第10話 ゴジラの冬眠
ゴジラは轟天を追って東南に進んでいた。時々動きを止めるのだが、そのような時には轟天が挑発をするように視界をウロウロする。するとゴジラは激高して、また動き始めるのだ。
これからの水城の行動は、誰にも予想ができなかった。だが総理以下、管理センターにいる全員は背筋に冷たいものを感じていた。ゴジラは進路を維持したまま三浦半島に侵入しつつあったのだ。三浦半島には米軍、横須賀基地がある。ここを目指しているならば、致命的な大惨事になりかねない。
考えあぐねていると、防衛大臣の黒岩が安倍に顔を寄せてきた。
「先程厚生労働省から、連絡が入りました。米軍が大量の血清を購入したそうです。」
それが何を意味しているかは安倍にも想像がついた。
「米軍は戦争の準備をしています。」
軍隊は戦争が始まる前には、必ず大量の血清を購入する。言うまでもなく、負傷した兵士を治療する為だ。
(アメリカは本気で怒っている・・・・・)
しかし安倍はこの事態にどう立ち向かえばいいのか、未だに答えを見つけられないままでいた。
轟天とゴジラは、通称「横横」といわれる高速、横浜横須賀道路に沿って移動をしていた。自衛隊の装輪装甲車が、この「横横」を走りながら逐一、状況報告をしてくる。
ここにきて轟天とゴジラの移動スピードは少しずつ落ちていた。ドローンが作り出す3Dマップを見ると、轟天は逗子と横須賀の間にある二子山上空にいる。水城は山にさしかかる手前の樹林で減速したようだ。
「こんな所で何をするつもりだ・・・・・?」
防衛大臣の黒岩が首をかしげる。
「民家もほとんど無いここなら、多少の火力は使えるが・・・・・」
現在、一般車通行禁止になっている横浜横須賀道路には、高速移動に適している装甲車、一六式機動戦闘車がズラリと並んでいつでも発砲ができるよう狙いをつけている。
一同が成り行きを見守る中、轟天は艦首の向きを変えると、ゴジラの周りをゆっくりと旋回し始めた。水城に何らかの意図がある事はあきらかだった。
(ここでゴジラを攻撃するつもりか・・・・・)
しかし轟天の動きは幕僚長達の予想を裏切るものだった。映像を拡大すると艦橋から出てきた武器はレールガンでも機関砲でもなく、レーザー指向兵器だったのである。
(あんなものを使って何をするつもりだ?)
政治家達はともかく、自衛隊関係者は首をかしげた。今現在、レーザーはまだ映画に出てくるスーパーウェポン程の破壊力を持っているわけではない。ドローンを機能停止状態にするぐらいの事はできるが、ゴジラのような巨大生物に致命的なダメージを与える程の威力を持っているわけではないのだ。空気中の微粒子や水蒸気によっても、その威力を減殺される兵器に、このような状況において有効な使い道があるとは思えない。しかし拡大映像を見る限り、確かに轟天は鏡面のようなレーザー照射装置でゴジラに狙いをつけているように見える。
司令センターの面々が見守る中、照射装置が何度か明滅をした。午後の日差しはまだ明るいので鮮明ではないが、確かに明滅したように見えたのだ。轟天はゆっくりと移動しながら、同じ事を繰り返した。
そして何度目かの明滅の後、驚くべき事が起こった。次第に動きが緩慢になった後、ゴジラがゆっくりと、くずおれていったのだ。ゴジラが地面に接触すると、舞い上がる土埃が辺り一帯を覆い隠した。高く上がった尾が落下して土埃の中に隠れると、その後静寂が訪れる。それは統合司令センターの面々が、あっけにとられる出来事であった。何が起こったのか、理解ができなかったのだ。
だが統合司令官の南雲は、一つの可能性を考えていた。自衛隊にも自衛隊情報本部という調査機関がある。彼等の調査によると水城明と桂木涼は、ある研究機関に足繁く通っていた。人工冬眠の画期的な技術を研究している機関である。
特定の生物は厳しい環境下におかれると、自ら呼吸、脈拍、代謝を落として冬眠状態に入る。だが視床下部のQRFPという神経を刺激すると、通常の環境の下でも、その冬眠状態を人工的に作り出す事ができるのだ。
轟天が照射した、あのレーザーはゴジラの冬眠を誘発するためのスイッチだったのではないか。ゴジラの目を狙い、視床下部のQRFPに作用を及ぼしたのではないか。南雲が総理と防衛大臣にその可能性を知らせようとした時、通信士が着信を告げた。
「轟天から通信が入りました」
水城が、それまで閉じていた回線を突然開いたのである。
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