接触④
***
「……なぜ?」
悠里くんの冷ややかな問いに、俺はあえて不敵な笑みを返した。
「ただの推測と観察の結果だよ。あとは――そうだね。この【眼】が見せた『運命』だと言っておこうか」
「【眼】……?」
彼の眉が微かに動く。……ごめんね、悠里くん。これは真っ赤な嘘だ。けれど、この異次元の怪物相手に少しでもハッタリを効かせておかなければ、こちらの生存率は一向に上がらない。
実際は、無敵の転移能力など存在しないと仮定したとき、地面に残された唯一の接続点――「影」の不自然さに意識を集中させただけのこと。だが、嘘を真実のように語るのも、生き残るための「選択」だ。
「中々……やるようですね。なら、この【事象を断つ剣】については何か掴めましたか?」
悠里くんが挑戦的な歪な笑みを浮かべ、再び影の深淵から漆黒の刀身を引き抜いた。
「……そちらは、まだ仮説の域を出ないけど。その剣は、現在進行形で起きている事象を強制的に『中断』させる……そんな【能力】とか?」
動き続けるという事象を断ち、停止させる。
燃え続けるという事象を断ち、消火させる。
因果の糸を力技で断絶させる、あまりに理不尽な権能。
「……随分と正解に近い。癪に障るほどに」
「条件までは分からないよ。でも、対策を立てるにはそれで十分だ」
結局のところ、やるべきことは一つしかない。
「【火炎放射】……ッ!!」
「……あなたの場合は、【能力】名を口にしなければ切り替えが行えない、といった制約でもあるのですか?」
「……ご明察」
舌打ちしたくなる。やはり【蒼炎】の存在まで、ムダミラさんに筒抜けだったか。隠し通してきたつもりが、俺の手の内はすでに彼のまな板の上に並べられている。
「【火炎放射】は僕の剣で容易に霧散する。……問題は、その【蒼炎】ですね」
放たれる業火。それを漆黒の刃が機械的に斬り裂く。
その攻防を幾度繰り返しても、絶望的なまでの距離は縮まらない。
圧倒的に悠里くんが優位なのだ。俺の【火炎放射】が一瞬でも揺らぎを見せれば、その刹那、俺の命運は文字通り断ち切られる。
「ハアッ、ハアッ……」
「そろそろ、底が見えてきましたか?」
どうする。考えろ。思考を止めるな――。
……いや、違う。
考えることは、もう済ませたはずだ。
俺はただ、一歩踏み出すことを恐れていただけ。
「【蒼炎】」
視界が、紅蓮から冷徹な蒼へと塗り替えられる。
最初から、こうなると決まっていた。
「絶対に消えない炎」と、「絶対にかき消す剣」。
矛盾する二つの権能が真っ向から激突したとき、どちらが上か。
「試してようか、悠里くん。どちらの『絶対』が本物かを」
「……あなたの死は、もう、目鼻の先です」
【譲渡】を完遂するまで、五秒。その五秒を掴み取るために、俺は蒼い焔を纏って深淵へと突撃した。
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