アイドルって宇宙人と戦わないといけないんですか!?
新萌
一章
第0話 隼の軌跡
「12時だ! メール、メール……今日発表だから、もう来てるはず……」
まだ星が輝く深夜、1人の青年が机の上のパソコンを手早く操作している。
『昨日の地球外生命体の侵攻による被害をお伝えします。死亡者5人、重傷者46人、……』
付けっぱなしのテレビからは、何度聞いたか分からないアナウンサーの無機質な声が聞こえていた。
大きな非常持ち出し袋が置かれた椅子から前のめりにパソコンの画面をのぞき込み、メールボックスを慎重にスクロースする。
「『アイドルグループ[
そのメールは、彼の信条と、彼の今後の進路に関わる大切なメールだった。「
「『厳正なる審査の結果――土岐大和様を新メンバーとして決定する運びになりました』......!」
青年は途端に目を輝かせ、椅子から落ちそうな勢いでガッツポーズをした。
「やっっっったーーーーー!!!」
超高倍率の人気アイドルグループに加入できる喜び、先行き不明だった進路が決まった喜び......彼の心の中にはそのどれとも違う喜びで溢れていた。
「これで......これで徴兵免除だ!!戦わなくて済む!!!!」
ファンや既存メンバーが聴いたら何を言われてもおかしくないようなことを叫びながら、大和はメールの続きに目を通す。
「『つきましては諸手続きのために、2806年....月....日に東京中枢地区.....までお越しいただきたいと存じます。』……その日なら、確か空いてたよな..」
西暦2806年、遠い未来の地球は、突如襲来した地球外生命体によってかつてない危機にさらされ、長期的な戦争を余儀なくされていた。日本でも国会緊急非常事態総動員法が発令され、自衛隊を母体とした日本軍が組織され、16歳以上の若者は漏れなく兵役の義務があった。
しかし、例外として健康上の問題や特定の職業を志す者は兵役が免除されることがある。研究職、農業事業者なども含まれるが、アイドル、俳優などのエンターテイナーもそのうちの1つだった。
勿論誰でも、というわけではなく、政府が運営する芸能機関の職員として登録されることになり、厳しいオーディションを勝ち抜いたものだけではあるが。
「いや〜大学の成績がヤバくてヒヤヒヤしたけど、これで安心できる!」
深夜だということを思い出した大和は少し声を潜めて机に置かれた「成績不良者面談のお知らせ」のプリントをもう必要ないとばかりに端に追いやった。
これで起きている用事がなくなった大和は、寝室へ向かう前にテレビの電源を切ろうとリモコンを手に取った。ふと画面を見ると、そこには瓦礫の中をはびこるおどろおどろしい地球外生命体が映っていた。
「……っ」
――刹那、大和の脳裏に幼い自分の前に立ち、赤い飛沫を上げながらも笑顔を向ける兄の姿がフラッシュバックした。
「…………いや、もう、いいんだ。もう、オレは戦わないんだから……」
よぎったものを振り払い、大和はぽつりと呟いて番組を消した。そのまま部屋の電気を消し、静寂の中を寝室へと向かった。
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