第21話 新しい出会い

 澄んだ青い空が広がる。草原を撫でる風が、サラサラと心地いい音を奏でる。僕は歩きながら、昨日の出来事を思い出していた。


 ――地形が変わっている。


 あったはずの場所に川がない。次の目的地のレナートの塔に向かうつもりが、川に阻まれ海岸に出て……

 そこで、本来なら現れないはずのテネブリスと遭遇してしまった。


 ゲームでは、テネブリスは三番目のボス。オスティナート海岸の洞窟の最奥に潜む、クラーケンのような形をしたボスだ。


 二番目のボスであるクロウを倒す前に遭遇したので、レベル差が大きかった。アルバのように会話を試みたけど、言葉が通じないのか全く意味がなかった。


 洞窟内の水位を変える特殊なギミックを使って疲弊させ、細い通路に触手を絡ませて閉じ込めた。祠も壊せたし、一石二鳥ではあったけど……。


(今後、何が起こるかわからない。)


 その不安が、胸の奥をざわつかせる。テネブリスも閉じ込めただけで、いつまた出てくるかわからない。


(そして……)


 一緒に歩くルシエルとマティーナを見る。


 攻撃魔法や回復魔法は戦闘以外でも使えばレベルが上がるのに、僕だけはずっとレベル1のまま。


 確かに、一番安い回復薬で全回復するのはありがたいけど……。敵の火力が上がってきた今、一撃でやられかねない。


「優陽、難しい顔してどうしたの?」


 ルシエルが明るい声で話しかけてきた。


「あぁ、次のことを考えていた。」


「また予知ですか?」


 マティーナが興味深そうに首を傾げる。


「海岸の洞窟内も、まるで何度も訪れたことがあるかのように地形把握していましたよね。びっくりしましたよ。」


「敵の攻撃も予知していたし。勇者の能力、本当に頼りになるよ。」


 ……能力じゃない。小さい頃、何度もやったゲームだからわかるだけ。でも、この先はどうなるかわからない。


 村のチュートリアルバトルで、魔物を倒さずに追い払ったことを思い出す。あの小さな選択が、今に至る変化を生んでいるのかもしれない。ということは、この先も……


 そんな時、前方に少女の姿が見えた。赤いスカーフ、輝くような金髪を高い位置で二つに結んでいる。見覚えのあるシルエット……


 職業モンクの女の子、ダスク。


 高火力の物理アタッカー。本来なら、もっとゲームが進んでから仲間になるはずだ。


 確か、説明書には人間と魔族のハーフって書いてあったが、父親のことは伏せられていた。昔のゲームってそういう所が説明不足だ。


 ピピピ……

 手をかざして、光る四角い板を呼び出す。


 ダスク

 レベル45

 HP152/152

 攻撃83、防御72、魔力12、素早さ65


 高い。明らかに高すぎる。ルシエルはレベル32、マティーナもレベル26なのに。


 (いや、これはチャンスだ。)


 ここで仲間に加えられたら、戦力は大きく強化される。僕は急いで駆け寄るが、突然ダスクが振り向き、警戒されてしまう。


「……誰だ!?」


 そりゃそうだ。加入イベントでもないのにいきなり話しかけたら、ただの不審者だ。


「え、えっと……ダスク……」


「は!? なんであたいの名前を知ってんの……!?」


 目をまん丸にして驚く彼女。


(しまった、対応間違えた……)


「不審者……!!」


 拳を構えられる。放たれる熱気が、真夏の太陽の何十倍も熱く感じる。僕の背筋が凍った。


(待って、それは死ぬ……!!)


 レベル1の僕に、その一撃は致命的だ。


「待って!」


 僕が言い淀んだ瞬間、ルシエルが一歩前に出た。まるで、僕の心境を察してくれていたかのように。ダスクは既のところで拳を止める。


「いきなり驚かせてごめん。実は……」


 ルシエルが機転を利かせて僕が勇者であること、予知の力で名前を知っていたことを説明してくれた。たぶん僕一人だったら、殴られて終わっていた。


(た、助かった……)


 この世界に来ても、コミュ障はどうにもならなかった。

 マティーナが近づくと顔がゆでダコのようになってしまうし、知らない人と話す時はどう話しかけていいかわからなくなってしまう。


 その度に、ルシエルが助けてくれた。マティーナも楽しそうに隅っこでニコニコしてくれていたのが救いだった。

 

 やがて、ダスクが頭を下げてくる。背筋をピンとして、拳は震えていた。


「あわわ。ま、まさか勇者様だとは知りませんで、失礼をば、してしまいまして、申し訳ござる……ませんでした!!!」


「いや、普通に話してくれたら大丈夫だよ。」


 なんだか言葉がおかしいし、それに僕、そんなすごい人じゃないし。


「むぅ、普通で……こほん。仲間にということだけど、あたいこそ光栄だよ、勇者様。」


「いや、様付けはしなくても大丈夫だから。優陽でいいよ。」


「んむむぅ~……わかった、優陽!」


(どうしよう。可愛い。)


 マティーナもすごく可愛いし。でも僕、女性耐性ないんだけど!?


 本当に助けて欲しい。唯一男性であるルシエルが救いだった。彼も凄く顔が綺麗で緊張するけど。僕だけ作画違わない?


 後ろでクスクスとルシエルが笑っている。


 すると、ダスクが急に改まって頭を下げる。


「優陽! 頼みがあるんだ。」


 拳が小さく震えている。空気がピリッと凍りつく。


「この先にあるラルゴ村。あたいの故郷が魔物に襲われている。村の人も……」


「その魔物って……?」


 血の気が引いていく。


「体が大きくて人型で、拳で家を破壊してたって……」


(間違いない。ドゥンケルだ。)


 実際のゲームではドゥンケルが村を襲うイベントなんてなかった。彼はフォルテ断崖で祠を護るボスの一人だ。ゲームではもっと後半に登場するキャラのはずなのに。


 ……レベルが足りない。


 それだけじゃない。どうしてドゥンケルがラルゴ村にいるのか。


(……僕が、来たから。)


 チュートリアルで魔物を倒さず進めた。アルバもテネブリスも倒していない。その選択が世界に影響を与えている。


 拳を握る。爪が手のひらに食い込んだ。


(この先どうなるか、もうわからない。)


「にゃおん。」


 あの声が、ふと脳裏をよぎった。

 ステラに会いたい。その為にも、僕は……


 ――このゲームをクリアする。そして元の世界に戻るんだ。


 ラルゴ村を目指して、僕は一歩を踏み出した。


『ダスクが仲間に加わった。』

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