第2話
シーン1:日常の陰り
【時間】 現代、翌日
【場所】 ソラとカイの自宅、リビング
SE: 朝の喧騒、テレビのニュース番組の音
ソラ: (朝食のパンを頬張りながら) 「もう!またテレビで変なニュースやってるよ。ブランコが急に落ちたとか、意味わかんない。」
テレビのニュースキャスター: ―――昨日の午後、都内の公園で、遊具のブランコが突然落下する事故が発生しました。幸い、けが人はいませんでしたが、現場には不自然な焼け焦げた跡が残されており、警察は…
カイ: (静かにテレビを見つめながら) 「あれは…僕たちを狙ってたんだ。」
ソラ: (パンを落としそうになる) 「え?どういうこと?」
カイ: 「あの公園で、僕たちを狙って、何かをした。きっと…僕たちの監視役なんだ。閻魔様の言ってた、監視役。」
ナレーション(閻魔の声): カイの言葉は、ソラの魂に、千年の歳月を経て薄れかけていた記憶の断片を呼び起こさせる。かつて地獄で閻魔から言い渡された、監視役の使命。
ソラ: (顔を青ざめさせ) 「…なんで?私たちはただの人間になったのに。放っておいてくれないの?」
カイ: 「僕たちが、地獄のシステムにとって『異物』だからだ。千年の刑期を乗り越えて、人間として生まれ変わった。それは、彼らの常識ではありえないこと…だから、排除しようとする。」
ソラ: 「…だったら、もう一度…あの力を…」
カイ: (首を横に振る) 「ダメだ。僕たちはもう人間だ。あの時の力を引き出したら、僕たちの魂はきっと耐えられない。…それに、せっかく手に入れたこの日常を、手放したくない。」
シーン2:平穏の残照
【時間】 現代、その日の夕方
【場所】 住宅街の路地裏
SE: 駄菓子屋のBGM、子供たちの笑い声
ソラとカイは、駄菓子屋で買い物をしている。
ソラ: (駄菓子を袋いっぱいに詰めて) 「ねぇ、カイ。私たち、今まで通り、普通に暮らそう?お菓子食べて、ゲームして、学校行って、いっぱい遊んで…」
カイ: (優しく微笑んで) 「うん。ソラ。」
ナレーション(閻魔の声): カイの言葉が、地獄で「無関心」という名の罪を負っていた頃の、孤独な魂に、一筋の温かい光を灯す。
男の子の声: 「おーい!ソラとカイ!遊ぼうぜ!」
近所の子供たちが二人を呼び止める。
ソラ: 「ああ!今行くー!」
ソラとカイは、子供たちと鬼ごっこを始める。
SE: 子供たちの笑い声、走る足音
ソラ: (全速力で走って) 「待てー!カイ!捕まえたー!」
カイ: (息を弾ませながら) 「ははっ、ソラは足が速いな。」
ナレーション(閻魔の声): その瞬間、カイの胸に、地獄で感じた「生きる」という痛みが、温かく、そして、愛おしい感情となって蘇る。
ソラ: (息を切らしながら) 「ふぅ…ねぇ、カイ。私は…もう二度と、あの場所に戻りたくない。」
カイ: (ソラの頭を撫でて) 「僕もだよ。だから、大丈夫。僕が、この日常を守るから。」
その言葉は、まるで千年の昔、地獄へ向かう自分を「見殺し」にした、かつての男の魂から放たれた言葉と重なる。だが、それは今、ソラの魂を安堵させる、温かい光となっていた。
シーン3:神隠しの影
【時間】 その日の夜
【場所】 住宅街の公園
SE: 静かな夜の虫の音、不穏な風の音
カイが一人で公園のベンチに座っている。そこに、昨日のブランコを壊した、黒い影が現れる。
黒い影: (歪んだ声) 「お前たちだ…冥府の秩序を乱す『異物』め…」
カイ: (冷静に) 「…僕は、ただの人間だ。」
黒い影: 「嘘をつけ!その魂の奥底で眠る、とてつもない力を感じているぞ!それは…地獄の業火に耐え抜いた、究極の魂の輝きだ!我々の、何者にも従わぬ、自由な魂の輝きだ!」
SE: 不気味な笑い声がこだまする
カイ: (眉をひそめて) 「…僕には、何のことだか分からない。」
黒い影: 「そうか…。ならば、お前が愛するものを奪ってやろう。その時、お前はその力を解き放つだろう。そして…冥府の管理下に置かれるのだ!永遠にな!」
黒い影は、まるで霧のように消える。その残像を追うように、カイの視線が、近隣の家の明かりに向かう。
ナレーション(閻魔の声): その日の夜から、街で奇妙な「神隠し」が頻発し始めた。
モンタージュ:
・コンビニから突然消える店員。
・公園で遊んでいた子供が、誰も見ていないところで消える。
・カフェでパソコンを打っていた女性が、席を立つことなく消える。
テレビのニュースキャスター: ―――この一週間で、都内を中心に、説明のつかない失踪事件が相次いでいます。警察は事件と事故の両面から…
ソラ: (不安そうに) 「カイ…どうしよう…みんな…消えちゃってる…」
カイ: (ソラの肩を抱き寄せ、強く) 「大丈夫。ソラは、僕が守るから。」
シーン4:冥府の王、孤独なる天秤
【時間】 現代、同時刻
【場所】 冥府、閻魔庁の玉座の間
SE: 重々しい静寂
閻魔大王が一人、玉座に座り、大きな水晶に映る地上の様子を見つめている。
閻魔大王: (虚空に向かって) 「クロガネ…お前は、本当に愚かだ。あの二人の魂は、決して悪ではない。悪を断ち切るために、我々が守るべき希望の光だというのに…」
創造主(声): 「…閻魔よ。あの者たちを、今すぐ地上から引き上げるべきだ。」
閻魔大王: 「創造主様…しかし、彼らは…」
創造主(声): 「彼らの存在は、冥府の秩序を根底から揺るがす。このまま放っておけば、宇宙の理が崩壊しかねん。彼らを消滅させるか、地上から隔離するか…もはや、選択肢はそれしかない。」
閻魔大王: (苦悩の表情で) 「…御意。」
シーン5:学び舎の悪夢
【時間】 現代、その日の深夜
【場所】 冥府、死神の養成所
SE: 邪悪な笑い声、囁くような声
クロガネ: (何体もの死神を前に、冷酷な声で) 「いいか。我々は、冥府の秩序を守るため、あの『異物』を排除する。邪魔をする者は、神であろうと…人間であろうと…排除するのみだ。」
死神たち: (一斉に) 「ハッ!」
クロガネ: 「まずは、奴の『最愛』を奪う。奴の唯一の弱点である、あの女を…」
SE: 邪悪な笑い声がこだまする
ナレーション(閻魔の声): クロガネが次なる一手として狙ったのは、ソラだった。その魂の奥底に眠る、かつて卒塔婆として持っていた神格。それは、彼女自身が知らない、強大な力。そして…それは、彼らの本当の目的の、ほんの序章に過ぎなかった。
画面は、眠るソラと、彼女の枕元に立つ黒い影を映す。
ソラの声: 「カイ…助けて…」
【第2話 完】
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