第9話

シーン1:人身売買シンジケート

【時間】 現代、深夜

【場所】 街中の廃工場、地下室


SE: 不気味な風の音、重い鉄の扉が軋む音


カイは、廃工場の地下室に降りていく。そこには、神隠しにあった人たちが、鎖につながれて横たわっていた。


カイ: 「彼らを…助けるんだ…。」


カイは、その人たちに手をかざす。彼の瞳が、かすかに光を放ち始める。


カイ: (低い声で) 「…目覚めろ。」


SE: 光が弾けるような音


カイの言葉が、眠っている人たちの魂にかけられた術を、無力化する。彼らは、ゆっくりと目を開ける。


神隠しにあった人たち: 「ここは…?」


カイ: 「…大丈夫です。もう、安全ですから。」


その時、カイの背後から、不気味な声が響く。


声: 「よく来たな、小僧。」


振り返ると、そこには、漆黒の衣をまとった死神が、嘲るような笑みを浮かべて立っていた。


死神: 「お前たちは、我らが放った『神隠し』の幻覚に惑わされず、ここまでたどり着いた。さすがは、冥府の『異物』…だが、遊びはここまでだ。お前たちの魂、ここで狩らせてもらう!」


シーン2:犬の奇策

【時間】 現代、同時刻

【場所】 街中の廃ビル、屋上


SE: 激しい戦闘音、犬の唸り声


死神が鎌を振り下ろす。その瞬間、カイとひかりの前に、黒い影が躍り出た。クロだった。


SE: 獣の咆哮


クロの体が、淡い光に包まれる。カイとひかりが息を飲む前で、豆柴の小さな体は、見る見るうちに引き伸ばされ、変形していく。光が収まった時、そこにいたのは、翼を広げれば二メートルはあろうかという、一羽の巨大な黒鷲だった。


ひかり: (驚きと恐怖で震えながら) 「クロが…!?」


黒鷲(クロ)は、鋭い爪で死神の鎌を受け止め、弾き返す。死神の攻撃をかわしながら、黒鷲は二人に何かを伝えるように、鋭く鳴いた。


カイ: (心の中で) 「『…時間を稼ぐ。お前たちは、献太を助けるんだ!』…そう言ってるのか?」


ひかり: (我に返って) 「カイくん!献太くんを早く!」


カイは、献太の体を抱きかかえる。その時、献太の体から、微かに光が漏れていることに気づく。それは、死神が魂を一時的に亜空間に隔離するために使った、霊的な光だった。


カイ: (光に手をかざし、静かに) 「…消えろ。」


SE: 光が弾けるような音


カイの言葉が、献太の魂にかけられた術を、無力化する。献太の体が、光を失い、深い眠りにつく。


シーン3:新たな覚醒

【時間】 現代、その日の夜

【場所】 カイとソラの自宅、ソラの部屋


SE: 嵐の音、雨が窓を叩く音


ソラは、ベッドの上で不安そうにカイを見つめている。カイは、ひかりとクロと共に、静かに話し合っている。


カイ: 「僕たちが、このまま日常を送っていたら、またソラやひかりが狙われる。…この戦いから逃げることはできないんだ。」


ひかり: (強く) 「うん。私もそう思う。もう、あの絶望的な夜は嫌だ。」


カイ: 「だから、僕たちで、この問題を解決するしかない。死神たちの狙いは、ソラの魂。そして、僕の中の…得体の知れない力。」


ソラ: 「でも、どうやって?相手は、神様みたいな存在なんだよ?」


カイ: 「ソラには、まだ眠っている力があるはずだ。死神たちには効かなかったけど、僕には見えた。ソラが献太くんを助けようとした時、その瞳が光った。念動力とは違う、もっと根源的な…。」


ナレーション(閻魔の声): カイの言葉は、ソラの魂に、かつて奪衣婆ソトとして持っていた、魂の本質を見抜く「千里眼」の能力が、まだ残っていることを示唆していた。


ソラ: (心の中で) 「…私の魂…?」


シーン4:冥府の王の采配

【時間】 現代、深夜

【場所】 冥府、閻魔庁の玉座の間


SE: 厳かなBGM、玉座の間が静寂に包まれている


閻魔大王は、浄玻璃の鏡に映る地上の様子を見つめている。鏡には、カイ、ソラ、ひかり、そして献太が、それぞれに神隠し事件の捜査をしている姿が映し出されていた。その時、玉座の間に、一つの影が現れる。それは、黒い豆柴の姿をしたクロ、すなわちシジマだった。


閻魔大王: (驚きと、どこか安堵の表情で) 「…シジマ。なぜ、お前がここに…?」


シジマ: (心の中で) 「大王様…。お願いです。あの子たちを、助けてください…。」


閻魔大王: (苦悩の表情で) 「…俺には、もう何もできん。スサノオの力は、俺の想像を遥かに超えている。俺が、あの者たちを助けようとすれば、冥府全体の秩序が崩壊しかねん。」


シジマ: (心の中で) 「…それでも、あの子たちは、あなたがお守りになろうとした、希望の光ではないのですか?」


閻魔大王: (苦い顔で) 「…シジマ。お前は、この千年間、俺の側を離れず、俺の孤独を、ただ見つめてきた。だが、俺は、お前を…そして、ソトを、苦しみから解放してやることができなかった。それが、俺の…唯一の…悔いだ。」


閻魔大王の瞳に、深い悲しみが宿る。その時、シジマは、閻魔大王の足元に、そっと懐中時計を置いた。それは、冥府の遺失物倉庫に眠っていた、持ち主の記憶が残る、古い懐中時計だった。


シジマ: (心の中で) 「大王様。あの子たちの魂は、この時計が持つ、温かい記憶と同じです。…あなたが、この時計を、大切に保管していたように、あの子たちの魂も…この世界に、必要とされているのです。」


閻魔大王は、懐中時計を手に取る。そして、懐中時計に込められた、温かい記憶…愛する人を想う心、夢への憧れ、子供の成長を願う祈り…それらの記憶が、閻魔大王の心に、静かに、しかし、温かく流れ込んでくる。


閻魔大王: (心の中で) 「…そうか。…そうだな。」


閻魔大王は、静かに、そして力強く、一つの決断を下す。


シーン5:新たな脅威

【時間】 現代、深夜

【場所】 街中


SE: 不気味な風の音


ヤミとクロガネは、街の路地裏に立っている。


クロガネ: 「ヤミ。次の『神隠し』のターゲットは、あの男だ。」


クロガネが指差す先には、一人の青年が立っていた。彼は、カイの幼なじみ、相沢ひかりの弟だった。


ヤミ: (不気味な笑みを浮かべて) 「…お安い御用です。クロガネ様。」


ナレーション(閻魔の声): 冥府の王と天界の神は、静かに、しかし決然と、一つの決断を下した。それは、彼らの戦いを、宇宙全体の命運を賭けた、新たなるステージへと引き上げるものだった。そして、彼らが知らないところで、スサノオは、彼らの最も大切なものを奪おうと、静かに、しかし確実に、牙を剥き始めていた。

【第9話 完】

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