第6話 生臭いあじ
しかし何も起きない。
もしかして、消滅魔法の魔法陣だったか…?
「おや、これは…。」
ババアが手に持っていたのは銀色の小さな玉だった。
私が立ち上がってメモを見てみると銀色の玉と書かれてあった。
使える魔法陣を描いといてと言っておいたのに!
「あ、えー。私のお母さん、パチンコがすきでね。それで、パチンコの玉を複製して陰でかさ増ししてたのよ!」
勿論、犯罪行為である。昔は出来ていたが今はパチンコの近くで魔法を使うとエラー音が鳴る。
そのうえ、こういう詐欺系の魔法って結構難易度高いのよね…無駄に。
いや、難易度が高いからといって使えないんだけど…。
「いや、それは犯罪だろう…。」
正論だった。
「とにかく!パチンコの玉がお母さんの形見なの!」
自分の中でも無理やりすぎるだろ!と思った。
ババアは次のページをめくった。
メモをみると、肩こりをなおすと書かれていた。
とても使える魔法だけど今じゃない!
「相当、打ち込んでおるな…。」
なんか、ババアの中で私の母親すごいパチンカスになってるって。
そしてババアはメモと銀色の玉を端に投げ捨て、檻の方に向かった。
あれ?なんだろう?
ギラギラと光る何かが投げられている。
私ユメは柵のふちを見た。
あれは!パチンコの玉!
そういえば、魔法陣を適当に描いていったからそんな魔法陣も描いてたかも…。
さっきおばあさんが胸を触っていたのは、恐らくツインテが胸ポケットの存在を明かしてメモ帳を出させるためか。
でも、待てよ?私は昔家にパチンコの実機があったのでそれで遊んでいたことがある。
パチンコ玉がヘソに入らずイラついていたところ、私は玉を遠隔操作の魔法で全てヘソの中にいれる遊びを子供ながらにしていた。
最初はエラー音が鳴り響いていたが、それでも私はあきらめなかった。
パチンコの基盤を改造し、エラー音がならないようにした。
最初は遠隔操作をしていたが、球が同じ挙動をするような魔法をパチンコの基盤に付け加えた。
そうしてわたしは、絶対にヘソに入る、とてつもなくつまらないパチンコ機を完成させた。
パチンコ玉なら狙い通りに軌道を描けるかもしれない。
その能力、ここでも使えるかな…?
私は気づかれないように少しずつ端にあるパチンコ玉を動かした。
やはり、小さな氷よりは思ったように動かせる。
気づかなかったが、おばあさんが今にも檻に手をかけようとしていたところだ。
まずい!
私はとっさにそのパチンコ玉をおばあさんの目に直撃させた。
「ふごぉ!」
おばあさんの声が鳴り響く。
見てみると、目を直撃し、後頭部までも貫通していた。
これって、脳にも損傷を与えてるよね…?まずい!やりすぎたかも!
パチンコ玉は血の色をしていた。
すきを見て私はツインテの方へと走っていく。
「あんた!この柵の扉を閉められたらどうすんのよ!」
住民達はパニックになり、柵を閉めようとしていた。
「えぇい!熊が好きなら熊と共存しやがれ!」
私は魔法で柵に火をつけた。
柵は乾燥していたのか、小さい火でもすぐ燃えた。
そして、檻から熊を出した。
「あんた何してんのよ!!!!!」
ツインテからおしかりをうけた。
「あそこ、入口の方、みて。」
私は指さした。
そこには死にかけたおばあさんがいた。
パチンコ玉を服の中までもっていき一気に加速させ、入口近くまで移動させていたのだ。
床には元居た位置から引きづられた血の跡があった。
「いつのまに!」
「こちらには、パチンコ玉がある!」
そういって私は、パチンコ玉をツインテの服につっかえさせ、入口とは逆方向の柵の外へと出した。
「あんたはどうすんのよぉ!」
と少しずつ声が遠のきながら聞こえてきた。
今この火の柵の中にいるのは私と熊とばあさん。
そして扉は閉められている。
ぶっちゃけた話、この村について何一つ分からない。だから私自身、この村がどうなろうが知ったこっちゃない。
熊を崇拝だがなんだかしらないけど、これはただの熊。
ただの熊は、雑食性でなんでも食える。人の死体も食う。私も恐らく食べられる。
「食うなら食らいやがれええええええええ!」
私は大の字になった。
「クゥン…。」
熊は私に背を向け、おばあさんを食べに行った。
何?若い肉より年の肉のがいいの?
まぁ、私を食べていた場合、お前は死んでいた。
なぜなら、私はリンク魔法を熊と自身にかけた。リンク魔法とはお互いに得たものを共有する魔法。
つまり、私が死ねば熊も死ぬということ!
ん?なんか口の中が生臭い…。
熊はおばあさんをいま食べている。
これが、70代の女の味か…。
私はリンク魔法を解除した。
そして、ツインテについていたパチンコ玉をこちらに引き寄せ、同じ要領で柵の外に出た。
熊、命拾いしたな。そう思いながら。
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