閉幕

Q:無限に蘇生する不死身の怪盗を殺すには?


A:永遠に殺し続ければいい。


 ってわけで、毒で動けなくなった怪盗は、革袋商会の高炉に放り込まれた。


 落とされた怪盗は発火し、

 

「ぎゃあああぁぁーーーーーーーーーーー…………」


 と長細い叫び声をあげた。


 高炉の中は、高温の液体金属で、常に煮えたぎる。


 普通なら焼け死んで、リスポーン地点にワープするわけだが……怪盗は違う。


 怪盗は不死身だから、その場で蘇生する。

 そして――炉の中だから、またすぐに焼け死ぬ。

 

 蘇生と焼死を無限に繰り返す。不死身ゆえに、高炉から逃れない。


 これが革袋商会の考案した、怪盗の封印方法。


 不死が怪盗の檻と化し、奴はサ終まで、高炉から出られないのだ。


「この高炉はミイラを燃料に稼働していたわけだが……これからはいらんのう。今後はあいつが無限燃料になってくれるけェ」


 地獄へ落とされた怪盗をみても、クロススパイクの表情に哀れみはなく、純粋に燃料代が浮くことを喜んでいる。こわいね。


「それより見てよ! このマントすげェ!」


 怪盗から盗みとったマントをクロススパイクに見せびらかすのはこの僕。――僕もたいがい外道かもしれない。


 にしても、怪盗のマントはすごかった。


 どうやら、様々なアイテムを収納できる魔道具だったらしい。薄い布地なのに、降ってみるとアイテムがバラバラ落ちてくる。


 ってことは、あれがあるかもしれない。


 期待を胸に、マントから流れ出すアイテムをかき分ける、かき分ける。


 魔剣やポーション。干し肉や黒パン、薬草なんかも出てくる。

 たぶん全部盗んだものなんだろうが、よくぞここまで雑多なものを集めたもんだ。

 盗品の山を掘り出していると……あった。


 宝玉を実らせた金色の枝。


 【ホウライの玉の枝】だ。


「ついに……! ついにゲットだァ!!!!」


 【ホウライの玉の枝】の現在位置はガルトリンゲン。

 僕の持っているのは偽物だから……怪盗が持ってたのは、本物の可能性が高い。極めて。


「やったァ!!!! 成し遂げたぞ!!!!」


 これで、助かった。かもしれない。


 これからプレイヤーにこいつを渡して、僕を対象に使わせるって過程が必要だけど、とりあえず、第一段階はクリア。


 ぷはッーー!!! 勝ったな、風呂入ってくる。


「あー、言いにくいんじゃが」


 狂喜していた僕のすぐ横。クロススパイクがみせるのは気の毒な表情。


「それ、偽物。なんなら作ったのはウチじゃ」


「……は?」


「どういうルートで怪盗に渡ったんかは分からんけど、偽物なんは確実じゃ。【愚者の黄金グラスホッパー】で作った贋物は、最上位の鑑定スキルで直接触れるしか見破る方法はないんじゃが、ウチは作製者特典というかなんというか、自分で作ったもんはわかるんよね」


「……どうして」


「あんたには言ってなかったか? ウチのユニークスキル【愚者の黄金グラスホッパー】は贋物を作るが、一度発動させれば数十個できる。闇オークションへの出品は、出禁だったもんであんたに任せたが、他のツテへはウチが自分で売ったんじゃ。それがどういうルートで怪盗に渡ったんかは分からんけどね」


「……カハッ」


 期待した分、反動が大きい。よろめいて地面の上に、大の字になってひっくり返る。


「おーい。大丈夫か?」


「しばらく……そっとしといてくれ……」

 

 失意のうちに見上げる青空は、泣きそうなくらい澄んでいた。


 

 ……まあ、いいか。


 【ホウライの玉の枝】は手に入らなかった。


 だが、原理は不明だけど。僕の学習という特技は、『憑依』に成長した。


 今後、このゲームの世界で生きていく上で、役に立ってくれるはず。


 収穫はあったから、この経験は別に、無駄じゃなかったんだ。


 そうブツブツ自分に言い聞かせる僕に、ぬっと黒い影がさす。

 男が顔をのぞきこんでいた。


「二人とも、よくやった! 革袋商会、ひいてはガルトリンゲン全体の悲願達成だ」


 【第七席】おぱんつ星人。死亡後、教会でリスポーンし、ここまで歩いてきたようだ。


 このゲーム名物の重すぎるデスペナルティーを食らったらしく、大半の装備を失い……額のパンツまで無くしている。


 パンツのないおぱんつ星人は、きりりとしていて格好の良い、ナイスミドルなおじ様だった。


「せっかくのところ悪いけど……悲報だ。怪盗が倒されたたった今、闇オークション統括委員会はクローバー君へ刺客を放つことを決定した」


「ええ……。僕が出品した【ホウライの玉の枝】、あれって別に偽物だという証拠はないだろ?」


 もちろん、僕は知っている。革袋商会のみんなも、クロススパイクから事情を聞いている。


 でも。オークション統括委員会は確たる証拠は握っていないはずなのだ。


「だめなのだよ。あいつらの主義は『疑わしきは罰せよ』。規律をなにより重んじる組織だからね」


「……僕はその刺客に処刑されるんだよな。処刑って一体、なにをされるんだ?」


「実は、不明なのだよ。統括委員会の刺客は人目のないところで、なにかしらの拷問をするらしい。そいつを食らったやつは、なにも言わずにゲームを引退するから、一切が明かされていないんだ」


「え、コワ……」


 暗い顔をする僕を勇気づけるように、おぱんつ星人が肩をたたく。


「だけどな、君は怪盗討伐へ協力した。彼らもそこに恩義を感じているらしく、ちょっとしたお情けをくれるらしい。曰く、刺客を放つまで3日ほど待つ、と」


「3日か……。いやでも、どこに隠れればいいんだ?」


「大丈夫だ。まだ手はある。あとは彼から話してもらおう」


 おぱんつ星人の背後から、ぬっと姿を現したのは、仮面の怪人。


「クローバー様。貴方を【死にすぎ本舗】主催のデスゲームに招待いたします」


 デスゲーム運営クランからの出向人、デスゲーム斉藤は笑みを含んだ声とともにお辞儀をする。

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