エロゲの竿役に転生したけど寝取らずにヒロイン達を幸せにしてみせます

朔月カイト

   第1話 竿役に転生


「ん···ここ、どこだ?」


 朝目を覚ますと、そこは普段見慣れたアパートの六畳一間ではなく、見知らぬ部屋だった。


 寝起きでまだ微睡みから覚め切らない頭をなんとか働かせて、記憶を辿ってみる。


 昨夜は確か、勤めている会社の残業で夜遅くに帰宅していた際に、急に胸が痛みだしてそのまま崩れるように道端に倒れて······


 そこから先の記憶はない。


 普通に推測するなら、こうして助かっている以上、意識を失って倒れている俺を見つけた通りすがりの誰かが救急車を呼んでくれたというところなのだろうが、それなら目覚める場所は病室でなければおかしい。


 いったいこれはどういうことなんだと首を捻りながらも、とりあえず現状を把握しなければと、その部屋から出てみることにした。


 その部屋は二階にある一室だったらしく、階段で一階に下りる。


 そこから伸びる廊下には左右に幾つかのドアがあったが、とりあえず一番手前のドアを開いて中に入ってみた。


 そこは洗面所のようで、鏡の付いた洗面台があり、奥は、手前に洗濯物が入れられている籠が置かれているところから見て、おそらく浴室になっているのだろう。


 その鏡になにげなく顔を向けた俺は、驚愕に目を瞠った。


 何故なら、そこに映っていたのは、くたびれた二十九歳の小太り男ではなく、どう見ても十代半ばにしか見えない、鋭い目つきをした金髪ウルフカットの厳つい印象を受けるワイルドなイケメン少年だったからだ。


「え、これどういうこと···?」


 そう呟いた瞬間、ある一枚のスチルが脳裏を過ぎった。


「って、ちょっと待てよ! この顔って、『思い出は黒く染められて』の竿役キャラだった吾妻怜人じゃん!」


 あれは俺がまだ私立大学の二年生だった頃の話。


 当時所属していたゲーム研究会という名のオタクサークルの先輩から、面白いからぜひ一度プレイしてみてくれと薦められて貸してもらったのが、その『思い出は黒く染められて』(略称は『オモクロ』)というタイトルのエロゲだった。


 俺はそれまでエロゲというものをプレイしたことが一度もなかったのだが、いざ始めてみると、ヒロイン、イラスト、ストーリー、BGMのどれをとっても最高で寝る間を惜しんでプレイした。


 ただ、良かったのは、主人公と三人のヒロインたちが純愛を育む中盤までで、それ以降は、途中から登場する竿役のイケメンに、三人のヒロインたちが全員寝取られてしまい、どうあがいても鬱なバッドエンドになってしまうという鬼畜仕様だった。


 その内容も凄惨で、強姦、輪姦、薬漬け、風俗売り飛ばしなど、これでもかと言う程に酷かった。


 そう、『思い出は黒く染められて』は、プレイヤーの脳を破壊するNTRゲーだったのだ。


 俺もその悲惨さに憤りを抑え切れず、何度パソコンのモニターを殴ったことか···。


 そして、吾妻怜人というのがその最低最悪な寝取り竿役で、何故かは分からないが、今俺は、その吾妻怜人になってしまっているというわけだ。


 あまりの予想外の事態に、半ば呆然としながら、変貌を遂げてしまった整った顔をぺたぺたと手で触っていると、突然、横のドアが開かれた。


「物音がしたから来てみれば、なんだお兄ぃもう起きてたんだ。すぐに朝食用意するからちょっと待ってて」


 そう言いながら入って来たのは、齢の頃十四、五歳程度の黒髪をツインテールに結ったブレザー姿の少女だった。


 胸の膨らみはまだそれ程でもないが、全体的にすらっとした体型で、怜人に似て目鼻立ちも整っており、美少女と呼んでも差し支えない。


 彼女の顔にも見覚えがある。


 何故なら、『オモクロ』のヒロインの一人である主人公の一学年下の義妹と、彼女が親友同士だからで、何回かスチルで描かれていたからだ。


 設定では、確か怜人の一歳年下の妹で、麻衣という名前だったはずだ。


 こんなクズ男が兄だったら、普通は無視とか罵倒とかしそうなものだけど、こうして普通に会話してくれる優しい子なのだ。


 他にも、麻衣は仕事が忙しくいつも帰りが遅い母親の代わりに家事全般を担ってくれてもいて、ほんと怜人にとって彼女は頭の上がらない大切な存在なのである。


「······どしたの? 私の顔に何かついてる?」


 俺がまじまじと見つめていたのが気になったのか、麻衣が訝しげに目を細める。


「なあ、ちょっと聞いてもいいか?」

「なに?」

「俺の名前は吾妻怜人。そしてお前は妹の麻衣。だよな」


 もう確定したようなものだけど、念のため確認してみた。


「なに今更当たり前のこと聞いてんの。そんなの当然でしょ」

「そっか。そりゃそうだよな」

「変なお兄ぃ。にしても珍しいね。お兄ぃがこんなに朝早くに起きるなんて。いつもは夜遅くまで遊び歩いてて、そのせいで朝は寝坊して学校に遅刻するってパターンだったでしょ」

「ん? ああ、いつも迷惑かけてごめんな」

「え!? あのお兄ぃが殊勝な態度で謝るなんて······もしかして熱でもある? それともなにか企んでる?」

「素直にそう思っただけだって。これからは今までの行いを反省して、できるだけ真面目にやるようにするからさ」

「ふーん···まあ私としてはそうしてくれると助かるんだけど。学校でも今まではお兄ぃの悪評が出回ってたから避けるしかなかったけど、普通に兄妹として接することもできるようになるかもだし」

「ああ。そうなれるように頑張ってみるよ」

「まあ、あまり期待しないで待ってるよ」


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