第3話 発現した魔法


「「「「「「ひ、ひぃぃぃ」」」」」」


馬車から出てきた何かに冒険者が声を上げ、残った盗賊たちが腰を抜かし後退る。

しかしアンデッド(疑)は怯える冒険者たちには目もくれず、真っすぐエイシスたちの元にやって来た。一瞬剣を持っていた手が反応したが、エイシスはその服に見覚えがあることを思い出した。


「カノン嬢?」


アンデッド(疑)にエイシスがそう声をかけると「あ、はい」と、なんとも気の抜けた返事が返ってきた。

いや、「はい」ではない。

カノンは、剣はもちろん魔法も使えない。おまけに盗賊のターゲットなのだ。


「何故出てきた!?車内で大人しくしていてくれ!」

「頭を打って魔法が使えることを思い出し──いえ、『発現』したので何かお手伝いできるかなと思いまして」


王立学園の入学試験は十七になる年に受けると決まっている。

それはこの世界の魔法がある程度精神が成熟してから『発現』するものであり、貴族子女のほとんどが十六才前後でその時期を迎えるからだ。その為魔法は決して頭を打ったりして物理的な刺激で発現することはない。

しかも頭を打ったショックからか、言動そのものが元のカノン嬢と随分異なる。一体どれほどの衝撃を受けたのか。いや、そんなことより動いて大丈夫なのか!?


「そんなに出血するほど頭を打ったのなら車内で大人しくしていてくれ!」


エイシスたちはカノンの護衛だ。無事に目的地に送り届ける義務がある。たとえ本当に魔法が使えるようになったのだとしても流血している護衛対象と共闘するなどあり得ない。


「エイシス、カノンちゃんに回復ヒールを掛けるわ!!」


カレリアが近寄ってきてカノンに魔法を掛けようとしたが、カノンは血まみれの手を左右に振って言った。


「あ、これ、もう治したので大丈夫です」

「え?」

「治したって・・・カノンちゃん、光魔法が発現したのかい?」


カノンの言葉を受けて、フランツが答えた。


「いえ。わたしが発現した魔法は──」

「上よっ」


不意にカレリアがそう言って空を見上げた。

つられて皆が空を見上げると、多数の火球ファイアボールがこちらめがけて降ってくるところだった。

こんな山道にその数の火球ファイアボールが被弾すれば木々に燃え移り山火事になる恐れがある。カレリアを見ると既に水魔法の詠唱をはじめていたが、話をしていて対応が遅れてしまっていた。

取りあえずエイシスはこの隙に護衛対象カノンを馬車に戻そうと手を伸ばした。


「ここはわたしに任せてください!」

「なっ!盗賊の狙いは君なんだぞ!馬車に戻ってくれっ!」


しかし、カノンはその手をすり抜けるとそう言って空に向かって手を伸ばしたのだ。

無理だ。

魔法属性と魔力は爵位に比例する。高位貴族でも二属性、王族で三属性だ。本当に魔法を発現したのだとしても子爵令嬢では一属性で魔力も少なく魔法の威力も期待できない。しかも発現したのが光魔法であるのなら、火球ファイアボールを対処することなど出来るはずがないのだ。

エイシスの手をすり抜けたカノンは彼が止めるのも聞かず、空に向かって伸ばした手をそのままに叫んだ。


! 消えろ!!」


エイシスたちの目の前で信じられないことが起こった。

カノンの手元から複数の水球ウォーターボールが出現し、すべての火球ファイアボールを捉えると一瞬にしてその炎を消してしまったのだ。


「「「「はあぁ!!!!!??」」」」


あり得ない詠唱!あり得ない威力!!

いや、さっき発現した魔法は光魔法だと言っていなかったか!!??

通常二属性が発現するのは伯爵家でも稀、侯爵家以上だと言われている。高位貴族の血縁でも下位貴族の血が入れば決まって一属性だ。よって子爵令嬢であるカノンが二属性というのはあり得ない。

エイシスは言葉を失った。カレリアたちも驚いている様だった。


「さっき、この盗賊たちの狙いがわたしだと言われましたよね」


驚きすぎて呆然とする中、カノンが振り向きエイシスに話しかけて来た。

ワクワク、と言った感情が伝わってくるのは気のせいだろうか・・・


「え?あ、ああ。だから大人しく馬車に・・・」

「盗賊のアジトは叩く必要、ありますよねっ!」

「ここまで大所帯だとそうした方が良いとは思うが、俺たちは今君の護衛を──」


「ほらほらっ。早く追わないと逃げられてしまいますよ」


カノンが森の方を指し示した。見ると盗賊のリーダーと意識のある数人が森の中に逃げ込むところだった。さっきの火球ファイアボールは逃げる隙を作るものだったらしい。


「と、言うことで、馬車の方はお願いします。わたし、ちょっと(力試しに)行ってきます!」

「え?」

「は?」


カノンはそう言い残すと呆然とするエイシスたちを残して盗賊を追って森に入って行ったしまった。

え。


「きゃぁー。わたしが盗賊に狙われているなんてこ~わ~い~(棒読み)」


呆然とする一同の元に、酷く芝居じみた叫び声が聞こえて来た。


「え?あれ・・・誰?」


フランツがそう、つぶやく。

確かにアレはさっきまでの彼女とは別人だ。あのちょっと『ぽやん』としたとした印象の大人しい少女はどこに行ってしまったのか。

そんなことを考えている場合ではないことは重々承知しているのだが、驚きのあまりエイシスたちはすぐにカノンを追うことは出来なかった。


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