第5話 爪選び

「ここだよ! ここのドアの中! ちょっと待ってね……確か最後のドアの鍵はね……」

「ドアっていうより大きい門じゃないですか……さっきまでのと合わせて5個ぐらいあったし……」

「そりゃー、ウチュージンに対抗するための大事なものだもん! ……これはさっきのヤツだよね、これも最初に使った……あ、これこれ!」


 生活棟を後にし、防衛戦線の管轄施設に来た祝詞斗しゅうと三依みい。武装した兵士が行きかう中、厳重に施された武器保管室に向かっていた。


「よし、これで……」

 三依がカードキーを挿すと、重厚な扉が低い音を立てながら開かれた。


「……すごい」

「でしょ! この中にあるのぜーんぶから、シュート君に合った武器を選ぶんだよ!」


 想像よりも数倍広い部屋の中には、壁、床、ありとあらゆるところに見た事もない数の武装兵器が保管されていた。あまりの数にさあ選べ、と言われてもそんな簡単に選べない。しかし何もしないわけにもいかない。どうしたものかと思案した祝詞斗は、三依にアドバイスを求めることにした。


「あの……三依先輩はガトリングガン、でしたっけ。他の先輩方はどんな武器を使ってるんですか?」

「リンさん達の武器?いいよ、ボクが教えてあげる!」


 祝詞斗から少し離れた場所で自分が歌う新曲を口ずさんでいた三依は、ひょいと椅子から降り、コホン、と咳払いをした。


「リンさんはね、ボクのシショーなの! リンさんは腕にナックルをつけて戦うんだよ!キャッチフレーズも『福を呼ぶ黄金色の獅子』だし、すっごくかっこいいんだよ!」

「獅子……確かにそうかも……」


 決してガタイがいいというわけではないが、ぱっと見ただけでわかるほど隆々とした肉体を持つ麟から放たれる拳はさぞかし威力があることだろう。想像に難くないな、と祝詞斗が考えていると、三依があ、そうだ、と何かを思い出したような顔をした。


「オマエもキャッチコピーあるんだった。そんなに使うわけじゃないけど、覚えといたほうがいいかも。元康さんが適性とか予想される能力とか見て考えてくれたやつだから、オマエに合う武器のヒントになるかもしれないし……これだ『明日を呼ぶ蒼碧の隼』。……かっこいいじゃん」

「隼、ですか……足が速い、とかかな」

「そうかもね。だったら……こっちの軽いほうがいいんじゃない?モトヤスさんみたいに刀使うのもアリだと思うよ」

 コレとか結構軽いし、二刀流でもいいんじゃない? と近くにあった日本刀を模した武器を手に取った。軽い武器がいいというのは正論だが、ただでさえまともに武器を持ったことのない祝詞斗には刀の振り方や重心の移し方を覚えるのは茨の道だと言うことは容易に想像できた。


「オレ、実戦経験ないんですけど……もうちょっとなんにも考えなくていい武器とかないんですか?それこそ銃とか、昨日の晶理さんの糸みたいな簡単な方がいいと思うんですけど……」

「ショーリさんかあ……あれ武器なのかなあ……すっごく強くて、みんなのことすごく助けてくれるってことぐらいしか分かんないんだよねえ……」

「三依先輩もわからないんですか? あれ武器じゃなかったらなんなんだ……」

「『勝利を織る暁の糸』っていうぐらいだし、たぶん武器なんじゃないかなあ……あ、コレはどう?シュート君」


 手につけて振り回すだけだし、カンタンなんじゃない? と三依が指を差した先には、金属製と思われる鍵爪が一組置かれていた。


「確かに、あれならいいかも……?」


 祝詞斗はその鋭い爪に近づき、そっと手に取った。意外と軽い三本の爪は光を反射してきらりと輝き、祝詞斗の右手にしっかりとはまった。


「いいじゃん! それなら重くないし、すぐ使えそうじゃない? ハヤブサって感じもするし」

「そう、ですね」

「じゃあ決まり!どーしてもムリそうなら後から変えよ! オマエはまずはキソからだから、トレーニングルームに行こ!」

「はあ……手を抜いて運動できないふりしようかな……あ、いや、受かった時点で運動できるってことはバレてるか……」


 この期に及んでなお悪あがきを試みようとする祝詞斗だが、一人問答で不可能と悟り観念して向かうことにした。




**********




「つ、疲れた……もう、限界……」

「お疲れ様ー! ちゃんとオーディション受かってるだけあってスジはいーじゃん。よく今までチョーへーされなかったよね……」

「体育の授業は、限界まで、手を抜いてたんですよ……休んだり、して、回避してたんですよ……」

「……逆にソンケーするかも」


 その日の夕方、ダンスに戦闘指導に1日中動き回った祝詞斗は、三依と共に疲れ切った表情で共用ルームに向かっていた。同じように訓練に付き合ってくれたはずなのに平然としている三依。ボクはダンスのほうが苦手だったなー、と呟く彼に、祝詞斗はふと尋ねた。


「そいえば……なんで三依先輩はアイドルになろうと思ったんですか?」

「ボク?」


 少しきょとんとした三依はうーん、と思い出す素振りをした後、無機質な笑みを浮かべた。


「オマエと似たような感じかなあ」

「え?」

「特殊強化チップの適性があったから、ってだけ。本当は軍に入る予定だったんだけどね」


 予想外の答えに少し言葉に詰まる祝詞斗だったが、今日ダンスレッスンを共に受けたときの素直な感想を伝えることにした。


「そう、ですか……でも三依さんは、三依さんのパフォーマンスは、すごく素敵だと思いますよ。アイドルって感じがして」

「三依『先輩』ね。でもそんなこと言ってくれるなんて、シュート君もヨワタリジョーズだね! ありがと!」


 いや、あの、お世辞とかじゃないんですけど……と祝詞斗が答えようとすると、添えれを遮るように三依が笑顔でこちらを向いた。


「さ、早く戻ろう、シュート君! 今日の夕ご飯はリンさんのスペシャルメニューだよ!」


 相変わらず自由な人だな、と置いてくよー! と走り出す三依を見ながら、祝詞斗も慌てて端出した。

 

 

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