第3話 依頼は猫と掃除だけ

 肉の焼ける良い匂いが漂う部屋で、とある争いが勃発していた。


アルセリオ

「おい!レオ!!それ俺が狙ってた奴だろ!!」


レオナール

「そうだったのか?だが、今は俺の手にある…残念だったな。まぁ、次があるさ」


 美味しそうにレオナールが肉を頬張る。


シグルド(キランッ)

「これは俺がいただくぜっ!!」


 シグルドは二人が争っている隙に、しれっと肉を強奪する。


アルセリオ

「…あっ!!テメェ…漁夫の利しようったって、そうはいかせねぇぞっ!クソ親父!!」


シグルド

「ガッハッハ!!まだまだ負けんぞ?小童!!」


ルリ

「お兄ちゃん達うるさい〜」


カランカラン……


──探偵社の扉が開き…男が声を掛けてくる。


資産家の男

「あの〜ここで依頼を受けてくれると聞いてきたのですが…。」


ヒュンッ…ドンッ!!


資産家の男

「ひっ…。」


 一本の箸が彼の頬をかすめ、壁に深く刺さる。


アルセリオ

「うっせぇ!今食ってるだろ……って、レオ!!まーた奪りやがったな!?」


レオナール

「モグモグ…ゴクン。…見ていないのが悪い。」


資産家の男

「あの……うわぁっ!」


ヒュンッ…ドンッ!!


 もう一本の箸が飛んでくるが、すんでのところで首を傾けて避けた。


アルセリオ

「ちっ。まぁ良い…俺はこれをっ!」


シュッ…


シグルド

「ハッハァ!!横取り成功だZE!」


アルセリオ

「こんのクソジジィ!!!」


ルリ

「お兄ちゃん達…依頼だって。」


資産家の男

「依頼…を出しに来たんですけど…。また今度にしますかね…?」


ピタッ……


──その声に、3人は一瞬で固まる。


アルセリオ

「今…なんて…?」


資産家の男

「依頼があって来たんですけど…」


シグルド

「おいおい…。依頼だってぇ?自慢じゃないが、ここ最近は閑古鳥が鳴いてるのが当然なくれぇ依頼が来ねぇんだぜ?本当かよ…?」


資産家の男

「はい…やっぱり、また今度にしましょうか…?」


ルリ

「だから言ったじゃん…依頼だって。」


シグルド(笑顔で)

「こっちで遊びましょうねぇ〜ルリさ〜ん?」


ルリ

「あっまだ食べ終わって無いのに…」


レオナール

「上で食べようか。ルリ。」


アルセリオ

「それでは、少しお待ち下さい…お客様。準備をしてまいります…。」


ガタッゴトッ……ドカァン!


…ガチャッ。


 変な音がしてから少し経ち、ドアがゆっくりと開けられる。


アルセリオ

「どうぞこちらへ…」


 今まで見せた事も無いような礼儀正しい所作で、アルセリオは依頼人を小綺麗に片付けられた部屋へ案内する。


資産家の男

「あ…はい…。失礼致します…」


シグルド

「お客さん、お飲み物をお持ちいたしました…」


レオナール

「こちら…茶菓子になります。」


資産家の男

「ありがとうございます…」


アルセリオ(椅子に座って)

「それで…一体どの様な要件でご依頼を?」


資産家の男

「それが…とある古文書の捜索を依頼したくて…。大切にしていた物なのですが…最近、盗まれてしまいましてね…?困っていたのです…」


チッ……


 静まり返った一室に、小さな舌打ちのような音が響く。


資産家の男

「今…何か…。」


アルセリオ

「なぁ〜んでもございません…。ですが…私共は少々忙しくしておりましてね…?その依頼…お受け出来ないかも知れません…」


資産家の男

「そうですか…。お受けしていただけていたら…これくらいは、出させてもらうつもりだったのですが………」


 スッ……と、依頼人は大きなバッグを開け、とても大きな袋を取り出した。


 中には、大小様々な貨幣のようなものが入っているようだ。


アルセリオ(腕を両手で掴みながら)

「ぜひっ!!お受け致します!!!」


資産家の男

「でも、先程忙しいと…」


アルセリオ

「いえ…忙しいのは事実ですが、それはあちらのクソおや…シグルドさんにお任せするので、問題はございません。」


シグルド

「おいっ!俺に押し付け……」


ゴンッ……


 何かを言いかけたシグルドの後頭部を、思いっきり小突いた。


アルセリオ

「ほら!!頷いて下さいました。これで、ご依頼をお受け出来ますよ!!」


資産家の男

「そうですか。ではお願いします。あと…あちらの方は大丈夫で…?結構強く頭を打っていましたが…」


レオナール

「大丈夫ですよ?ああ見えて頑丈でありますので…。」


資産家の男

「なら良いのですが…ああ、こちら前金になっております。」


アルセリオ

(うっひょ〜〜!!いくらあんだ?コレ!?)


 決して表情には出さないが、アルセリオは見えない所で小さくガッツポーズをする。


資産家の男

「今何か…」


アルセリオ

「いえ、何でもございません。それではまた後日、細かい計画を…」


資産家の男

「はい!!それではよろしくお願いします!」


ガチャッ……


 そう言いながら、資産家の男は深く一礼し、その場を離れた。


アルセリオ

「行った……な。」


シグルド

「ああ、行ったな。」


レオナール

「……この金、何に使う…?俺は剣の新調を…。」


シグルド

「買うもんなんざ、酒以外ねぇだろぉ?」


アルセリオ

「何言ってんだお前ら。普通に貯金だろ。貰った側から使おうとすんな。」


レオナール

「だっだが、俺の剣は最近刃こぼれまでしてきて…」


アルセリオ

「"その剣"はな?レオが次々と新しいの買い込んでんの、知ってんだからな?俺。」


レオナール(しょんぼり)

「むっ……バレていたのか…。残念だ…」


シグルド

「俺最近頑張ってるし、酒ぐれぇ…」


アルセリオ

「じゃあ、テメェの口周りに付いてるそりゃ何だ?」


 アルセリオは、シグルドの口周りに付く泡のようなものを見て言った。


シグルド

「くっ!…こうなったら、お前の給料から天引きすっからな!?」


アルセリオ

「なら親父だけ夕飯は抜きだな。」


シグルド

「ぐはぁっ!?そりゃひでぇぜ…」


アルセリオ

「気分次第で部下の給料天引きする奴のがよっぽどひでぇだろ。職権濫用すんな。」


「さぁて、こんなくだらねぇ事は置いといて、ギルドに預けてくるわ。」


レオナール

「少しくらいくれても…」


アルセリオ

「安心しろ。一部分配はする。なに、ルーの将来のための貯金だと思え。」


シグルド

「そう言われると、文句も言えなくなるじゃねぇか…」


アルセリオ

「それが狙いだからな。」


 そう言いながら、アルセリオは袋を持って探偵社を離れ、残された二人はため息をつきながらルリの居る二階へと上がって行った。

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