プロローグ
第一節 黄金の庭で
──穏やかな風が、静かに吹いていた……。
………。
???「……ル……」
???「…アル……て…」
アル(………。)
???「アル……起きて!……の……よ。」
アル(んぅ〜……)
???
「アル、起きて!ご飯の時間だよ!!」
アル
「んっ………」
──少年は、ゆっくりと瞼を開ける……。
アル
「おはよぅ〜……"レオ兄"〜…」
レオ
「おはよう…。って、もう夕方だぞ。
ほら!早く起きて食べにいくよ!!みんな待ってるからさ。」
アル
「あれ〜…もうそんな時間…?」
アル
「ちょっと待ってて……あっ、あった。」
少年は…木のそばに置いてあった物を拾い、ポケットに入れる……。
レオ
「何してんだ……?早くいくぞ!」
アル
「待ってよ〜…。レオ兄ーー。」
そうして、走り出すレオの後についていく。
タッタッタッタ………
***
ガチャッ
──彼が扉を開き、中へと入ると…。
???
「……おっ?来たか…遅かったな。何かあったのか…?」
???
「どうせ、またアルが昼寝してて寝過ごしたんだろ?」
レオ
「その通りだよ…ルイ。ほんと、起こしに行って正解だったさ。」
ルイ
「やっぱりな!オレの考えてた通りだぜ!」
ルイ
「さて親父っ!!賭けは俺の勝ちだぜ?約束……守ってもらうぞ?」
???
「分かった…。確か、剣術の師が欲しいんだったか?もう少しかかるから、ゆっくり待っていなさい。
それと…ルイ、私の事は親父ではなく、ダグラス"お父様"と呼びなさい…」
ルイ
「別に良いじゃねぇか。
大して変わんないだろ?」
ダグラス
「返事は……?」
ルイ
「は〜〜〜い。」
ダグラス
「まったく……まぁ良い。アル、レオ、好きに座りなさい。せっかく用意してくれた物が冷めてしまうからな。」
レオ&アル
「は〜〜〜い。」
ダグラス
「お前達まで…」
ダグラスは手を顔に当てて、ため息をつく…。
???
「良いじゃ無いの微笑ましくて…、私は好きよ…?」
ダグラス
「レイファ……そうは言うが、……あの子達は将来、国を支える立場に就くんだ。
今からでも厳しくしておかないと、後々後悔するかも知れないだろう…?」
レイファ
「別に、まだ小さいんだし良いんじゃ無い?」
ダグラス
「……。まぁ良いか。どうせ、直に厳しい教育をするつもりだしな。今ぐらいは、好きにさせてやるか…」
そうしてこの夜も、当たり前のように、静かに耽っていった。
***
チュン…チュン……(鳥の囀る音)
──カーテンが、勢いよく開けられる。
???
「坊ちゃん。朝食のお時間ですよ。」
アル
「ん……?あぁ〜。マーサぁ…もう起きる時間……?」
マーサ
「えぇ。旦那様方がお待ちしております。ですので、お早めにご支度ください。」
アル
「うん。すぐいくよ。」
マーサ達に手伝ってもらいながら…すぐに支度を終え、エントランスに降りると、近くのドアの奥から話し声が聞こえてくる。
ルイ
「また寝坊か……?ほんとマイペースだなぁ…アルは。」
レオ
「多分…そろそろ来る頃だと思うけど…」
ガチャッ
ダグラス
「来たか…。アル…おはよう。」
レイファ
「良く眠れましたか……?」
アル(大きくあくびをして)
「うん……、よく眠れたよぅ…」
レイファ
「あらあら。まだお眠さんのようねぇ〜。ほら、座ってお食べなさい。」
アル
「分かったぁ……」
ルイ
「そうだ、おや…じゃなかった、"お父様"、剣の師匠についてなんだけど、見つかっ…見つかりましたか……?」
ダグラス
「その事なんだがな…」
ダグラスは神妙な顔をして…ルイを見つめる…。
ルイ(口調を戻して)
「見つかんなかったのか?」
ダグラス
「いや…そうじゃ無い。そうじゃ無いんだが……。少し、面倒なやつでな…。」
ルイ
「なんでも良いぜ!強くなれんならな!!」
ダグラス
「本当に良いのか?厳しい所の話では収まらないぞ…?あれは……」
レオ
「まぁ良いのでは無いですか?お父様。ルイも本気のようですし。」
ダグラス
「そうだな。だが覚悟しろよ、ルイ。生半可な気持ちではアレは認めてくれん。最悪…取り下げられる覚悟もしておけ。」
ルイ
「おう!!あっ……はい!誠心誠意…尽力致します。」
レイファ
「レオは…何か欲しいものとかは無いの……?私達、長男だからと言って、いつも貴方を蔑ろにしてしまっているでしょう?
だからご褒美をあげたいのだけれど……」
レオ
「今の所…特に無いのですよね…。本は、家にある物で十分ですし。学習内容も…既に高等部卒業レベルまで納めているので…」
ダグラス
「そう言わず、なんでも良いのだから言ってみなさい。」
レオ
「そう…ですね。ならば……アルのために、魔導書をいくつか頂けると嬉しいです。」
ダグラス
「お前はそれで良いのか?」
レオ
「はい。可愛いアルのためですから。」
レイファ
「本当に欲の無い子ねぇ〜〜。遠慮しているようにも見えないし…」
レイファは暫しの間考え込み、何かを思いついたのか…顔を上げる。
レイファ
「そうだわ!ケーキを作ってあげましょう。確か甘い物が好きだったわよね。」
「こうしては居られないわね。ちょっと作ってくるわ!!。」
厨房に行こうとしたレイファだったが、その進行方向に…一人の使用人が立ち塞がる。
マーサ
「なりません、奥様。そう言った事は、私共にお任せ下さいと…何度もお伝えしたはずですが?」
レイファ
「良いじゃ無いのマーサぁ〜。最近はあまり忙しくも無いのだし、少しくらい背伸びしても誰も怒らないわよ〜。」
マーサ
「ですから、なりません。」
レイファ(頬を膨らませる)
「ん〜〜。ケチ〜〜。」
二人の会話を他所に、レオは小声で話し始める。
レオ
「アル。そろそろ下町に行くかい?楽しみにしていただろう?」
アル「良いの〜〜?」
レオ
「あぁ…準備はもう整ってる。あとは行くだけだよ!」
アル「やった!!」
レオは席を立ち、アルの手を握りながらこう言う…
レオ
「それではお父様、お母様。僕はアルと先に…上がらせて貰います。」
ダグラス「ああ。それではな…」
レオ「ほらアル。行こっか。」
アル「うん!!」
そうして、二人は食卓を後にし、手筈通り裏門に集合する。
レオ
「…コール。守備は順調か?」
コール
「はっ!!街まで安全な護送をお約束します!その後につきましても、私共が気づかれないよう、常に周りを見張っております。」
レオ
「ああ。抜け目なく頼む。なにせ今日はいつもと違い…アルを連れていくのだからな。」
(走ってくる音が聞こえる)
アル
「……レオ兄〜準備出来たよ〜。」
レオ
「そうか。なら、そろそろ出発しよう。」
ガタッゴトッ……
***
──下町にて……
アル
「アレなぁに〜?レオ兄〜〜。」
レオ
「アレはねぇ〜美味しいお肉だよ〜。」
レオ
「欲しいのかい?アル。」
アル
「うん。食べてみた〜い。」
レオ
「分かった。それじゃあ買いに行ってくるから、ちょっと待っててね。」
レオはお付きの護衛に静かに目をやり、屋台へと歩いていく。
レオ
「おっちゃん。コカトリスの焼き鳥一つ!」
屋台のおじさん
「おう!!リオか!また遊びに来たのか?あと、焼き鳥一つな!了解!……ん?リオ…今日は弟連れか?」
おじさんは、リオの奥にいる子供を見てそう言う…。
レオ
「ああ。弟が焼き鳥を欲しがってな。買いに来たのさ。」
屋台のおじさん
「なるほど…そうかい!!なら、ち〜っとまっててな!!」
"二つ"の焼き鳥を、食べ歩きしやすい袋にいれ…レオに手渡す。
レオ
「…?おっちゃん。一つ多いんだが…」
屋台のおじさん
「オマケだよ!食べ盛りの子供なんだ。しっかり食べねぇとな!!」
レオ
「……ありがとう。貰ってくよ。」
(焼き鳥一つ分のお代を手渡す)
屋台のおじさん
「おう!!毎度あり!!」
レオ
「ほら、アル。買ってきたぞ。」
アル
「レオ兄ってリオ兄だったの〜?」
レオ
「ああ…それは、良くここにくるから、親しみやすい名前に変えてるんだ。」
アル
「そうなんだぁ〜じゃあ僕も変えた方がいい?」
レオ
「大丈夫だよ。僕が好きで変えてるだけだから、特に問題ないさ。」
レオ
「ほら、こうやって食べるんだよ。アル。」
そういうと、串部分を手で掴んで食べ始める。
アル「こお〜?」
レオ「ああ、そうだよ〜。」
アル
「…ゴクン。……わぁ〜美味しい!!」
レオ
「そうだろう?ここのはとびきり美味いんだ!」
「アル、ちょっと目を瞑ってて…」
そう言うと、レオはハンカチを取り出し、アルの口周りを優しく拭く…
レオ
「うん。これで綺麗になったね。食べ終わったし、そろそろ別のところに行こうか。」
アル「次はどこに行くの〜?」
レオ「お花さんが綺麗なところだよ。」
アル「お花さん〜?」
アル「行く!!」
レオ
「ああ、すぐそこだから、しっかりついてきてね。」
アル「うん!!」
***
ドンッ!(通行人とぶつかる音)
レオ「……?今のは……」
アル「どうしたの〜?レオ兄〜…」
レオ
「いや?なんでも無いさ。気のせいだったみたいだ…」
レオはアルに聞こえないように、護衛に声をかける。
レオ「コール、今の。」
コール
「はい…。歩き方が少しおかしいですね。重心がズレ過ぎている様に感じます。
おそらく…最近巷で噂されている、"違法薬物"の中毒者かと。」
レオ
「やはりな…一人、護衛をあの男につけさせろ。見失うなよ…?」
コール「はっ!」
コールが近くの一人に合図を送る。
アル「レオ兄〜。」
レオ「どうした?…アル。」
アル
「なんかさっきから…見られてる様な気がするんだぁ〜…」
レオ「……っ!?」
レオは驚いた様にしてあたりを何度か見回す。だがすぐにアルの方を見てこう言う…。
レオ
「多分気のせいだと思うよ。アル。さっさと行こうか…」
アル「うん。分かった!」
再び、アルには聞こえない声で話し始める。
レオ
「……。コール。帰ったらお父様に報告だ。もしかすると、ただの"違法薬物"では無いかもしれん。」
コール
「はっ。事細かに伝えておきます!!」
レオ「ああ。頼んだぞ。」
***
サァ〜……(風の音)
街のはずれにある、小さな花園でアルは目を輝かせながら喜んでいる…
アル
「わあぁ〜〜〜……。きれ〜〜。」
レオ
「そうだろう?お兄ちゃんのお気に入りの場所なんだ。」
レオ
「……。…思った通りか……」
──レオはそう小声で呟く。
アル
「どうしたの〜?レオ兄〜。」
レオ
「なんでもないさ。ただ、きれいだなぁっとね。」
レオ
「そう言えば、ちょっと前に…アルがポケットにしまってたのって何なんだ?」
アル
「ええ〜っとね!すっごくキラキラしてて綺麗だから…持って帰ったんだ〜〜!!」
レオ
「少し、見せてもらえるかい…?」
アル「うん!!良いよ〜〜!!」
──そういうと、アルは黒い石を取り出した。
レオ
「……っ!?」
「これ、お兄ちゃんにくれるかな?凄く気に入ったんだ〜。」
アル「うん!!あげる〜〜!!」
(アルは黒い石を手渡す…)
レオ
「ありがとう!アル!!お兄ちゃん…絶対大切にするよ!!………大切に…ね。」
──小さな布で黒い石をしっかりと包み、懐に慎重にしまった…。
レオ
「そうだ、聞き忘れていたけど…今日は楽しかったかい?アル。」
アル
「うん!!すっっごく楽しかったよ!!!」
アル
「また来ようね!!レオ兄!!!」
レオ
「ああ!また来よう!!」
──そうして、アルにとって初めての外出は、無事大成功に終わった…。
***
コンコンコンッ
コール
「公爵様、少々お耳に入れたい事が…。」
ダグラス「入れ。」
ガチャッ…
ダグラス
「どうした?アレについて進展があったか…?」
コール
「いえ、そういう事ではなく…」
ダグラス「……?」
(何かを包んでいる布を外し、その中から…黒い石が覗く…)
ダグラス
「黒い…石?いや、魔石か……」
コール
「はい。アルセリオお坊ちゃんがイゼルロット家の庭で見つけたらしく…レオール坊ちゃんが公爵様にお取次を…と。」
ダグラス
「なるほど……。少し、魅了の力を感じるな…。なぜこの様な物が我が家の庭に……?
それに魅了と言えば…」
ダグラスは少し考え込み、ようやく口を開く…。
ダグラス
「リリス……か。」
ダグラス
(……リリス。その名を口にするのは、何年ぶりか……)
──聞き慣れない名前が飛び出る…。
コール
「リリス……とは?」
ダグラス
「いや…。なんでも無い。それより、他に変わりは無かったか……」
コール
「"違法薬物"の影響を受けた様な男とぶつかりまして…。つけさせていたのですが…そこにも同じ様な物が……」
ダグラス
「なに……っ!?一つだけでも珍しいと言うのにこの短期間で二つも…それもこの領内で…?一体……何が起きようとしておるのだ…?」
***
ザーーーー………(雨の降る音)
ルイ
「あっはっはっは〜!!我が名は騎士ルイレクス也!世の悪を成敗し、平和をもたらす者だ〜〜〜!!!」
レオ(本を読みながら)
「その“ルイレクス”、さっきから三回もやられてるけど……何度でも蘇るのかい?」
ルイ
「ふっ、正義の騎士は不死身なのだよっ!!」
レイファ
「はいはい。騒がないの…。全く…こんなにビショビショにして。
風邪を引いたらどうするのよ〜?」
レイファはタオルを手に、困ったように微笑む。
パチッパチッ
暗い夜に暖炉の音と灯が…優しくあたりを包み込む……。
アル
「お父様〜。今日もあれ聞かせて〜。」
ダグラス
「ふむ、【勇者レオニダスの冒険記】か……。よく飽きないものだな。
……よし、少し待っていなさい。」
本棚から"黄金の剣士"の挿絵がある本を取り出し、椅子に腰かける。
ダグラス
「——では始めよう。第五章、《幻惑の塔》。
"かつて、栄華を極めた帝国に…天を突く程の、巨大な塔があったと言う……。
塔からは絶えず、
鐘とも声ともつかぬ不協の音が鳴り響いていた。
そして…その響きに触れた者は、みな、心を奪われる。
誰もが口々に語った。
『夢を見た。
甘く、甘美な……しかし、抜け出せぬ悪夢だった』と。
——その塔には、意思がある。
登る者を選び、覗き、取り込む。
ある者は言う。
“あれは、リリスの囁き”。
ある者は言う。
“あれは、帝国そのものの悲鳴”。
だが真実を知る者は……もう、この地上にはいない。”」
暖炉の音と、ダグラスの重厚な声だけが部屋に響く。
レオ
「……この話、いつもこのあたりで眠ってしまうんですよね、アルは。」
アル
「む〜〜。今日は寝ないもんっ……ちゃんと最後まで聴くんだからっ。」
ダグラス(くすりと笑い)
「ならば、お前が眠らないうちに、急いで読まねばな。」
(ページを捲る音が静かに鳴る)
レイファ
「……こういう時間って、いいわね。」
ルイは毛布にくるまり、火を見つめながら、小さく口を開く。
ルイ
「……レオニダスってさ、ひとりで全部背負っててさ。
ちょっと……レオ兄に似てない?」
レオは少しだけ目を伏せて、何も言わずに微笑む。
ダグラス
「ふむ……では続けよう。“第五章、第二節。”」
「……塔の最上層にたどり着いたレオニダスは、そこに"声なき者"の幻影を見た。
それは、かつて彼が守りきれなかった人々。奪われた未来。そして、過去の罪そのものだった——」
……と、ダグラスが語る声が、徐々に暖炉の音と溶けていく。
アルは目をこすりながら、それでも必死に聞こうとする。
アル
「……おとーさま……続き……ききたい……」
レイファ
「いいのよ。眠ってしまっても……ちゃんと、あなたの夢に届いてるわ」
レイファはそっと笑いながら、アルの毛布を掛け直し、ダグラスはゆっくりと本を閉じた。
ダグラス
「続きを聞きたいなら……また明日だな。なにせ、お前が一番の聴衆だからな、アル」
ルイは黙ったまま火を見つめ、レオはそんな弟たちを順に見つめてから、目を閉じる。
レイファ
「……この時間が、ずっと続けばいいのにね」
その言葉と共に、ページを閉じる音が、静かに夜を包み込んだ。
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