福島閑の居ない世界

@udemushi

プロローグ

 家族も友達も形だけ

 肩書き以上の意味がない。

 こここそが自分の居場所だと感じられたことなどない。

 物心のついた頃から身を浸していた孤独の中で


 まるで自分だけが違う生き物のようだ


 自分は生まれてくるべきではなかった


 生きている意味を見出せない中で、死ぬことも赦されず、ただ時間が過ぎていく。

 そして悟る。

 地獄とは存在意義を見出せない世界のことを指すのだと。


 その景色を視界に収めたとき、福島閑ふくしまのどかは自身が死んだのだと考えた。

 体は動かず、仰向けのままただ降りしきる雨を受けている。

 冷たいとは思いはすれども感じられず、寒いとま思いはすれども実感はない。

 濡れた土の匂いは懐かしく、しかし厚い雲が横たわる空を塞ぐ木々にはあまり馴染みがない。

 気付けばどこか覚えのないところに立っていた。

 遂に自分も壊れたかと、自嘲と同時に安堵もした。

 やっと終えられると。

 あてどもなく歩く彼の耳朶を、馴染みのない言葉が打ったのはそれから程なくのこと。

 見るからに「山賊」といった風体の男達の登場にも、彼の感情は大きく波打つことはなかった。

 奪われるものも、差し出せるものも何もない。

 そしてその後は落ちるところまで、文字通りに落ちただけ。

 どうでもよかった。

 ここがどこかも、自分のこの後のことも

 彼にとって重要なことは

 存在する筈のなかったものが、ここでようやく存在しなくなること。それに差し当たって、何処の、誰の、何にも波風を立てることがないこと。

 それだけだった。

 眠りに落ちるように遠退いていく意識。

 惨殺されたにしては穏やか過ぎる死。

 これ程の幸福もそうはない。

 彼はただ身を委ねた。


「ウワッ⁉︎ ――あーサイアク」

 足裏の違和感。反射的に足を上げ、見下ろしてみれば、死体が寝そべっている。

 獣に食べられたのだろう。肉は殆ど残っておらず、骨も完全には残っていない。胸から下などは特にぐちゃぐちゃに荒らされ、それが男か女かも分からなくなっていた。

 大方この辺りに居た賊が殺して捨てたのだろう。骨のところどころに付いた傷を見て、そう何となく考えた。

「なんでもうちょっとキレイに出来ないかなー?」

 それが何のものであれ、死体はとても有益な資源なのに。不容易に傷付けられては使えるところが減ってしまう。

「まいっか。運び易くなったし」

 すぐに意識を切り替える。頭を持ち上げようとして、私は良い裏切りに歓喜した。

「ついてるなぁ、脳付きの頭拾ちゃった!」

 匂いがしなかったあたり、死体はかなり新しいものらしい。頭蓋の中身は大部分が腐ることも食べられることもなく残っているようだった。

「おまたせ。そんでヨロシクネー」

 頭は布でくるんで、体は

「チャッピー、コレお願いー」

 まぁこのくらいなら問題ないだろう。

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