第19話 買い出しでひと揉め

「まず肉。それからその他ね」


 井上先輩が仕切って、精肉コーナーに行く。


 肉は、塊? 薄切り?

 俺が豚肉を両手に持って困っていると、里見先輩が両方取り上げてカゴに放り込んだ。

「何悩んでんの? 食べたいと思ったら、買う」


 豪快なご意見で……


 横で緒方先輩が、同じように肉のパックを持って悩んでいた。

「ユキ、肉って一人何グラムなんだ?」

「三百グラムくらい」

「ふーん?」

 そう言いながら、五百グラム入りのパックを四個入れた。


「ちょっと、肉の総量で三百よ。牛肉だけで二キロって、バカ?」

「男はもっと食うだろ。なあヒロシ」


 わからない。

 どうも緒方先輩もわかっていない雰囲気だ。


 ここは里見先輩に逆らってはいけない。オレの勘が告げる。

 だから黙って首を傾げておいた。

 里見先輩がパックを二つ戻し、代わりに鶏肉三枚を入れた。


 大きな骨付きソーセージ5本と、スライスしてもらったらしいハムを持って、井上先輩たちがやってきた。

「あっちにタレに付け込んだ肉があったけど、要るかな?」

「要るよな。今井」

「うーん。まあ、あれば食う」


 二人はいそいそと売り場に向かって行った。

 女子2人はハーブだのの調味料を選んでいる。


 結構すぐに、二人が戻ってきた。とても満足そう。

「ジンギスカンがあったから、それも買ってきた。500グラムだけ。漬け込んだカルビとロースは一キロずつな」


 あ、女子二人の目が吊り上がった。


「ちょっと。算数もできなくなったの。一人分で三百って言ったでしょ!」


 里見先輩がパックの牛肉と豚肉の薄切りをさっさと戻し、鶏肉を二枚入りに交換した。

「まだ野菜も果物もパンも買うんだよ。食べきれないでしょ」


「食べるよ。それじゃ足りないだろ。それに野菜なんか必要か?」


「じゃあ、じゃがバタもトウモロコシも要らないわけね」


 緒方先輩が白旗を揚げたが、塩味も欲しいと言う意見が通り、牛肉は一パックだけ追加された。


「朝は何食べる?」

「ご飯と味噌汁」

「パンと目玉焼き」

「カレーがいい」

「おお、いいな、俺も。ヒロシは?」

 うーん。見事にバラバラ。一つにまとめる気も、ないのか。


「俺は、じゃあカレー班に混ざります」

「じゃあ自分の分だけ、材料選んできてね」


 カゴ一個に収まらなくなった。

 目玉焼きの卵は6個入りだし、カレー用に豚肉の薄切りが戻され、ニンジンも追加。カレーうどんもいいな、と言い出してうどんも3玉。

 コーヒーは全員が三杯分必要だと意見が一致。

 何故かスイカも一玉入っている。


「ねえ、これ何人分なの?」

 井上先輩が呆れたように言った。


 その後、おやつと飲み物が追加された。

 会計した後、花火を物色し、ついでにビーチボールも買った。


 海に着くと、すぐに食品をキャンプ場の管理棟に預け、冷蔵庫に保管してもらった。

「着替えて三十分後に、ロビーに集合ね」


 着替えに三十分も掛かる? という疑問は口にしない。

 二年前に海に行ったときに教わったのだ。


「女子はね、日焼け止めを塗ってお化粧して、髪型を変えたりしないといけないの。忙しいんだからね」

 そう言って説教を食らった。

 

 だから無心で待つ。

 緒方先輩も今井先輩も、その頃から待ち慣れた雰囲気だった。

 待ちスキルが女慣れの証かも。

 俺は、ポチだな。ご主人様を良い子で待つ。

 男三人は五分で着替え終わり、ロビーの椅子に座ってぼんやりとしていた。


 うわっ。ご褒美……来た。 

 めっちゃ、目の保養。

 周囲の目は、二人の美女に吸い寄せられている。

 二年前と違って、二人共、美少女というより美女。


 白いビスチャタイプのビキニの上に、ピンクの薄いパーカーを着た里見先輩。 文句を付けるところが無い。

 全身が引き締まっていて、しなやかだ。


 青いワンピース水着の井上先輩。なんだかセクシーなんですけど。

 背中が大きく開いているせいか、へその辺りが空いているせいか、ビキニより隠れているのにエロい。


 今井先輩が慌てたように駆け寄った。


「由美、なんか羽織れよ」

「うん。パーカー持って来たよ」

 のんびりと言う先輩に、今井先輩がパーカーを着せかけている。

 

 俺たちの前まで来ると、今井先輩は座っている俺をしげしげと見た。


「ヒロシ、大きくなったね。筋肉もちゃんと付いてるし。やっぱりあんたって鍛えがいがあるよ」


 まじまじと見られて身の置き所が無い。

 それに前に目をやれば、セクシーなへそが目の前に。


 いつもは頼りになる今井先輩に、なんとなく睨まれているし、俺は内心ジタバタしていた。


「ヒロシ、こっちに来て。これ持ってくれない」


 里見先輩が声を掛けてくれたので、すぐにそこから逃れた。

 ご主人様に猛獣から救われたポチの気分だ。


「由美、選ぶときにも言ったけどさ、その水着やっぱり、きわどいよ」

「いいじゃない。ビキニより布が多いわよ」

「うーん、布の量より、チラ見せの方が強いんだよね」

「だって、このメンバーなら別にいいでしょ。問題ないもん」

「……そう? かな」

「そうそう。誰か気にする?」


「しない」

 緒方先輩は即答した。


「する。俺はするぞ」

 今井先輩も即答した。真反対だけど。


「します。姉のセクシー水着なんて、弟の立場からしたら、勘弁して欲しい」

 今井先輩が、やっと睨むのをやめてくれた。


 井上先輩が、はっとしたような表情になった。

「確かに、そうかも」


 そして頬に手を置き、ちょっと考える風にしてからニコッとした。

「見慣れれば大丈夫よ。ね、ヒロシ」


 こんな姉がいたら、きっと色々と削られる。

 そして、こんな恋人を持つ今井先輩の度量はやっぱりすごい。大変そうだけど。


 海辺に着くまでも、海辺についても、俺たち一行は周囲の視線を集めまくった。

 見られ慣れている四人は、あまり気にしていないけど、今日は皆、水着姿だから、いつもより視線が強い。

 俺は少し離れて、四人を見てみた。


 目立つわー!

 そりゃあ、見るわ。

 裸に近いもん。

 体、綺麗だもん。

 先頭を歩く女子二人もだけど、男の先輩二人もいい体してんなあ。


 さっき井上先輩が、筋肉が付いたって言ってくれたけど、比較にならない。


 海辺でビーチパラソル二つとシートを敷いて荷物を置くと、まずは海に飛び込んだ。

「冷たい。それにしょっぱい」


 キャーキャー言いながら海の中で水を掛け合った。

 今日は天気が良くて日差しは強い。少しして水の冷たさに慣れると、それがとても心地よく感じられる。

 しばらくバラバラで泳いだ後、少し沖の方にある筏まで競争することになった。

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