第8話 三和争乱
鷹山トシキは、ゴカキックとベムラーの男が消えた三和の農道に、ただ立ち尽くしていた。
「トリガーの種(シード)……招待状……」
ベムラーの男が残した言葉が、鷹山の頭の中で反響する。彼らが、意図的にこの地域の**「社会的な不満や屈辱」をトリガーとして、怪物を生み出し、それをさらに高次元の場所へ「招待」**しているのだとしたら――。
鷹山は、地面に残されたゴカキックの甲殻の破片を拾い上げた。熱を帯びた、禍々しい黒曜石。これを分析すれば、組織の手がかりが得られるかもしれない。
その時、鷹山の視界の端に、三和の農協倉庫群の陰から、新たな影が滑り出てきた。
二四
今度の異形は、全身を異様に派手な赤と黒のアーマーで固め、頭部には複数の角と鋭い牙を持つ、『光戦隊マスクマン』の敵キャラ、バラバに酷似したマスクを被っていた。その右手には、ベムラーの男が持っていたケースとは違う、より実戦的なデザインの武装ケースが握られている。
「また、コスプレか……!」
鷹山は瞬時に警戒態勢に入った。ベムラーが**「案内人」なら、このバラバのマスクマンは「実行部隊」**の一員だろう。
バラバのマスクマンは、鷹山を視界に入れると、その仮面の下から、ザラついた、嘲笑うような声を上げた。
「フフ……裏の観測者。ベムラーが残した痕跡を漁っているようだな」
鷹山は、地面の破片を素早くポケットに収め、ナナハンを盾にした。
「お前たちの目的は何だ? ゴカキックとクリハシ・クラッシャーを生み出したのは、お前たちの組織か?」
「愚問だな」バラバのマスクマンは、歩みを止めなかった。「我々は、この社会が抱える**『歪み』を効率的に回収し、より高次の『システム』へと昇華させるための『掃除人』**に過ぎない」
そして、バラバのマスクマンは、その手に持った武装ケースを地面に置くと、一瞬でケースを展開させた。中には、**三つ又の鋭利な槍(トライデント)**が収められていた。
「ベムラーが『招待状』を持って行った以上、残された**『観測者』は、『邪魔な塵』**だ」
彼は、そのトライデントを構え、鷹山に向かって一直線に突進してきた。そのスピードは、人間の限界を遥かに超えていた。
二十五
「ちっ!」
鷹山はトライデントを紙一重で避け、即座にナナハンから跳び退いた。トライデントの切っ先が、彼のバイクの燃料タンクを深く抉る。
ドォン!
ガソリンが漏れ、バイクは爆発炎上した。鷹山は、その爆炎を盾に、懐から特殊なスタンガンのような装置を取り出した。
「掃除人だと? お前たちのやっていることは、ただの誘拐と人体実験だ!」
「人間風情が、高次の進化を理解できると思うな!」
バラバのマスクマンは、爆炎の中を突き進み、トライデントを再び繰り出した。
鷹山は、その攻撃を低い姿勢でかわし、バラバのマスクマンの腹部に、スタンガンを打ち込んだ。
ジジジジィィィィッ!
高圧電流が、バラバのアーマーを貫き、その肉体に流れ込む。
「グゥッ!」
バラバのマスクマンは一瞬怯んだが、すぐに体内の電流を外部に放出し、鷹山を吹き飛ばした。彼のマスクの下からは、憤怒の感情が透けて見えた。
「この程度で、我々を止められると思うな!」
二十六
バラバのマスクマンがとどめを刺そうとトライデントを振り上げた、その瞬間。
北の総和工場街から、ウルトラマソの巨大な足音が、地響きとなって迫ってきた。ゴカキックの消失により、ウルトラマソは新たな「歪み」の発生源――つまり、組織の一員であるバラバのマスクマンを標的として、三和地区へと移動を開始したのだ。
「フン……調停者が来たか」
バラバのマスクマンは、トライデントを素早く収め、燃え盛る鷹山のバイクを一瞥した。
「観測者よ。お前の役目は終わった。我々の**『システム』は、間もなく第二段階**に入る」
彼はそう言い残すと、驚くべきことに、その場で自らの体を青い粒子へと変え、霧散した。まるで、ベムラーの男と同じように、空間を跳躍したのだ。
鷹山は、全身の痛みに耐えながら立ち上がった。
彼の耳には、ウルトラマソの地響きが迫る音と、遠く南栗橋から聞こえてくる、クリハシ・クラッシャーの不協和音が、同時に届いていた。
「第二段階……。クリハシ・クラッシャーが、次のターゲットか……!」
鷹山は、燃え尽きたナナハンの残骸のそばで、新たな戦いの予感に、静かに拳を握りしめた。
次の展開について
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