3-4


「……うーんー……?」


 銀磁たちが出発したマンションから十五分ほどの場所にある商店街。

 その中にある一つのお店の前で、アニマはショウケースの中にある食品サンプルとにらめっこして何度も首をかしげていた。

 選んでいるのは大判焼き。あんことカスタードクリームらしい。他にもちらちらと甘い味のものに目移りしているようだった。


「……ギンジ、決められない」


 どことなくしょんぼりした様子で、アニマが困った顔を向けてくる。それに苦笑しながら、銀磁は店主に言った。


「あんことカスタード、一つずつください。半分ずつ分けような、アニマ」


「いいの?」


「いいんだよ。せっかく二人で来てるんだから、こういうズルは積極的にしていかないとな」


 お金を払って、大判焼きを受け取る。店の前にある長椅子に座って、まずはカスタードから半分ずつわけて食べることにした。


「ほら、アニマ」


「ありがとう、ギンジ。……大丈夫?」


 大判焼きを受け取ったアニマは、ふと心配そうに声をかけてきた。

 おそらく、商店街に到着するまでの襲撃のことを言っているのだろう。


「悪いな、気付いちゃったか」


「うん……ギンジ、変な動きしてたから……クラゲっぽかった」


「それはかっこ悪い。せめて妙なステップを踏んでたくらいで居てほしかったぜ」


 少し照れながら、銀磁は帽子を押さえて苦笑する。流石にクラゲのようだと言われては自分の行動を振り返って反省したくなる。


「けど、とりあえずは安全だ。アニマはなにも心配しなくていい」


「……本当?」


「もちろん。アニムスも頑張ってくれてるしな」


 言いながら、銀磁は大判焼きを一口かじった。甘さが口の中に広がって、ここに来るまでに溜まった疲労を癒してくれる。

 そんな銀磁を見て、アニマもとりあえずは銀磁の言葉を信じてくれたのか、無表情ながらも美味しそうに大判焼きを食べ始めた。


 そんなアニマを横目に、銀磁は周囲を警戒することを忘れない。

 商店街に来るまでに襲撃回数は二十を越えた。全て対処して無力化の上、脱出が難しい場所にアニムスの【開錠】を使って放り込んである。

 その甲斐あってか、商店街に入ってからは襲撃は無い。人通りがそれなりにあるせいもあるだろうが――しかし。


「少ない、よな」


 カスタードの大判焼きを食べ終えた銀磁は、ぽつりとつぶやく。

 襲撃しないにしろ監視くらいはあるだろうと思っていたのだが、銀磁が周囲に視線を走らせても監視しているような雰囲気の人間は居ない。

 アニムスからも、特にこれと言って自分たちを狙っている人間の情報は入ってこない。

 まさか、ここに来るまでの襲撃者で全員ということはないはずなのだが。

 そんなことを思いながら二つ目の、あんこの大判焼きをアニマと半分こにしていると、不意にアニムスからの通信が入った。


『ご主人様、緊急事態でありますです』


「どうした、アニムス」


『襲撃者と思しき死体が見つかったでありますです。しかも一つや二つではないのでありますです。おそらく、ワタシたちに集まってきている襲撃者を先に殺している人間が居るのでありますです』


「……オレたちより先に、他の邪魔者を片付ける方に動く奴が出て来たか」


 おそらく、銀磁たちが襲撃者を返り討ちにしているのを見て、それならば他の襲撃者を始末してからじっくりと隙を狙った方がいいと考えた者が居たのだろうと、銀磁は推測した。


『はい。ただ……あまりにも手口が鮮やかすぎるでありますです。無防備なところをいきなり銃で撃たれたような……そんな感じなのでありますです。もしやこれは――』


「能力持ち?」


『……の、可能性が高いでありますですね。念のため、人が多い場所に移動してくださいでありますです。こちらは死体を調べてから追いますが、ドローンは追従させておくので護衛は問題ないでありますです』


「わかった。じゃあ、予定通り商店街を一通り見て回ったらショッピングセンターの方に移動する」


 銀磁が言うと、通信が切れる。

 それから、銀磁はあんこ入りの大判焼きをアニマのペースに合わせて食べて、それからアニマとお店を見て回りつつ、商店街から出た。

 商店街の中では、やはり、一度も襲撃は行われず……それが逆に、不気味だった。


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