火山編


 翌日。宿屋を出たクレタとネメアは、ケネイアに別れを告げた。


「それじゃあ、私達は冒険者ギルドへ行くから、ここでお別れね、ケネイア」


「色々と助けていただいて、ありがとうございました。あの、勝手な勘違いしちゃってごめんなさい」


「ハハッ、気にしてないからいいよ。こちらこそ、私の住んでいる町を、ゴーレムの危機から救ってくれてありがとう。二人の協力がなければ、あいつを倒す事はできなかった」


 ケネイアは、二人に満面の笑みを向けた。


「また機会があれば共闘しよう。私はいつでも、この町の港で絵を描いているから、気軽に訪ねてくれ」


「えぇ」「はい」


 二人は声を揃えて返事をした。それから手を振ってケネイアと別れた。


…………


 馬車に乗って、ネメアとクレタは冒険者ギルドまで移動した。ギルドに入ると、何やらざわざわとした不穏な空気が流れていた。


「おい! なんでゴーレム討伐の依頼を受けられないんだよ!! 俺達はAランクパーティーだぞ!?」


「そうよそうよ!!」


「ですから、先ほどから何度もお伝えしているように、先にゴーレム討伐へ行かれた方々がいるんですよ。その方々の安否が分かるまで、依頼を提供することはできません」


 どうやら、受付け係と冒険者パーティーとの間で、言い合いになっているようだ。受付け係の顔を見て、ネメアはハッとする。彼はクレタが交渉して、ゴーレム討伐の報酬の半分を貰うことを約束している係員だ。


 さらに、冒険者パーティーの方を見て、ネメアはクレタの背後に隠れた。


 長剣を腰に下げた男性に、ローブを着た女性と猫耳の女性。ピンク色の髪を二つ結びにした知らない女性もいるけど、あれは間違いなく、俺を追放したアレスさん達だ……!


 できれば二度と会いたくなかった。お互い冒険者をしているのだから、ギルドに来ればいずれ遭遇してしまう事は分かっていたけれど、いざ目の前に現れると、鳥肌が立ってしまう。無能扱いされた悲しみと怒りを思い出して、ハラワタが煮えくり返りそうだ。


 クレタのドレスをちょいちょいと引っ張り、振り向いた彼女にネメアは耳打ちした。


「一度、ギルドを出ましょう。取り込み中みたいですし」


 しかし、彼女は首を横に振った。


「出ていく必要なんてないじゃない。私達がゴーレムの心臓を提出すれば、あの冒険者達は大人しくなるわよ」


「そうですけど……」


 顔を青くして、ネメアは俯いた。今、受付けに行ってしまえば、絶対アレスさん達に絡まれる。もう口を聞きたくないし、目も合わせたくない。


 一歩一歩後ろに下がり、彼は冒険者ギルドを出ていこうと扉に近づいた。クレタは彼の右腕を掴み、それを引き留める。彼は顔を上げて、じとっと彼女を睨み付けた。


「離してください! クレタさんは気づいてないんですか? あの騒いでいる冒険者パーティーは、俺を追放したアレスさん達ですよ」


「気づいてるわよ。だからこそ、ゴーレムの心臓を提出して、目にもの見せてやるの。あいつらに馬鹿にされたままでいいの?」


「嫌ですけど……今の俺のステータスじゃ、まだまだあの人達を見返せないんです。


 剣士のアレスさんは、攻撃力と武器を扱う技術のステータスが80、魔女のアテネさんは、防御力が80、魔力が75で、バーサーカーのセレーネさんは、素早さと身体能力のステータスが80あるんです」


 しょんぼりと眉を下げながら、ネメアは彼らの特に高いステータスについてクレタに伝えた。彼女は顎の下に手を当てて、「ふーん」と声を漏らしたかと思えば、にんまりと笑った。


「ねえ貴方達、ゴーレム討伐に行こうとしてるの? 残念だけど、そいつは私達が倒してしまったわ」


 大声でそう言いながら、クレタは堂々と前に進み出た。ネメアは頭が真っ白になった。


 フリーズしてしまったネメアを置いて、クレタはどんどん前に出ていく。声をかけられたアレス達一行は、彼女の方を振り向いた。アレスは彼女を見た途端、「あっ」と声を上げる。


「お前は、ネメアを引き取っていった……」


「クレタよ。そこにいる受付け係と話をしたいから、どいてくれないかしら?」


「は?」


 クレタが要望を伝えると、アレスは不機嫌な顔になった。彼の両脇にいるアテネとセレーネも、眉間に皺を寄せる。ただ一人、ネメアと交代で彼らの仲間になったキャンサは、真剣な表情で彼女を見ていた。


 セレーネが、威嚇するような低い声でクレタに尋ねる。


「あんた、ゴーレムを倒したって言ったわね。それって本当なの?」


「本当よ。ね、ネメアちゃん」


 威圧されても物怖じせずに返答し、クレタはネメアの方を振り向いた。そこでアレス達は彼の存在に気がつき、目を丸くした。それから顔を見合わせてニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、三人で彼に歩みよった。


「おいおい、無能なお前がゴーレムを倒すなんて、随分強くなったんだな」


「倒したっていうんなら、証拠を見せなさいよ。あるんでしょ? ゴーレムの心臓」


「駄目よ二人とも、そんなにグイグイ迫ったら。クレタって人が嘘を吐いているんだとしたら、ネメアが惨めで可哀想よ」


 小馬鹿にしながら近づいてくる三人に、ネメアは肩を震わせる。彼は今、自分がどんな感情を抱いているのか分からなくなっていた。アレス達に恐怖しているのか、苛ついているのか、はたまた、ゴーレムの心臓を見せた時の反応が楽しみなのか。歓喜と憎悪が複雑に混ざりあっていた。


 無言でクローバーのネックレスを握りしめ、アイテムボックスを召喚する。中を開けて、吸い込まれるような怪しい紫色に光る宝石を手に取ると、三人の前に掲げてみせた。


「証拠ならありますよ。これを見てください」


 ゴーレムの心臓を見た三人は、ギョッとして後ずさった。アレスは声を出せなくなり、口をパクパクとさせて、セレーネは「嘘だ……」と呟き、目を暗くする。


 アテネは憤慨し、ネメアからゴーレムの心臓を引ったくった。


「何よこれ! こんなの偽物に決まってるわ!」


「あっ、ちょっと!」


 奪ったゴーレムの心臓を、アテネは冒険者ギルドの扉目掛けて投げつけようとした。ネメアが咄嗟に手を出して止めようとするが、彼女からは距離が離れていて間に合わない。そんな時、今まで黙って四人のやり取りを見ていたキャンサが口を開いた。


「そのゴーレムの心臓は本物だよ! 投げつけて破損させたら、賠償金を払う羽目になる!!」


 キャンサの声を聞き、アテネは腕を下ろした。悔しそうに顔を歪ませて舌打ちし、しばらく俯く。


 五分ほど経って、彼女は深く溜め息を吐き、ネメアにゴーレムの心臓を返しながら質問した。


「貴方、どうやってゴーレムを倒したのよ。仲間は、あのクレタって人しかいないんでしょ。二人だけで、Aランクパーティーが倒しにいく魔物を、討伐できる訳がないわ」


「もう一人、協力してくれた人がいるんです」


「それじゃあ、クレタさんとその人が、よっぽど強いって事ね」


 ネメアは悪態をつかれたが、少しも悔しさは湧いてこなかった。今なら何を言われようが、負け惜しみにしか聞こえない。最初はアレス達に対して恐怖を感じていたが、それは綺麗さっぱり消えていた。


 アレス達からすれば、自分達よりステータスが低くて弱いと思っていた奴が、強い魔物のゴーレムを倒してしまったのだ。これは悔しくて堪らないだろう。


 ふと、ネメアはクレタと目が合った。彼女は「うまくいったでしょ」と言うように、ウィンクを飛ばしてきた。彼はそれに応えて、こくりと頷いた。


 ネメアが本当にゴーレムを倒せたのだと知ったアレス達は、キャンサがいる所まで大人しく引き返すことしかできなかった。アレスは、苛立ちのこもった声で、キャンサに質問した。


「キャンサ、なんであいつの持ってる紫の石が、ゴーレムの心臓だって分かったんだよ?」


「強い魔力を感じたからだよ。アテネも、あの宝石が偽物じゃないって事、分かってたでしょ」


 指摘を受け、アテネはバツが悪そうにそっぽを向いた。キャンサに言われた通り、彼女はネメアからゴーレムの心臓を奪った瞬間、そこから溢れる魔力を察知していた。けれど、馬鹿にしていたネメアがゴーレムを討伐したという事実を、認めたくなかったのだ。


 アレス達に、重苦しい沈黙が訪れる。その間に、キャンサはネメアの方へ向かっていった。


「貴方がネメアくんだね。私、君の事を探してたんだ」


「えっ?」


 自分とは関わりがないと思っていた人物から話しかけられ、ネメアは目を見開いた。


「俺に何か用ですか?」


 首を傾げて尋ねると、キャンサは耳打ちしてきた。


「ネメアくんは、伝説のSランクパーティー、オリーブパーティーのリーダー、オリーブ・ヘリクルスの弟でしょ。私、彼女に頼まれて君を探してたんだ」


「えぇっ!?」


 突拍子もなくとんでもないことを言われ、ネメアは仰天した。彼の様子を見て、キャンサはこくこくと頷く。


「その反応、やっぱりオリーブの弟なんだ」


 確信がついたキャンサは、先ほどよりもさらに声を潜めて耳打ちを続けた。


「私、オリーブの元仲間なの。今は偽名を使ってて、ステータスカードも偽造して正体を隠してるから、この事は誰にも言わないでね」


 畳み掛けて凄い事を言われ、ネメアはしどろもどろになった。


「えっ、えっ、え?」


「困惑するのも無理ないよね。だけど、今は私の話を信じて。オリーブが、貴方も冒険者になったと知って、心配だから様子を知りたいと言っていたの」


 耳打ちをやめ、キャンサはネメアに微笑みかけた。


「オリーブの心配は不要だったみたいだね。私のつくったゴーレム、倒してくれてありがとう」


 これまた度肝を抜く事を伝えられ、ネメアは口をポカンと開けることしかできなくなった。そんな彼を放置して、キャンサはアレス達の元に戻っていく。


 アレス達は、キャンサがネメアと話している間に、何か相談していたようだ。彼女が戻ってきたタイミングでちょうどそれが終わったようで、彼らはネメアにきつい視線を向けた。


「おいネメア! ゴーレム一体倒した程度で調子に乗るなよ! 俺達はお前達より、もっと沢山の強い魔物を倒してやるんだからな!」


 アレスはそう宣言すると、仲間を引き連れて冒険者ギルドから出ていった。これで一件落着だ。


 キャンサから聞いた話があまりにも衝撃的で、気が遠のいていたネメアだったが、アレスの声で正気に戻った。彼らは本気で、自分達に対抗心を抱いたようだ。せっかくリードできた一歩を越されないようにしなければと、ネメアは気を引き締めた。


 ネメアとクレタは受付けに向かい、クレタが交渉した例の青年にゴーレムの心臓を渡した。青年は、うやうやしく二人を褒め称えた。


「いやぁ、凄いですね! たった二人でゴーレムを討伐してきてしまうなんて! まさか本当に倒せるなんて思いませんでした。恐れ入ります」


 賛辞を並べた後、青年は揉み手しながらひそひそ声でクレタに尋ねた。


「それで、俺との交渉、覚えてくれていますよね?」


「もちろんよ」


 クレタがそう答えると、青年は心底嬉しそうな顔をした。


「あぁ良かった! それじゃあ、報酬をお渡ししますね」


 本当は、ゴーレムという強力な魔物を討伐した場合、金貨十枚と、銀貨三十枚は冒険者に支払われなければならないのだが、青年はその半分の金貨五枚と銀貨十五枚だけ袋に入れて、クレタに手渡した。


 ネメアは受付け係の青年の図々しさにイラッときて、思わず睨み付けそうになる。だが、クレタが約束してしまった事なので、仕方なく受け入れた。


…………

 

 報酬を受け取った二人は、冒険者ギルドを出て昼食を取り、商店街に赴いた。クレタが、次の特訓で向かう場所は、道具を揃えてから行かないと危ないので、買い出しに行こうと言い出したのだ。一体どんな場所に連れていかれてしまうのかと、ネメアは顔を青くしている。


「クレタさん、俺をどこに連れていくつもりなんですか?」


「火山よ。そこで精霊と戦ってもらうわ」


「精霊!?」


 ネメアは、クレタと初めて依頼を受けた時に戦った、巨木の精霊を思い出した。普通、精霊は滅多に会えないはずだが、なぜか彼女は精霊たちの居場所を知っているようだ。


「なんでクレタさんは、そんなに精霊のいる所を知っているんですか?」


「秘密よ、フフフ。時期に教えてあげるけど。そんな事より、聞いた方がいいことがあるんじゃない? 例えば、火山にいる精霊はどんな精霊なのか、とかね」


 話をはぐらかされてしまい、ネメアは腑に落ちず眉を潜めた。しかしクレタの言う通り、戦う相手の情報を集めておいた方がいいので、質問することにした。


「じゃあ、火山にいる精霊って、どんな精霊なんですか?」


「火山の山頂にある、火口湖の精霊よ。火山ガスを発生させる力を持っているわ」


「火山ガスって、有毒なガスですよね。それを吸わないように戦えばいいんでしょうか?」


「いいえ、たくさん吸ってもらうことになるわ。死なないように、回復魔法を使い続けてちょうだい」


「えっ!?」


 生命の危機を感じ、ドキリとしてネメアは飛び上がった。それからすぐに、クレタへ抗議した。


「それって、俺に死ねって言ってるんですか!? そんなの酷いですよ」


「さすがに、死ぬまで火山ガスを吸わせ続けたりしないわよ。火口湖の精霊だって、魔物と違って理性があるんだから、ネメアちゃんを殺さないわ」


「えー、本当ですか?」


「疑わないでちょうだい。これでも、私はネメアちゃんを大切に思ってるのよ」


 今度は違う意味でドキリとし、ネメアは渋々納得した。「大切に思ってる」と言われたら、悪い気はしない。


 その後二人は、登山用のブーツや、寒くなった時に羽織る服、行動食などを商店街で買った。精霊がいる火山には、明日行くことになった。


 次の日、ネメアとクレタは早朝から馬車に乗り、二時間かけて火山のある町へ移動した。


 火山の麓まで行くと、二人は靴を登山用のものに履き替え、獣の皮でできた防寒用の外套を羽織る。ネメアは、目の前にそびえ立つ火山を見上げた。


 火山は、青々とした木々が生い茂っており、内側で煮えたぎるマグマの熱さが鳴りを潜めている。登山道らしきものは見当たらず、ひたすらに厳しい斜面を登っていかなければ、頂上までたどり着けないようだ。


「クレタさん、この山、本当に登れるんですか?」


 山の険しさを前に、こんなところに踏み入るのかと冷や汗をかきながら、ネメアはクレタに尋ねた。


「登れないことはないわよ。足腰が鍛えられていいじゃない」


 返答すると、クレタはさっそく山の中に足を踏み入れ、軽快な足取りで道なき道を進み始めた。彼女がどんどん上へ行ってしまうのを、ネメアは呆気に取られて見ていたが、「付いてこないと迷子になるわよ」と声をかけられたため、自分も山の中に入っていった。


 木の根がボコボコと浮き上がっていたり、小石がゴロゴロと転がっていたりして、大変歩きにくい。下を見て慎重に進まなければ、それらにつまずいて転んでしまうだろう。ネメアは、大股歩きでしっかりと地面を踏み込み、ゆっくりと歩いた。


 いつもはネメアを置いて前へ行ってしまうクレタも、今回はペースを加減して歩いていた。


 普通に山登りするだけでもかなり体力を使うが、今回はさらに、山頂に到着したら精霊と戦ってもらうつもりでいるのだ。道中で無理をさせて、修行の前に倒れられたら元もこもない。


 歩く速度を一定に保ち、適度に休憩を挟みながら、二人は山を登り続けた。そして、日が暮れ落ち、夕食を食べてさらに一時間歩いた頃、ようやく山頂に着いた。


 空には満月が浮かび上がり、もう真夜中の時間帯になっている。ネメアは眠気を感じ、大きなあくびをした。そんな彼の背中を、クレタはバシッと叩く。


「こんなところで寝ちゃ駄目よネメアちゃん!」


「イタッ!! そんなに強く叩かなくても、起きてますって……」


 ネメアはヒリヒリと痛む背中をさすった。


 クレタは、暗くなり始めてから魔法で産み出していた光の球を大きくして、辺り一帯を照らし出した。すると、今二人がたっている位置から数メートル離れた位置に、回りをロープで囲われて立ち入りできなくなっている、火口湖が見えた。


「あそこに、火口湖の精霊がいるんですね」


 ネメアはごくりと唾を飲み込んだ。クレタは頷き、火口湖の方に向かって呼び掛けた。


「火口湖の精霊さん、出てきてくれないかしら? 修行に付き合ってほしいの!」


 彼女がそういうと、火口湖からゴポゴポと煮えたぎるような音が鳴り、噴水のように水が沸き上がって、その水が人の姿を取った。水色の揺蕩う長い髪に、慈愛のこもった桃色の瞳、そしてクレタに負けないほど豊満な胸を持った大人の女性が、ロープの外側に降り立った。


 火口湖の精霊は柔らかい笑みを浮かべながら、クレタに歩み寄った。


「あらあらクレタちゃん、久しぶり~。私に修行のお手伝いをしてほしいのねぇ。今日は何をするの? 熱湯に耐える特訓? それとも、火山ガスに耐える特訓? それか、火山を噴火させて、火砕流から逃げる特訓?」


「火山ガスに耐える特訓でお願い。それから、貴方の修行を受けるのは、私じゃなくてこの子よ」


 クレタは、隣に立っているネメアの腰に手を回し、前に押し出した。彼を見た火口湖の精霊は、「まぁ!」とすっとんきょうな声を上げ、口元に手を当てた。


「クレタちゃん、恋人ができたの!? 随分とイモ臭い男ねぇ」


 火口湖の精霊にクレタの恋人と間違えられたネメアは、ドキリとして顔を赤くした。だが、そのすぐ後にイモ臭いと罵倒され、顔を歪めた。


「俺はイモ臭くなんかないです!! それに、俺はクレタさんの恋人じゃなくて、弟子ですよ!!」


 ネメアが抗議すると、火口湖の精霊は自分の頭をコツンと叩いて、ちょこっと舌を出した。


「あらあらそうだったの。私、早とちりしちゃったわ。お弟子さん、名前はなんて言うの?」


「ネメアです」


「ネメアちゃんねぇ。それじゃあさっそく、特訓を始めましょう。私は火山ガスを発生させるから、それに耐えつつ、戦ってね。さあ、武器を用意して」


 優しい桃色をした火口湖の精霊の瞳が、全てを焼き尽くす赤色に変わった。ネメアは鋭い緊張感を抱き、ブルリと肩を震わせる。アイテムボックスを召喚し、彼は殴ったものを凍りつかせるグローブを取り出した。 


 巨木の精霊と戦った時は、切り口を発火させる短剣を使ったが、今回は火口湖の精霊なので、炎は水で消されてしまうだろうと思い、グローブにしたのだ。


 アイテムボックスを四つ葉のペンダントの中に封印し、ネメアはグローブをはめた。それから羽織っていた外套をクレタに預けた。戦いの準備が整った。クレタは光の球をその場に置いて、ネメア達から離れる。


 火口湖の精霊が短く呪文を唱えた。戦いの場に火山ガスが発生し、卵の腐ったような臭いが充満する。ネメアはゴホゴホと大きく咳き込んだが、すかさず頭の中で回復魔法の呪文を唱え、苦しさを和らげた。


 このまま呪文を唱え続けなければ、最悪の場合死んでしまうため、ネメアは呪文の詠唱に集中した。火口湖の精霊に攻撃しにいきたいが、それどころではない。


 しかし、火口湖の精霊はそんな彼の隙を狙って攻撃を仕掛けてきた。手の平を彼の方に向け、熱湯を発射する。攻撃されたことに気がついた彼は、熱湯を殴り付けて氷漬けにし、攻撃を防いだが、呪文の詠唱を途切れさせてしまった。


 鼻から火山ガスを吸ってしまい、ネメアはえずく。吐き気が込み上げて目に涙が浮かんだ。そんな彼のことなどお構い無く、火口湖の精霊は次々と熱湯を発射してくる。


 肺が苦しくて堪らないのを我慢しながら、ネメアは体をひねったり飛び上がったりして、何とか熱湯を避けた。しかし、毒に蝕まれた状態で全ての攻撃を避けることはできず、右頬に熱湯がかかってしまう。ジュワッと鈍い痛みが広がって、彼は呻き声を上げた。


 これでは、攻撃を仕掛けるどころか、避けることすらままならない。回復か攻撃、どちらか一方に集中するしかないだろう。ネメアは、火傷を負った頬を右手で覆いながら、回復魔法の呪文を頭の中で唱えた。


 火傷と息苦しさが和らいでくる。回復している間も、火口湖の精霊による熱湯攻撃は止まなかったが、火傷を負ってもすぐに回復できるため、問題なかった。


 肺の痛みが解消されると、冷静な判断ができるようになり、呪文の詠唱に集中しながら、多少は行動できるようになった。飛ばされる熱湯を、タイミングを見極めて殴り付け、氷漬けにする。それを繰り返しながら、一歩、また一歩と、火口湖の精霊と距離を詰めた。


 彼が近づいてきていることに気づいた火口湖の精霊は、感心したように笑みを浮かべた。


「へぇ。回復魔法を使いつつ、攻撃を防いで、なおかつ前進できるなんて、ネメアちゃんは器用なのねぇ。クレタちゃんは、先にいっぱい攻撃を仕掛けて、苦しくなったら回復するっていう、無茶苦茶な戦い方をしてたのに」


 いきなり自分の話を持ち出されたクレタは、離れた所から文句を飛ばした。


「ちょっと! 今私の話は関係ないでしょう? 恥ずかしいからやめてちょうだい!」


「フフフ、ごめんなさいねぇ。ちょっと、懐かしくなっちゃって」


 クレタの修行に付き合っていた頃の事を懐かしがり、無駄話をするほど、火口湖の精霊は余裕があるようだ。ネメアはそれが、自分に対して舐めた態度を取られているように感じて、ついカッときた。


 クレタとお喋りしている間に、火口湖の精霊に大きな隙ができたので、ネメアは彼女に向かって駆けていき、右腕に殴りかかった。しかし、彼女がひょいっと横に逸れたので、攻撃は当たらなかった。


「惜しい、あとちょっとだったわね」


 目を糸のように細め、低い声でそう言うと、火口湖の精霊はネメアのみぞおちに蹴りを入れた。魔法以外の攻撃を仕掛けられるとは思わなかったため、完全に油断していた彼は、魔法の詠唱が途切れ、その場にうずくまった。


 腹当を着けていたので、蹴りによる痛みは弱かったものの、火山ガスを吸ってしまい、思い切りむせ返った。慌てて回復魔法の呪文を唱えようとしたが、さらに背中に足を振り下ろされ、地面に伏してしまう。


 まともに息を吸えず、回復しそこなった彼は、視界に星が散って気絶しそうになった。それでもなんとか堪えて、頭の中で回復魔法の呪文を唱えつつ、火口湖の精霊の足を片手で掴んだ。


 掴んだ足に向かって、もう片方の手に拳をつくり、思い切りぶつける。今度の攻撃は避けられず、火口湖の精霊の右足は凍りついた。対処が遅れた彼女はたじろぐ。その間に、もう片方の足も殴り、動きを止めることに成功した。


 立ち上がり、熱湯を出す魔法の呪文を詠唱できないよう、彼は顔面に拳を振るった。火口湖の精霊の顔面が凍りつく。何も抵抗できない状態にすると、とどめに腹へ強く拳をいれた。


 大ダメージを食らった火口湖の精霊は、体がばしゃんと弾けてただの水となってしまい、その場に飛び散った。ネメアはその様子に絶句して後ずさる。まさか、殺してしまったのだろうか?


 しかし、そんな彼の心配は無用だったようで、飛び散った水滴はすぐさま集結し、また人の形をとった。それどころか、背が十歳の少女ほどまで縮んでいるものの、十体に分身していた。一体の分身が彼に向かって手を叩き、称賛を送る。


「おみごと! もうここまで私を追い詰めるなんて、見掛けによらず強いわねぇ。でもここから本番よ、ネメアちゃん」


 十体の分身はネメアを囲い込み、一斉に手の平を前に出した。四方八方から、大量の熱湯が彼を襲う。彼は回復魔法を使い続けることで、猛攻に耐えようとしたが、火傷を回復した先からまた熱湯を浴びせられるため、傷の修復が追い付かなくなった。


「うわぁぁっ!!」


 ネメアは堪らず悲鳴を上げる。身体中がジンジン痛んで、膝を着いてしまった。集団リンチに遭い、もはや反撃することは不可能だ。


 彼が押されている様子に、見かねたクレタは回復魔法を使いつつ、戦いの場に駆け込んで火口湖の精霊を咎めた。


「それはやり過ぎよ、火口湖の精霊さん!! 一人で十人の相手なんて、ネメアちゃんにはまだ無理だわ!!」


 意見を聞き、一体の分身が攻撃を止めて、彼女の方を振り向いた。


「クレタちゃんは、ネメアちゃんの回復魔法の腕を上げたいんでしょう? それなら、これぐらいやらなきゃ駄目だわ」


「そんな!」


 クレタは顔を真っ青にする。火口湖の精霊が、ここまで厳しくネメアに稽古をつけるとは思っていなかった。早く止めなければ、彼が重度の身体障がいを負ってしまうかもしれない。


 呪文を唱え始め、彼女は十体の精霊の足元に木の根を召喚し、体を拘束しようとした。だが、呪文を唱え終わらない内に、九体の精霊が火山ガスを発生させる魔法を発動させた。木の根を召喚する呪文を詠唱する際、回復魔法を途切れさせていたクレタは、思い切りガスを吸ってしまい、口から血を吐いて気絶した。


「クレタさん!!」


 追放された自分を拾い、育ててくれている大切な師匠を傷つけられ、ネメアは悲痛な叫び声を上げた。早く、彼女に近づいて、回復魔法をかけなければ!


 立ち上がり、クレタの元へ駆け寄ろうとする。しかし、濃度の濃くなった火山ガスで頭がクラクラして、歩きだそうとした瞬間、ネメアはうつ伏せにバタンと倒れた。もう、体が悲鳴を上げて動かせない。


 それでもなんとか彼女を助けようと、手を伸ばす。そんな時、ネメアは手の平から熱い力が放たれるのを感じた。


 3メートル先のクレタが、ピクリと肩を動かす。意識を取り戻した彼女は、盛大に咳をしながらも、頭の中で回復魔法を唱え、立ち上がった。


 視界が暗くなったかと思いきや、すぐさま目が覚めたことに困惑し、彼女は首を傾げる。だが、それが地面に伏しているネメアのおかげだと気がついて、歓喜の声を上げた。


「ネメアちゃん、遠距離から回復魔法を打てるようになったわ!!」


 肩で息をしているネメアは、それを聞いてハッと顔を上げた。火口湖の精霊十体は、指をパチンとならして、火山ガスの発生を止める。


「よくやったわねぇ、ネメアちゃん。おめでとう」


 火口湖の精霊はそういうと、十体の分身が一ヶ所に集まって合体し、元の大きさに戻った。そして、倒れているネメアの脇に腕を通して立ち上がらせると、ギュッと抱き締めた。できたてのスープのような温かさが、彼を包み込む。回復魔法をかけてくれているようだ。


 彼は、自分を抱いている彼女の大きな胸が、ぐいぐいと押し当てられていることに顔を赤くした。戦いで溜まった疲労が溶けていくようだ。しかし、顔を少しに横に向けると、クレタと目が合って気まずくなった。なんだか、浮気をしている気分だ。


 名残惜しいが、このままの状態をクレタさんに見せ続ける訳にはいかない。そう思い、呼吸が整うぐらいまで回復すると、ネメアは火口湖の精霊の体を押しやって、腕の中から脱した。


「火口湖の精霊さん、ありがとうございました。もう大丈夫です」


「あら~、ほんとに? 遠慮しなくてもいいのよぉ」


「本当に大丈夫です!」


 額に汗をかきながら、ネメアは言い張った。その様子に彼の心中を察して、精霊はクスリと笑う。


「健気ね、ネメアちゃん。本当は、クレタちゃんとただの師弟関係じゃないんじゃないのかしら」


「そうだったら嬉しいんですが」


 ネメアは苦笑した。可愛がられているとはいえ、クレタから恋愛感情を向けられているのかは分からない。からかわれているだけかもしれない。自信を持って、ただの師弟関係ではないと、断言できなかった。


 煮え切らない返答をした彼に対し、精霊は「ふーん」と興味深そうに相槌を打った。だが、それ以上は追及せず、今度はクレタへ話しかけに行った。


「クレタちゃんの要望通り、ネメアちゃんの回復魔法を鍛えてあげたけど、これで満足かしら?」


「えぇ、大満足よ! ありがとう、火口湖の精霊さん」


「良かったわぁ。それじゃあ私は、また眠りにつくわ。ご用があれば、また呼んでちょうだいねぇ」


 優しい笑みを浮かべ、火口湖の精霊は火口湖の方に吸い込まれていき、姿を消した。クレタは再度感謝を伝えると、ネメアの元に向かった。


「ネメアちゃん、遠距離からの回復魔法を使えるようになって、おめでとう。それから、私を助けてくれてありがとう」


 彼女はネメアの右手を両手で握りしめた。そしてやんわりと目を閉じると、頬にキスをした。唇の柔らかい感触を覚えた彼は、飛び上がって仰天する。


「ふぇっ!? えぇぇぇぇぇ!?」


「フフッ、これはお礼よ」


 目元をほんのりと薔薇色に染めながら、彼女は微笑んだ。彼は頭が真っ白になって、しばらく口をパクパクさせていたが、意識を取り戻すと深く頭を下げた。


「こ、こちらこそ、ありがとうございます!!!」


 クレタさんが俺を構うのはからかっているだけ、というネメアの疑念は吹き飛んだ。これはもう、脈ありと言っても良いのではないだろうか?


 しかし、柔らかい表情を浮かべていたクレタは、次の瞬間には普通の顔に戻っていた。先ほどまで、乙女の顔をしていたのに。


 そもそも頬へのキスは、家族間や友人同士なら、挨拶として行う人もいる。クレタさんはやけに積極的だから、そもそものパーソナルスペースが狭いのかもしれない。やはり彼女の気持ちが分からないなぁと、ネメアは首を傾げた。


 気を取り直して、ネメアはステータスを確認することにした。


「クレタさん、俺、ステータスを確認してみます」


「分かったわ」


 ネメアがズボンのポケットからステータスカードを出すと、クレタは横から顔を出して一緒に確認した。


『ネメア・レオ』

攻撃力 70/100

防御力 72/100

素早さ 75/100

武器を扱う技術 70/100

魔力 68/100

身体能力 66/100


 それぞれの能力値を上から順に目で追っていったネメアは、がっくりと肩を落とした。


「うーん、今回はあんまり成長してませんね……火口湖の精霊さんとの戦い、滅茶苦茶キツかったから、もう少しステータスが上がってると思ったんですが」


 落ち込む彼に、クレタは励ましの言葉を送った。


「成長してないなんて事はないわ。回復魔法を遠距離から使えるようになるなんて、大きな進歩じゃない。これだけでも戦略の幅が広がるもの。それに、私だって遠距離からの回復魔法は使えないわ」


「えっ?」


 彼女の告白に、彼はポカンと口を開けた。魔力のステータスが100もある彼女なら、当然のように使えるだろうと思っていたのだ。そして、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。


「俺、ステータスではまだまだクレタさんに遠く及びませんけど、回復魔法の腕前なら、俺の方が上になりましたね」


「そうね。ステータスカードの数値だけじゃ、量れないこともあるわ。これからは、ステータス以外の側面も伸ばしていきましょう。


 手始めに、立ったまま眠る練習をしましょうか。薬草採取に行った時以降、一度も練習してなかったし」


 クレタがそう提案すると、ネメアは顔をひきつらせた。


「げっ、その練習のこと、忘れてなかったんですね。立ち寝って、背中がそわそわして寝付きにくいんですよね」


「だったら、私に寄りかかる?」


 上目遣いで色っぽく誘われ、ネメアはドキリと胸を跳ねさせた。だが、すぐに興奮は冷めた。


「どうせ、俺のことをからかっているだけなんでしょう? もう引っ掛かりませんよ」


「あら、バレちゃったわ。つまんないの。でも、背中合わせで寝れば、崩れ落ちなくて良いと思ったんだけど」


 それを聞いて、冷まされたネメアの興奮は、再び燃え上がった。


「つ、つまり、クレタさんに密着して良いってことですか?」


「そうよ」


「じゃあ、その、背中合わせで立ち寝したいです」


 頬を赤らめながら、遠慮がちにネメアは頼んだ。クレタはまんまと自分の話に乗ってきた彼が面白くて、ププッと心の中でほくそ笑んだ。


 それから二人は背中合わせで立ち寝をし、毛布代わりに外套にくるまって一夜を越した。ネメアは、背中から伝わってくるクレタの優しい体温と、火口湖の精霊と戦ったことによる疲労で、案外ぐっすりと眠ることができた。


 朝になると、朝食を取ってから下山し、冒険者ギルドのある町まで戻った。クレタは、次の修行の内容は特に思い付いていないため、ギルドで受けられる依頼を確認してから考えると言った。


 ギルドに着くと、見覚えのある青年が受付けに立っていた。ゴーレム討伐の時、クレタが交渉した卑しい係員だ。彼は二人を見るなり、「あっ!」と声を上げた。


「貴方達は、Aランクパーティーじゃないのにゴーレムを倒した、強いお二方じゃないですか! ちょっとこちらへ来てくださいよ。お勧めしたい依頼があるんです」


 卑しい係員は手招きをした。ネメアは彼を睨み付けて、「絶対ろくでもない話ですよ、やめましょうクレタさん」と言った。しかしクレタは、「いいじゃない、話だけでも聞いてあげましょ」と興味深そうに目を細めた。


 ネメアは、クレタさんに振り回されてばっかりだなぁと溜め息を吐きつつ、一度その気になった彼女を止めることはできないので、諦めて受付けまで足を運んだ。


 二人が受付けカウンターまでくると、係員は糸のように目を細めて、彼らにしか聞こえないような小さな声で話を始めた。


「お二方は、ファイヤースネークという魔物を知っていますか? 名前の通り、火を吹く蛇なんですけど、倒せたと思ったら脱皮して生き返ってしまう、厄介なやつなんです。


 それで、通常はAランクパーティーの方にしか、依頼を提供していないんですよ。でもお二方なら、討伐できると思うんです。どうですか、受けてみませんか? 報酬は良いんですよ」


 話を聞いて、クレタはフムフムと頷いた。しかしネメアは青ざめて、首を激しく横に振った。


「ムリムリムリムリ!! 無理ですよ!! ファイヤースネークなんて、俺じゃ絶対に敵わないです!! さ、この話はお断りしましょうクレタさん」


「あら、どうして?」


 全力で依頼を拒否しているネメアに、クレタはそのわけを尋ねた。


「俺、前にアレスさん達とファイヤースネークの討伐に行ったことがあるんです。他のAランクパーティー向けの魔物に比べて体が小さいから、手始めにそいつを倒そうってことになって。


 そしたら、こてんぱんにされたんですよ! みんな大火傷を負って、俺が回復魔法をかけても、しばらく歩けませんでした」


「へー、それは大変だったわね。じゃあリベンジマッチといきましょう。係員さん、私たち、ファイヤースネークの討伐依頼を受けます」


「ちょっと! 話聞いてました!?」


 必死の形相で依頼を受けたくない理由を説明したネメアを無視して、クレタは話を進めてしまった。係員は、よりいっそう笑みを深める。


「良かった! それで、ここからが本題なんですけど、ファイヤースネークが脱皮した後の皮を、一枚でもいいので俺にいただけないでしょうか」


 係員の要求に、クレタは首を傾げた。


「脱皮した後の皮? それは何に使うんですか? ギルドに提出するのは、ファイヤースネークの牙ですよね」


「あぁ、よく知ってますね。もちろん、それも提出してほしいんですけど、皮は秘薬の材料になるんですよ」


「つまり、薬屋に売るって事ですね」


「…………まあ、そんな所ですかね」


 クレタが係員の目的を代弁すると、彼から一瞬笑みが消えた。それからお茶を濁すように頷いた。その態度を怪しく思ったネメアは、まだ何か隠しているのではないかと疑った。だが、問い詰めても係員は答えないだろうと予測して、問いかけの言葉を呑んだ。


 ファイヤースネークの討伐依頼を受ける事が決定し、二人は受付けから立ち去ろうとした。その時、係員が声をかけてきた。


「あ、待ってくださいお二方! 俺の名前を名乗っていませんでした。俺は、ヘス・クレピスです。次にギルドに来た時、名前を呼んでいただけたら、すぐに出てくるんで」


 ヘスはペコリと頭を下げた。クレタは彼に向かって微笑み、「分かったわ」と答え、ネメアは何も言わずにぎろりと睨んだ。

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