反対の反対は反対? いや、ただの現実改変です。** *愛は盲目? いいえ、物理です。
志乃原七海
第1話『超能力(ちょうのうりき)』を手に入れてしまった
***
**タイトル:反対の反対は反対?**
**第1話:俺の能力(ちから)、あるいはプラシーボ**
どうやらおれは、『超能力(ちょうのうりき)』を手に入れてしまったらしい。
読み方が違う? 「ちょうのうりょく」だろって?
まあ、そんな細かいことはどうでもいい。重要なのは、おれに未知の力が目覚めたという事実だ。
昨今、おれの身には「思いついたことが反対になる」という現象が起きている。
例えば今、目の前にいる彼女だ。
客観的に……いや、世間一般の基準で言えば、彼女は少々「個性的」な顔立ちをしている。いわゆる、ブサ……いや、ファニーフェイスだ。
だが、ここでおれの能力が発動する。
おれは眉間にしわを寄せ、脳内で強く念じた。
(……かわいい。彼女は、かわいい!)
するとどうだ。
脳内の回路がバチバチと音を立てて組み変わり、視界のフィルタが書き換えられる。
次の瞬間、おれの目には彼女が「絶世の美少女」として映り始めたのだ。
「おいおい、マジかよ……めっちゃかわいいじゃねーか」
おれが感嘆の声を漏らすと、隣にいた友人が哀れむような目を向けてきた。
「お前なぁ……それ、ただの『プラシーボ効果』って言うんだぜ? 知らねーのか?」
「ぷらしーぼ?」
「思い込みだよ、思い込み! 薬だと思って砂糖飲んだら治った気になっちゃうアレだよ!」
友人のたまう戯言に、おれは憤慨した。
「失礼な! こんなかわいい女の子を前に、なんてことを言うんだ!」
おれは大股で彼女に近づくと、その手を取って熱い視線を送った。今の彼女はおれにとって、アイドル以上の輝きを放っている。
「き……み、は……かわいい……!」
「えっ……!? う、うそ……きゃ! うれしい!」
彼女は顔を真っ赤にして、感極まった様子でおれに抱きついてきた。
柔らかい感触。シャンプーの香り。役得である。
しかし。
一斉にギャラリーは、しらーーーーーー。
周囲の空気は凍りついていた。
友人が額に手を当て、深い深いため息をつくのが聞こえる。
「……大丈夫か? あいつ。相手、相当なブスだぜ? あれ」
「愛は盲目っていうけど、盲目すぎない?」
周囲の囁きなど、今の「無敵」のおれには聞こえない。
反対の反対は、賛成なのだ。いや、何を言っているかわからないが、とにかく今の俺は幸せだ。
(つづく)
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