第4話 クリハシクラッシャー登場!
十
鷹山トシキがゴカキックとショッカーのような怪人たちの戦いを見つめていた、その同じ夜。五霞からわずか数駅離れた、埼玉県との県境に近い南栗橋駅前で、別の悲劇が進行していた。
駅前のロータリーは深夜の静寂に包まれていたが、駐輪場の奥からは、呻き声と金属音が響いていた。
そこにいたのは、派遣の仕事を終え、終電を逃して途方に暮れていた田端
「おいおい、なんだこのモヤシ。金持ってんだろ、出せよ」
リーダー格の男が、田端の胸倉を掴んだ。田端は抵抗できなかった。彼もまた、大西と同様、社会の隅でひっそりと生きる、自己主張のできない男だった。
「す、すみません、もう、ほとんど…」
田端が財布を見せようとした、その時。
リーダーの命令で、仲間の男が、鉄パイプを振り上げた。
「うるせぇ!教育してやるよ!」
ガツン!
鈍い、しかし凄まじい音が夜の駅前に響いた。
田端の頭部に、鉄パイプがまともに叩きつけられた。田端は、痛みよりも先に、自分が地面に崩れ落ちていく感覚を客観的に感じていた。
しかし、その衝撃で意識が途絶える寸前、田端は感じた。
頭部の外傷からではなく、頭蓋の奥深くから、体全体へ向けて、何かが溢れ出すような、爆発的な圧力を。
十一
南栗橋駅前の監視カメラは、信じられない光景を記録することになった。
頭を鉄パイプで殴られたはずの田端は、血まみれになりながらも、起き上がった。そして、彼の肉体が、制御不能な速度で変質し始めたのだ。
彼の頭部を中心に、体全体が、粘液質な青黒い皮膚で覆われ始めた。四肢は不自然に太く、湾曲し、特に頭部は、鉄パイプの衝撃を記憶するかのように、いびつに肥大化していった。彼の目は、もはや瞳を持たず、ただの白い、濁った光を放っていた。
彼の口からは、人間の言語ではない、**「理解できないほどの不協和音」**のような咆哮が漏れた。
「な、なんだこれ!」
ギャングたちは、パニックに陥った。彼らが日常的に行っていた「暴力」が、目の前で「超常的な力」へと変貌したのだ。
南栗橋の怪物、あるいは**「クリハシ・クラッシャー」**とでも呼ぶべき存在は、まず、鉄パイプを振り下ろした男に近づいた。
その動作は、まるで酔っぱらいのように不器用だったが、その一歩一歩が、地面を震わせた。
怪物は、その男の頭上に立ち止まり、肥大化した頭部を、ゆっくりと男の顔に近づけた。
そして、まるで共鳴するかのように、**「グゥン」**という低周波の音を、怪物の口からではなく、肥大化した頭蓋全体から放射した。
男のギャングは、両手で耳を覆い、苦悶の表情を浮かべた。彼の目から、鼻から、耳から、細い血の筋が流れ出した。
物理的な暴力ではなく、「音と圧の暴力」。怪物は、彼が受けた「頭部への衝撃」を、エネルギー波として増幅させ、相手に跳ね返したのだ。
十二
同じ頃、五霞でバイクを走らせていた鷹山トシキは、南の空から立ち上る、別の「歪み」の波動を感じ取り、顔色を変えた。
「まさか、連続発生か……? しかも、これは波長が違う。五霞の怪物は**『怒り』と『甲殻』。だが、南栗橋のは……『破壊衝動』と『振動』**だ」
彼は、五霞でのゴカキックとの戦いを中断し、南栗橋への移動を決意した。ショッカーのような怪人たちは、ゴカキックの圧倒的な力に一時撤退していた。
「悪いが、ゴカキック。お前の相手は一旦預けさせてもらう。どうやら、この五霞と南栗橋の異変は、ただの事故じゃない」
鷹山はナナハンのエンジンを再び唸らせ、南栗橋駅へと向かって闇の中を加速した。
この二つの変身事件には、何らかの**共通のトリガー(引き金)が存在するのか。
そして、鷹山が追う、ショッカーのような怪人たち――彼らは、この「変身現象」**の裏で、一体何を企んでいるのか。
二体の怪物と一人の小説家(裏の探偵)、そして謎の組織が、夜の茨城・埼玉の県境で交錯し始める。
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