未来の宇宙軍士官、現代日本でダンジョン制圧!―超科学はスキルや魔法を凌駕する—

古芭白 あきら

第一章 未来からきた宇宙軍士官

第1話 宇宙軍士官はダンジョンに挑む


「これが迷宮門ダンジョンゲート……か」


 俺は目の前にそびえ立つ巨大な門を見上げた。


 これから俺たちはここの中へと入る。この門が名前の由来通り迷宮ダンジョンへと入るための扉だから……なんだけど。


「迷宮って、ホントにただの箱なんだね」


 茶髪をショートカットにした小柄な少女――ユイが俺の横でポツリと呟いた。


 そうなのだ。


 迷宮門が取り付けられているのは、無機質な金属で組まれた黒光りする正六面体の箱。一辺十メートル以上はあり、確かにバカでかい。


 それでも、内部に迷宮が広がっていると思えるほど大きくはないんだよなぁ。


「まあ、入ってみればわかるか」


 平然として態度を装っているが、これでも俺はけっこうソワソワしている。なんせ、これから俺は初めてのダンジョン攻略に挑むのだから。


 未知の領域へ踏み込む時というのは、いつだって得体の知れない恐怖感に襲われる。だけど、同時に抑えきれない高揚感も高まるものだ。


 だって、仕方ないじゃないか。この中には数々のモンスターがいて、魔法やスキルで戦う冒険者たちがいる。こんなの昔夢中になったフルダイブ型VRMMOじゃないか。


 まるでゲームの中の世界に入り込むようで、ワクワクが止まらない。


「それもそうだね」


 だが、ユイは事も無げに返事した。頭の後ろで手を組むユイは自然体で、俺と違って気負った様子もない。


 まあ、ユイは人間ではないからな。


 彼女は戦艦アリアドネの航行支援用次世代型AIエージェント『アリアドネ』。


 遺伝子組み換えで作られた生体ユニット、通称『AIドール《アイドル》』に搭載された艦載コンピュータの一種だ。


 外見はとんでもない美少女なんだけどな。


「なんだかボクたち、見られてない?」


 実際、周囲の冒険者おとこたちがユイをチラチラ見ている。ユイの正体を知ったら、彼らはどんな顔をするかな。


「ユイが可愛いからだろ?」

「えへへ、やっぱそう? ボクってすっごい美少女だよね」


 もっとも、こんな反応を示す少女がAIだなんて、の人間には信じられないだろうけど。


 だが、ユイは戦闘用に改修チューニングされており、これから危険なダンジョンに乗り込む俺にとって頼もしい相棒だ。


 俺は視線を門の奥へ戻した。そこは見通せない闇が広がっていた。


 この闇の奥に莫大な資源が眠っている。それは人類を狂気させる富の山。資源が枯渇しつつある地球にとってダンジョンは希望なのだ。


 ――少なくとも今は……


 しかし、これは本当に救いなのか?


 俺はを知っている。このまま、人類がダンジョンに依存してしまった時、未来がどのように変わるのか……


 果たして、ダンジョンは人類の光なのか。

 それとも、人類を蝕む奴らのわななのか。


 ――まだ、その答えを知る者はいない。

 

 だからこそ、俺はダンジョンへと挑まなければならない。


「これから第三階層にいるターゲットの討伐に向かうわけだが……」

「わかってるって、その前に第一階層の小物サンプルでデータ収集するんでしょ」


 ユイにはいまいち緊張感がない。この先には無数のモンスターが待ち受けているというのに。


 事前情報では、そいつらに通常兵器がほぼ無効だったらしい。過去、ダンジョンに突入した各国の軍隊は軒並み全滅しているのだ。そんな化け物とこれから戦わなければならない。


「ユイ、気を抜くなよ」

「ふふっ、任せておいてよ。アルトの背中はボクが守るからさ」


 冒険者は皆、スキルや魔法を武器にモンスターと対峙しているらしい。そんな能力を持たない俺たちは、自前の武器が頼みの綱なのだ。


 果たして、の兵器が通用するだろうか……そんな不安を完全には拭い切れない。


 それでも、この先へ進まなければならない。そうしなければ、仲間を救い、元の時代みらいに帰れないのだから。


 そんな決意を胸に俺は迷宮門ダンジョンゲート中へと踏み出した。


 

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