とってもとってもハッピー村
穿石
ハッピー村に行こう!
肝試しに誘われた。
「時間ぴったりだね、
加藤が待ち合わせの駅の改札で出迎えてくれた。今回の肝試しの発起人である。
ほかの連中も続々と集まってきた。全部で5人だ。
加藤、木村、倉科(俺)、剣崎、小山。
苗字の頭文字が『かきくけこ』である。高校のとき、出席番号が近くて仲良くなったメンバーだ。卒業以来10年が経過し、30代に差し掛かってなお、ありがたいことに交友があった。
加藤が手配してくれたレンタカーに皆で乗り込み、夕暮れの街を出発した。
「え~、皆さんは神隠し譚をご存知でしょうか」
運転を木村に任せ、加藤がスピーチを始めた。肝試しの雰囲気づくりとして、神妙に聞く。
「ある日突然、人が忽然と姿を消してしまう。探せど探せど見つからない。周囲の人間も捜索を諦めてしまうわけです。ところが、何年もあるいは何十年も経過してからひょっこり現れる。場合によっては失踪当時と変わらぬ姿だったりします。で、こう証言します。――私は神隠しに遭っていたのだ」
俺や剣崎などは加藤の口調を面白がって聞いていたが、小山は真剣な眼差しで固唾をのんでいる。
「多くのケースにおいて、神隠しに遭った人物はその間、異界で過ごしたといいます。
そのようなこの世ならざる異界に意図せずして足を踏み入れてしまうという逸話は、古今東西様々に伝わっています。最近の有名どころは『きさらぎ駅』でしょうか」
車は山間の道を進む。黄昏時の日光は、木々の陰を妖しく水平に投射し、そのまま無責任にも退場しようとしている。
「そして今回われわれが目指すのは、さらに新しい都市伝説であります。その名も『ハッピー村』。知る人ぞ知る異界の地」
「なーんだ、名前からして安全そうじゃん」
小山が胸をなでおろすが、加藤の演説はまだ途中だ。
「小山ちゃん、その考えは短絡的と言わざるを得ませんね。みずからクリーンなイメージを主張するものが、はたして本当にクリーンなのでしょうか」
「確かに……じゃあ実は恐ろしいところなの?」
「ネットの噂によると、実際に『ハッピー村』を訪れて生還した人がいるそうです。彼らは口をそろえて証言します。
――ハッピー村は名前の通りにハッピーなところだった。
――メルヘンチックそのもので、とってもハッピーな体験をした。
――ハッピー村の住民はみんな親切で友好的だった。
――ハッピー村にいる間は、そこの住民と仲良くおしゃべりしなければならない。
まるでハッピーでいることを強制されているかのようです」
「ひいい」
小心者の小山は震えだしてしまった。
こんなに怖がってくれるなら主催者として冥利に尽きるだろうが、ちょっと気の毒だ。
口を挟むことにした。
「まあまあ。確実にハッピー村へたどり着けるわけでもないんだろ」
「うむ。到達自体に失敗したという報告もあるな」
加藤は口調を元に戻した。
「な、小山。ハッピー村に行けなかったら、みんなでご飯を食べて帰ろう。この峠の向こうに、ちょっと評判のいいラーメン屋があるんだ」
「おう、ありがとう倉科。……別に怖くなんかないけどな」
「俺は焼肉がいいな」
剣崎が便乗してリクエストした。
しばらくして、ずいぶん山間部に分け入った場所で停車した。
「着いたぞ」
「ここから5分くらい徒歩だ」
レンタカーを降りる。
夜7時。人工の明かりが乏しいことも手伝って、あたりはすっかり暗くなっていた。
加藤の案内で夜の山道を進む。
すると突然、霧がかかった。懐中電灯の光は頼りなく飲み込まれ、一時的に視界のすべてが白く包まれる。
加藤が叫んだ。
「来た! これが合図だ! 霧が消えたらハッピー村のはずだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます