えが、ニコラス先生を騎士団付きの鍛冶師に据えることでした。


 騎士団付きの鍛冶師は、鍛冶師にとって最も名誉のある地位です。

 その座に就いて騎士達が使う武器を作れば、騎士達を通じてニコラス先生のすごさが知れ渡る。そうなればニコラス先生は多くの人から必要とされるようになると私は考えたのです。


 ニコラス先生には大変お世話になりました。

 もらってばかりだった分、今度は私が恩返しをしよう。


 そう決めた私は騎士団長の座を目指すことにしました。

 騎士団付きの鍛冶師を選定する権限は騎士団長にあるからです。


 強いだけでは騎士団長にはなれません。ですので私は人間性も騎士団長にふさわしくあろうと努力しました。


 そして25歳になった今年、私は騎士団長の座に上り詰めたのです。


 第一関門を突破してからは迅速に動きました。


 まずは密かに王様と接触し、ニコラス先生を騎士団付きの鍛冶師にする件を了承してもらいました。

 これはドニゼッチの父親であるヤンコビッチから妨害を受けないためです。


 さらに商人から賄賂を受け取っていたヤンコビッチを逮捕し、権力を剥ぎ取りました。ヤンコビッチが健在だと、ドニゼッチを解雇してもやつの権力でなかったことにされる可能性がありましたから。


 こうして私は、ニコラス先生を騎士団付きの鍛冶師に就任させることができました。


 最初は疑いの眼差しで見ていた騎士達も、ニコラス先生の武器のすごさを理解すると一様に称賛してくれて。

 あのときは自分のことのように嬉しかったです。


 敬愛するニコラス先生。

 あなたが王国中にその名を轟かせていく行く末、しかと見届けさせて下さい。


 ニコラス先生が評価されることが、私の幸せでもありますから。

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