■影の創設者
希望の光にもレジスタンスにも、古い文書に必ず記される名がある。
《エラン》
だが、その名を知る者は極めて少ない。
表向き、希望の光は数多の民衆を救う“精神教団”として広まった。
一方、レジスタンスは政府の嘘と暴力に抗う“地下の反逆者”として恐れられた。
しかし両者の根は同じ。
どちらを語るにも、消えた勇者エメトの影を避けて通ることはできない。
エメトは三代目勇者として称賛されていたが、ある日を境に全記録から抹消された。
魔王の正体——政府が作り出した偽装兵器であること——を知り、その証拠を奪って逃走したためだ。
その後、エメトは姿を消し、《エラン》という偽名を名乗った。
彼は逃亡者ではなく、観測者になった。
政府の監視網をかいくぐりながら、裏社会や孤児院、流民の村を転々とし、歪んだ世界の“記録”を集め続けた。
旅の途中で出会ったのがセナ——
国民番号のない売春婦であり、焼き払われた“二代目勇者の偽の故郷”の唯一の生き残りだった。
二人は名を捨て、過去を捨て、新しい思想を作り始めた。
《光は、真実の象徴
希望は、隠された歴史を継ぐ者の証》
この思想が、後の《希望の光》の教義の始まりである。
しかし彼らは同時に知っていた。
真実を正面から掲げれば、即座に政府に潰されると。
だから宗教を“表の顔”にした。
その内側に《真実を継ぐ地下組織》を埋め込んだ。
本来、希望の光とレジスタンスは“同じ根から生まれた双子”だったのだ。
後に組織が大きくなるにつれ、互いに対立する演劇を演じる必要が出てきた。
信者の目を欺き、政府の疑いをそらすために。
こうして両者の関係は、表向きは敵対しながら、裏では秘密裏に連携する奇妙な形となった。
すべての始まりは、影の創設者エラン。
そして、その正体が三代目勇者エメトであることを知る者は——いまでも一握りしかいない。
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