行き先

「路面電車ってホンマええよなァ。電車じゃなくて汽車やけど。うーん、街並みとの距離が近いからかなァ。なんつーか、街と一体になってゆっくり移動してる感覚がたまらんのよなァ」


 乗り込んだ機関車の中、乙松がガキみたいにはしゃいでいた。


「それでこの汽車、どこに向かってるんです……?」


 質問する僕に、乙松は心底不思議そうな顔をした。


「行き先なんて必要か?」


「それはどういう……???」


 ミネラルウォーターが僕の肩に手をやり、悲しそうに首を振る。


「だめだよクローバーくん、真面目に相手しちゃ。普通の人はどこかに行くために鉄道に乗るけど、彼ら鉄オタは鉄道に乗ること自体が目的なんだ。手段と目的が逆転してるんだ」


「だって兄ちゃん、路面を走る汽車やで? サービス終了まで乗っても飽きへんやろ?」


「さすがにです……」


「なんでやねん……こんな楽しいのあらへんのに」


 乙松は濡れそぼった子猫みたいに哀しそうな瞳で僕を見た。

 やめろ、おっさんの上目遣いは需要ないぞ。


「ま、この線路はマルドゥク駅に繋いでるからな。そっから行けるとこなら、どこへでも行けんで。城塞都市ニザヴェッリルとかデメトリオス魔導図書館とか……フン、どこでも行っちまえ」


 すねたように口をとがらせ、乙松は投げやりに言って、車掌車のある後方車両へと移っていた。

 

 後ろの車両につなぐ貫通扉には窓があり、砂埃すなぼこりで白くくもっている。

 

 ……そこにあのオッサン、指で「Thank You ♡ また乗車してね!」って書いていきやがった。


 しかも女の子みてえな丸文字。

 クソ、可愛いな、オッサンのくせに。


 一人で頬を赤らめる(座席の配置の問題で僕しか見ていなかった)僕を不思議そうに見つめながら、ミネラルウォーターは問いかけた。


「さて、ほんとにどこ行こうかね、クローバーくん」


「マルドゥク村に居続けるって選択肢は……?」


「ないね。【枝】の持ち主は間違いなく、村の外に逃げてるよ。だって……もう、地獄じゃん?」


 ミネラルウォーターが車窓を指さす。


 そこからみえるのは……斬りあう人々。飛び交う魔術の赤い光。


 マルドゥク村は完全に、戦争状態だった。


 レンガ造りの街並みのあちこちで、ぼかん!どかん!と火の手が上がり、雲ひとつない青空を背景に瓦礫がれきが舞う、レンガが降る。


 外の惨状さんじょうをかじりつくように見ていると、飛来した流れ矢が数本、勢いよく窓に突き刺さり、僕は慌てて首をひっこめた。


 機関室からは、


「この列車はなァ!!!人身事故じゃあ遅延しねえんだよッッ!!!」


 なんて怒号。直後に車内が大きく揺れた。


 どうやらこの汽車、線路上に立ち塞がったプレイヤーを跳ね飛ばしながら走行しているらしい。


 プレイヤーが集まってきている。

 そして、殺し合っている。

 

 【ホウライの玉の枝】目当てにやってきたのは、オールフレンダーだけじゃなかったってことだ。


「マルドゥク村は、ただの林とちょっとした砂漠に囲まれている。昔からあるマップってだけあって地形が単純。簡単に逃げることができるんだよね。だから今頃ドンパチやってる人には気の毒だけど……【枝】の持ち主はきっと、ここにはいない」


「なるほど……それに情報も足らなさすぎる、か」


 僕らが知っているのは、【枝】を持っていた人が、先ほどまでマルドゥク村にいたということのみ。名前も職業ジョブも不明だ。

 

 そいつがマルドゥク村から逃げたとして、探す手段は、まだほとんどないに等しいのだ。


「そう。だから今回はスルーして、装備を調えたりスキルを磨いたりするのに注力した方がいいってわけ」


「なるほど……」


 だが、どこへ行くべきか。

 それが問題だ。


 このゲームの世界に何年間も存在している僕だけど、ダンジョンにずっと引きこもっていたせいで他のエリアのことはあんまり知らない。


 車内に貼られた地図をみる。


 【アドベントゥラ・インフィニタ】のマップに、複雑に絡み合った路線を載せており、沿線の主要ダンジョンや町の位置も記していた。


 ……情報量が多いな。

 眺めるとなんか眠くなってくる。

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