第4話 魔法族統治時代・後篇

コレウスはこの昆虫族の言葉が分かる女をみて驚いた。



「おぬし、言葉がわかるのか…」


「みたいです。私の故郷の言葉に似てるので…。」

「故郷の言葉…?もしかして…。まあ、今はいい。私と一緒に来てくれないか?」

「え?どこに?…何で?」


飛びながら説明する!と、言われそのままコレウスの腕に移されたアイリス。

そしてパズラに何かを耳打ちしたと思うと、アイリスを抱えて首都の中心にある魔法族女王リュミラの城を目掛けて、飛んで向かった。


「お、お姫様だっこ始めてだ!」と、少しときめきかけたアイリスに約束通り飛びながら話してくれたコレウスによると、昆虫族は魔法族に幾度となく政治的交渉を試みてきた。しかし、書面から使者まで…全てにおいて門前払いをうけてしまい、このままだと“被害が拡大の一途を辿る”との事で今回ブルーメリアの首都リンデーゼに進軍という最終手段に出たのだという。


「そもそも被害って…なんの被害ですか?」

「あぁ…やはり知らないのだな。大事なことだから少し説明させてもらおう。」


城にいく前に…ひと目のない森の中に着地をして、アイリスにここに至るまでの状況を説明しはじめた。

そしてこれからいう事はきっと初耳の事だろうが、全て真実で、それが今回の進軍に発展した原因であり、これは誰かを傷付けるためでわけでない。

そして、できれば無血開城を狙っている。

だから先に街に進軍させ、城の守りを手薄にさせたとのことだ。


「…長くなるから端的に伝えるが、魔法族が人間を使ってこの美しい首都で絢爛な生活をしている裏で獣族と昆虫族は奴隷的支配されている。これはその反乱だ。」


「ど、奴隷?…あのお優しい女王様が…?獣族や昆虫族って…私たち人間や魔法族と対立してるんじゃ…」


「いや、異型を毛嫌いしてるのは女王の方だ。我々は幾度となく話し合おうとしてきた。でも無視され続けていてな…」


「そ、そうなの?昆虫族も獣族も…人間を襲う…だから女王が守って…」


「私たちは人も魔法族も襲わない。なに?自分たちが好まれると思ってるのか?そんなわけない。まあ、…まぁこうしてリンデーゼに攻め入ってきた私たち昆虫族は悪者にみえよう…。」


「いや…そういうわけじゃ…ないですけど…」


「言葉の分かるおぬしがあの魔女の本性をしってくれているだけで、あとで市民へ説明する時、かなり助けになるのだ。昆虫族に魔法族の言葉を話せる者は私意外にいない。魔法族や人間も我々の言葉はわからないようだ…。おぬしはどちらも話せる。だから…来てくれないか。」


女王でなくても誰かのことを人伝いに聞いて判断するなんて真似をするのは愚蒙幼稚。

「…行きます。魔法族は人間である私を攻撃したりしないでしょうし…」

「それは…わからぬ。だが、もし戦闘になっても私が命を賭してあたなを守ろう、安心しろ。戦闘には慣れている。」

「え…なにそれ…かっこいい。」

「かっこ…まぁ…いいんだな?」

「はい」


が、そこに人間市民がいたら女王リュミラも保身に走って魔法でアイリスになにかするかもしれないとの事。

しかし、人間のアイリスと昆虫族のコレウスは魔法は使えないので、どこかに物理的に隠れるしかない。


アイデア:1 背中にしがみついてマントに隠れる。


「…重くないですか?」

「重くはないが、…落ちやしないか?」

「たしかに…背中ツルツルスベスベだから…落ちちゃうかも…」


(スベスベって…)

「そうか。うーん…そうだな…そなたが嫌でなければなんだが…もう1つ案が…」



アイデア:2 甲冑に隠れる。


……

………すっぽり。


「意外と入るものですね…」

コレウスの鎧の胸甲と本人の胸板の間に入ってしがみつく。

「緩めたらいけるもんだな…あんまり…う、動くかないでくれ。」


アイリスは両手両足を広げてコレウスの広い胸に張り付いた。

その頭は胸筋の間に挟まっている…というか、埋め込まれてる。

「王様…たぶんこれいつもより雄っぱいが雄っぱいに見えると思うんですけど…大丈夫ですか?」


(その前にそなたのたわわな胸が押し付けられているがそれは大丈夫なのか…)

「私におっぱいなど付いていない…それに私は全体的に大きいし…魔法族の女王と会うのは始めてだ。きっと気づかれん。」

「おっぱいじゃなくて、雄っ…まあいいや。なるべくペタッとしときますね。」

(やめろ…いや、まあ作戦としてはその方がいいんだが…)


*****


このアイデア2で行くことになった。


アイリスが胸甲の中なら背の羽根も使える。

コレウスは軍も従えず、そのまま飛んで女王の城まで向かう…。

女王は「私が虫ごときに負けるわけないでしょ」と言って、街の騒ぎに騎士団を送っていた。

なので、コレウスの予想通り城の守りは手薄になっていた。


重い体をもろともせずその大きな羽根で空を飛び、塔のバルコニーから侵入に成功。

中には「来るのは知ってた」といいたげな顔をしたピンクの髪をした魔法族女王リュミラが玉座に座っていた。


「来たのね、クソ虫。手紙も使者も無視してるって“会いたくない”って意味なんだけど、そろそろストーカーするのやめてくれない?」


「…私の用件は分かっているはず…獣族と昆虫族への奴隷的支配をやめるんだ。」


「いやよ、なんであんたらクソ虫たちの言う事聞かなきゃいけないわけ?言う事聞くのはそっちの方、弱者は強者に仕えるものでしょう?無駄な抵抗はよしなさい。」


「自分勝手も甚だしいな。お前はあの妙薬がないともう力は維持できないはずだ。もう500歳を超えたろう?」


「女に歳を聞くなんて…なんて失礼なのかしら。それに、私の支配にされてるだけで、彼らは幸せに生きてるんだよ?何が不満?仕事も生活も故郷もなにもかもあるでしょう?支配されている事に気づかず現状に甘んじて幸せに生きて何も知らずに死ぬのが畜生と虫けらの運命なのよ。役に立たさてあげているんだから感謝して欲しいくらいですわ。」


***


アイリスは王の胸の中で女王リュミラとコレウスの話を全部聞いていた。

「(え、ひどい…でも、500歳でマジ?25くらいに見えるけど…)」


女王リュミラは完全に昆虫族を舐めているのか、他に誰もいないと思っていたのか、悪びれる事もなく事実を全て認め…その上で「お前らと交渉などしない。だまって私に使われておきな。」とはねつけた。

“であれば”と、コレウスは隠れさせていた蜘蛛型に静かに目線を送った。

その蜘蛛たちは一瞬にしてリュミラを糸で巻き上げて、捕獲した。


さっきパズラに耳打ちしていたのはこの傭兵への指示だろうか。


「私達は血を流すのは趣味じゃないんだ。抵抗しないでくれよ。」

「…女王リュミラ様にこんな事してタダでは済まないわよ?わたしの騎士たちがくるわ…!」

まだ昆虫族を舐めているのかまだ余裕をかましている。


「その余裕…まだ何もかも自分の手中にあるからと思っているからだろう?…ここの半数の騎士団も獣族ももうとっくに私達に寝返っているぞ。女王様…えらい嫌われているようですね。彼らの手引でこの城にある妙薬も私たちが全部抑えてる。…さあ?どうする?」


一瞬にして女王の顔が曇った。

「…クソ虫がぁぁっぁぁ!!!!」



***


その頃リンデーゼでは鎮圧が進み、人間たちは絶望し昆虫族に怯えそれぞれ安全な所に避難していた。

女王サイドの魔法族は戦闘をしかけていたが、昆虫族は致命的な攻撃を避けて魔法族を無力化させていっていた。

そして「我々には女王が居る」と叫び、女王が助けに来るのを待っていたのだ。


しかし、首都の中心広場につれてこられたのはクモの巣で簀巻きにされたリュミラ。

「お前達…情けない、揃いも揃って虫けらどもに負けるなど!!」

「女王も…巻かれてるじゃないっすか。。」

「…うるさい!」


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