■希望の光
霧の立ち込める集会所。木の床は年季が入り、ろうそくの灯が揺らめく。信者たちは静かに座り、額を光源に押し当てる。
「魔王は、この世界を支配する。だが、恐れることはない」
長老の声は低く、部屋の隅々まで届く。
「恐怖に屈する者は、己の光を見失う。希望を失わぬ者のみが、明日へ進める」
初級信者のアレンは、肩を丸めながら座った。頭上の光源から漏れる柔らかな光に手を伸ばすと、心の奥のざわめきが少し静まった。
勇者の物語を思い浮かべる。実在か虚構かは問題ではない。勇者は、己の中の勇気を呼び覚ます象徴だ。
長老は続ける。
「運命に従え。抵抗するのではなく、受け入れよ。しかし光を捨てるな。秩序の中に己の光を見出せ」
中級信者のエルダは、影のように静かに立ち上がり、集会所の隅で小さな箱を開ける。中には村や街の報告、些細な異常の記録が入っていた。
「表向きの教えに従いながら、世界の歪みに気づく」
誰にも知られず、情報を集め、光の中で真実を育むのが自分たちの役割だと彼は思った。
上級信者たちは祭壇の奥に座り、光源に手をかざす。
「光は秩序、自由意思、そして真実の象徴」
その意味を理解できるのは、ほんの一握り。だが理解できた者は、密かにレジスタンスを導く者となる。
表の信者は信じる。光を、勇者を、運命を。
裏の者たちは知る。真実を、欺瞞を、秩序の裏側を。
集会所を出ると、夜風が二人の顔を撫でた。
「我々の信仰は、生きるための盾であり、戦うための道具でもある」
エラン(エメト)はそう呟き、闇の中に消えた。
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