第22話 ダメな先輩たちが新鮮だった
やっと準備が整い、ジュースで乾杯し、バーベキューが始まった。
全員凄く腹が空いていたので、一気に焼いて、がつがつと食べる。
最初は焼くのが全然追いつかなかったけど、ソーセージが焼き上がったところで、やっと一息。
焼き係の俺は、それまでは全く食べる間なんてなかった。
「ヒロシの分、皿に取ってあるから、食べて。私が変わるよ」
里見先輩が、チキンを切り分け、キノコと一緒にみんなに配ると、焼き場を交代してくれた。
「レモンを絞った、牛肉の塩コショウ焼き、美味しかったよ。もう少し欲しかったね」
俺に向かってそう言う里見先輩に、
「ほら見ろ。やっぱりそうだろ」
緒方先輩が自慢そうだ。
五百グラムしかないから、一人一口だった。いや、言い換えよう。
皆、百グラムを一口で食べていた。
里見先輩が気遣って、俺の分を皿に取っておいてくれなかったら、一瞬で消えていただろう。
「チキン、パリパリで美味しいです。ローズマリーとニンニクが食欲をそそる。里見先輩って料理がうまいんですね」
「ヒロシこそ、良くローズマリーなんて知ってるね」
「家の庭に植えてあるんです。大きくなっちゃって、刈り込むのが俺の役目なんで」
「そろそろ、ジャガイモが焼き上がるかな。ソーセージと相性ピッタリだよ。バター乗せるね」
ジャガイモが一個ずつ、目の前に置かれる。
ホイルを開けると、角切りの大きなバターを載せてくれる。それがジュワーっと溶けていく。
ハフハフしながら食うと、見た目通りすごく美味い。俺は醤油を貰って、少し垂らした。
「それ美味しそう、私のも掛けて」
里見先輩が皿をこっちに押してくる。それにも少し醤油を垂らしてあげた。
「ご飯は炊いていないけど、食べたい?」
落ち着いたところで、井上先輩が男たちに向かって聞いてくれた。
大きな骨付きソーセージを咥えて、今井先輩がうんうんと頷いている。緒方先輩もだ。
既に牛肉の塩焼きと鶏モモのハーブ焼き、ジンギスカン、ソーセージ、ハムは完食。
タレに漬けた肉は三分の二くらい残っている。
「ローストポークがいい出来よ」
そう言いながら、里見先輩が豚の塊肉をカットして、新しい皿に取り分けてくれている。
俺が買おうか悩んでいた大きな豚の塊肉は、ダッチオーブンでローストポークになっていた。
「ヒロシ、ソースは玉ねぎとブルーベリーと、どっちにする?」
「じゃあ、ブルーベリーの方をお願いします」
井上先輩が、こっちを見た。
「ヒロシってさ、こういう料理に慣れている感じだけど、家でよく出るの?」
「母が料理好きで、ローストポークは良く食べますよ。ブルーベリーソースは甘くて好きです」
「そうなんだ。お母さんの影響で料理が出来るんだね」
「大したことは出来ませんけどね。母に付き合って味見をしているだけです」
井上先輩と里見先輩が、緒方先輩たちを睨む。
「こっちの二人は食べるだけで、な―んにもできないからね」
そう言ってため息をつく。
「なぜか調理とは相性が悪いんだよな。でも、その代わりに肉を狩ってくる。そこには自信があるから」
今井先輩が井上先輩に向かって、必死に言う。
「先輩、何時代ですか?」
俺は珍しく突っ込んでしまった。
必死なのは、ひしひし伝わって来るけどなあ。
ほおっておくと、次回は無人島自給自足キャンプなんて言いだしかねない。
緒方先輩はツーンとして、知らん顔をしている。
「関係ないって顔していると、振られる、か・も・ね!」
その横顔に向かって里見先輩がゆっくり言うと、緒方先輩の顔色が変わった。分かりやすすぎるくらい動揺している。
「そんなこと……」
「あります」
横目で冷たく睨み付ける里見先輩に、緒方先輩がすがるような目⁉
何だろう。緒方先輩に好きな人がいる?
里見先輩の知り合いなのか?
「あの、緒方先輩、好きな人がいるんですか?」
「あ? まあな。片思いだけど」
「緒方先輩が、片思い!」
「ああ、ほっといてくれ」
「そう、ほっといてやってくれ」
今井先輩が助けに入った。
結局、肉は完食できなかった。ホクホクのジャガイモの後、醤油が香ばしいトウモロコシを食った。三人で1本宛てのそれが美味しすぎたのと、物足りなかったのとで、醤油味の焼うどんが食べたくなった。
それで腹がいっぱいになったんだ。
ご飯を炊いていた井上先輩は、怒りながらそれを冷蔵庫に仕舞った。
そして先輩たち二人は、井上先輩にこっぴどく叱られた。
その後、しばらく休憩してから花火をした。
海辺に行って、ロケット花火や、爆竹、蛇花火なんかの派手なのをやって騒いだ 後、手持ち花火で遊んだ。
皆で丸くなって、ちらちらする火花を見ていたら、少し落ち着くような、もの寂しいような変な気分になる。
大騒ぎした後だからかもしれない。
火が消えかかる前に、新しい花火に火を移す。
そして新しい一本がシュッと音を立て、勢いよく火を放出し始める。
それがやがて消えて黒い炭になる。その時間は短くて、なんだかせわしい。
花火を全部使った後、俺たちは海を見つめながら散歩をした。
夜の海は、波の表面に月の光を反射し、控えめにキラキラしている。きれいだった。
今井先輩と井上先輩は、もう少し散歩をすると言って、そのまま浜辺を歩いて行った。
緒方先輩は電話すると言って、その場に座り込んだ。
俺と里見先輩は、一緒にコテージに戻ることにした。
「夜の海って綺麗ですね」
「うん。そうね。昼とは全然違う顔になるんだね」
そのまま、特に話もせずに、ゆっくりとコテージに戻った。
「ヒロシ、コーヒー飲む?」
「はい」
リビングのソファに座って二人でコーヒーを飲み、「おやすみなさい」と言ってお互いの部屋に戻った。
満足したような、物足りないような中途半端な気分のまま、俺は眠りについた。
朝起きると、先輩たち二人は隣のベッドで眠っていた。いつ戻って来たのか、俺は全く気付かずに寝ていたようだ。
二人を起こさないよう、静かに起き出して、カレーを作ることにする。
カレーの匂いがコテージに広がると、他の皆が起き出して来て、全員がカレーを食べたいと言い始めた。
結局カレーを増量し、井上先輩たちに、ご飯と目玉焼きと味噌汁を用意してもらい、全員で同じ朝食をとった。
昨夜の肉の残りは、井上先輩と里見先輩が焼いてパンに挟み、サンドイッチを作ってくれた。これでやっと肉を全部使い切れた。
「ランチに焼肉サンド、良いね。これって俺達のおかげだよな」
「ほら、やっぱりさ、ちょうどいい量だったんじゃないか?」
よせばいいのに、二人は朝っぱらからそんなことを言い、再度怒られる羽目になった。料理に関することになると、いつもの有能さがどこかに吹っ飛んでしまうようだ。
思いがけない弱点だった。
スイカは全く手つかずだったので、管理棟のスタッフにプレゼントすることになった。
荷物を預け、午前中は併設されたアスレチック場で遊んだ。
緒方先輩たちはストレス発散のためか、猿のようにはしゃぎまくった。
女子の先輩たちは、
「ヒロシはこっちと一緒に遊ぼう。あれに付き合ったら危ないよ」
俺たち三人は、普通にアスレチックの遊具を回った。
そうやって思いっきり体を動かした後、管理棟で風呂に入り、ぎっしりと焼き肉を挟んだボリュームサンドイッチを食べた。
たった一泊二日だけど、いつもと違うみんなの様子をたくさん見た。そして凄く楽しかった。色々な事がキラキラしていたんだ。
これは一生の思い出になるかもしれない。俺はなんとなく、そう思った。
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